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第22話 アルパカの戦術

前回勝利したアルパカとカルマの(パール)に対策を練られ、新とハルは敗北した。

「やったねカルマ!! 三勝目だよ!!」


 勝利したアルパカはベンチに座ったまま肉付きのいい尻でぴょんぴょん飛び跳ねている。


 隣に座った新からすると、その動きのたびに彼女の豊かな双丘がたゆんたゆんと大きく揺れているのが見えて目の毒だ。


「………まあ僕も勝てたのは嬉しいかな」


 相方のカルマもうっそりと暗い表情で微笑んでいた。一応喜んでいるらしい。


 勝利の快感に酔う者がいれば、当然敗北の屈辱にまみれる者がいる。


 今回は新とハルがその役回りであった。


「くっそ………! 完敗だ!」


 たゆんたゆんをさりげなく目で追いつつ、しかし新は本気で悔しがっていた。


 正直なところ前回の対戦を見る限り新は、ハルが有利なんじゃないかと思っていたのだ。


 一本勝負とはいえガードすれば即座に一本ということはない。


 ならば離れた場所から一撃を受けてもひたすら前進するハルが間合いを詰め、最終的に押し勝つだろう。


 そんな風に思っていた。


 しかし蓋を開けてみればこの様だ。


 たった一日を置いただけでアルパカとカルマはハル対策を完全に立てていた。


 まずハルを命中率度外視の射撃で牽制しつつ移動することで近づけさせなかった。


 そしてそれに伴いとにかく手数を増やして、少しずつハルから有効や技ありを取っていった。


 噴水の水による移動力の低下も効果的に使われてしまった。


 そして最後のあれだ。


 おそらく矢が尽きたのは本当だろうが、徒手空拳を構えたのはハルを誘うため。


 誘い込んだハルを投げ技で仕留めるための罠だった。


 ハルは、そして新も、まんまとその罠に飛び込んでしまったのだ。


 アルパカは手数重視の射撃で攻撃し続ければハルを倒す前に矢が尽きるということさえ計算に入れ、綿密な作戦を立てていたのだ。


「ぐう………、負けた………」


 ハルはやはり一方的にやられたのがショックだったようで、新のスマホに帰ってきても四つん這いの態勢で敗北を噛み締めている。


 いつも威勢のいい彼女がドヨーンと暗い表情で背中を丸めているのは、なかなか哀れを誘うものがある。


 やっぱり全部ハル任せじゃだめだ。


 新は痛感していた。


 勝つためには自分たちにも作戦が必要だと。


 だがハルは新の意見を聞く気は無さそうだし、あんまりうるさく言ってウザがられるのも嫌だった。


 今更ながら難しいニューマノイドと契約してしまったという実感が新の胸にしみじみと湧いてくる。


「ARATAさん?」


 顔をしかめてスマホを見つめている新を心配したのか、VRグラスを外したアルパカが彼の顔を覗き込んできた。


「あ、ああ。なにかな?」


「いえ苦しそうな顔をしてらしたので、おなかでも痛いのかと………」


「いや大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだ。それより」


 新は不安を押し込めて笑顔を作る。


「見事な戦いだったな。いつの間に投げ技を?」


 新が問うとアルパカはフヘヘと頬を緩めた。


「この間新さんたちとのバトルでコテンパンにされて、やっぱり接近戦はできないとまずいなと思ったので………」


 アルパカは今までためていたアビリティーポイントを使って『投技の才能』を、そして同じくスキルポイントを使って『一本背負い』を取得したのだそうだ。


「へえ~。そんなことが出来るのか」


 感心する新にアルパカは意外な顔をする。


「ARATAさんはまだハルの新しいスキルやアビリティーを取ってないんですか?」


「うん。まだゲームのことがよく分からないからね。とりあえずためとこうって感じで」


「なるほど。まだ情報少ないですもんね。SAIさんはもうキャラを強化されました?」


 アルパカが顔を向けるとSAIはビクッと一瞬震え、彼女から視線を逸らしながら「してない………」と低く呟いた。


 その無愛想な声音こわねときたら。


 新は思わず頭を抱えたくなる。


「そ、そうですか………」


 ほらアルパカも気まずそうにしているじゃないか。


「というかさ! そもそもこの手のアプリゲーやブラゲーって、知りたければ自分で検索して調べろみたいな放任タイプが多いと思わないか?」


 その気まずい空気を払おうと新は会話の隙間に思いついた話題を突っ込んでみる。


「確かにそうですね」


 アルパカがすぐさま話に乗ってくれた。


 SAIはあからさまにほっとした顔。


 いやお前に振った話題だったんだが? と新は思う。


「チュートリアルがついてるゲームは結構ありますけど、必要なことの半分も分からないことが多いですよね」


 アルパカが続けてくれた会話に新は頷く。


「まったくだ。公式ツイッターとかで質問には答えてくれるけど、装備の詳しい効果とかキャラクターの特殊能力の効果とかは全部書いておいてほしいよな。それによって戦術が変わってくるんだから」


「私も同意見です! 意外とそういう詳しい説明が抜けてるゲーム多いですよね」


 うんうんと緩くウエーブした髪を揺らしながらアルパカ。


「私はデータをしっかり揃えてから戦術を練りたいタイプなので、そのあたりのデータがきちんと出てないと困っちゃうんですよね」


 なるほど、と新は納得した。


 たぶんアルパカはデータ分析が得意なタイプのゲーマーなのだろう。


 とするとアルパカの前でハルと口論したのは失敗だったかもしれない。


 アルパカはこの間のハルVSカルマの対戦だけでなく、新とハルの口論からもハルの戦闘スタイルの情報を得ていた感があるのだ。


 これからは彼女の前でハルのデータを漏らすようなことは避けた方がいいかも知れない。


 特にスキルやアビリティーの情報が漏れるのは厳禁だろう。


 今回の戦闘でアルパカがカルマに覚えさせた『一本背負い』が勝負の決め手となったように、スキルやアビリティーは戦闘の趨勢すうせいを決する場合があるのだから。


 そこまで考えて新はハッとした。


 アルパカはゲーム仲間だ。


 その子に対してデータを漏らさないなんて。


 そんなに自分は勝ちたいのだろうか?


 自分ではそこまでムキになっている気は無いのだが。


 でも………、と新はスマホの中でしょんぼりしているハルを見て思う。


 こいつにこんな顔をさせたくないな。


 それだけははっきりしていた。


・・・・・・・・・・


 しかし新とハルは次に戦ったSAIとの一本勝負でも負けた。


 そしてSAIはアルパカとの対戦でも勝利を収めた。


 シンギュラリティー・オブ・ハーツ、サービス開始から四日。


 新とハルの勝利数はまだ僅かに一つ。


というわけで今回は戦闘分析回といったところです


こういう敗因を分析して次の戦いに生かすというのも、ゲームの大きな楽しみではないでしょうか


次回はスマホゲームにはつきものの『ガチャ』回になります


お楽しみに~d(*^v^*)b

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