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第20話 彼女のカルマ

 自然の摂理に呼ばれて席を立っていたSAIが帰ってきたので、新とアルパカは改めて対戦することになった。

「では私は観戦させてもらうとしよう」


 SAIからの観戦申請を承諾し、アルパカ・カルマのパールと、新・ハルのパールの対戦が始まろうとしていた。


「ふっふっふ! 今回もコテンパンにしてやるわ!」


 前回勝ったためハルは自信満々だ。明らかに調子に乗っている。


 そしてカルマはというと。


「なんで対戦なんかしなきゃいけないんだ。みんな死ねばいいのに………」


 何やらすっかり(うつ)っぽくなって、両膝を抱えて座り込みブツブツ呟いていた。


 それだけではなく容姿も変化している。


 黒髪の坊ちゃん刈りだったのが、髪色は青みがかったアッシュグレイに、そして髪型は前髪の右側だけを伸ばして片目を覆ったスタイルになっていた。


 服装も、白のセーラー帽に、白襟に紺のセーラー服と、同じく紺色のハーフパンツになっていた。


 ちなみにここでいうセーラー服とはJCやJKが着るセーラー服ではなく、水兵さんが着るようなセーラー服のことである。


「な、なんかカルマ変わったな」


 思わずつぶやく新にアルパカは我が意を得たり! とばかり身を乗り出し、瞳をキラキラさせながら解説する。


「そうでしょ?! カスタマイズ機能で髪色と髪型を変えたんですよ!」


「カスタマイズ機能か………」


 そういえばそういうのもあったなと新は思い出す。


 その機能を使えば、デフォルトで短髪に設定されているニューマノイドを長髪にしたり、髪色を自由に変えられるのだ。


 さらにアルパカの話によると、アイシャドウを加えたり、グロスを塗ったりもできるらしい。


 新はハルの容姿を気に入っているので、デフォルトのままにしていたのだが。


「そう言えば私も変えてないな。だがまあいいか、ラプシェはそのままでも十分かわいいし」


 SAIもそうだったらしい。


 アルパカの方には目線を向けず独り言のように呟いている。


 その間も新とアルパカの会話は続いている。


「でもあのセーラーは? デフォルトじゃないよな?」


 新の質問にアルパカはにゅふふ~と嬉しそうな笑みを浮かべた。


「あれは装備ガチャでゲットしました! 今この一週間限定でセーラー服祭りをやってるんですよ!」


「「セーラー祭り………だと?」」


 期せずして新とSAIの声が重なった。


 二人目線を交わしあう。そこには明確な共通認識があった。


 あとで回そう!


 ああ!!


 目と目で熱い意志を確認しあう。


 この世に生まれておよそセーラー服が嫌いな男など居ないのである。


 たぶん!


「うふふふふ~! いやあ、あのセットをGETするのは苦労しましたよ~」


 (とろ)けるような笑みを浮かべながら、アルパカはねっとりした視線をカルマに向けている。


 パシャリと音がした。


 どうやらスクリーンショットを撮っているらしい。


 新は使ったことがなかったが、SOHには自由に動画やスクショをとることが出来る機能があるのだ。


 パシャリ。


 その音にカルマはびくっとして体ごと顔を逸らしている。


「女の子用のセーラーばかりで男の子用のセーラーは二種類しか無かったからあれ何気にレアなんですよ」


 そんなカルマをパシャパシャと撮り続けながらアルパカが語る。


「でもどうしても欲しかったんで頑張って課金しちゃいました。でもその甲斐はありましたねえ。嗚呼ああ………、半ズボンセーラー、なんて素敵な………」


 うっとりと頬を染めるアルパカに若干引きながら、新は気になることを尋ねてみる。


「課金ってどのくらいしたんだ?」


「そうですねえ………」


 アルパカはしばし考え、


「初期登録ボーナスとかログインボーナスとかでもらった装備石が丸々残ってたんでそれも投入したんですけど、それでも二万は使いましたかね」


「二万?!」


 新は目を剥いた。


 微課金勢(あんまり課金しない課金ありゲームプレイヤー達のこと)の新ならそのゲームに飽きるまでに使う額も二万いかない。


 しかも現在はまだサービス開始四日目である。


「もしかしてアルパカさん重課金勢?」


 新は恐る恐る聞いてみる。


 ちなみに重課金勢というのはその名の通り多くのお金を課金ゲームに費やす人々のことである。


 しかしアルパカは「まさかあ!」と笑ってそれを否定。


「今回のガチャは私の好みにドストライクだったんで、持てる財力を集中投入しただけですよ! これでしばらくログボ石でしかガチャ回せなくなりました」


 ペロッと可愛らしく舌を出して見せる。


 新はなんとなく生真面目な印象を持っていたが、彼女はこんないたずらっ子みたいな表情もするらしい。


 しかし、それにしてもだ、と新は三角座りのカルマを眺める。


 髪型やら服装を変えただけでこんな風になるだろうか?


 一昨日見たカルマは、なんというかもっと明るい性格のように見えたのだが。


「ニューマの性格って変えられないよな?」


「そのはずだが………」


 SAIも同じことを思ったのか首を傾げている。


「私も不思議なんですよ。何かいつの間にか(うつ)っぽくなっちゃって………」


 アルパカはそう言いながらもまたパシャリとスクショを撮っている。


 ビクリ。


 その音に怯えたようにカルマは体を震わせ、縮こまる。


 おや? 何かカルマの様子が?


 疑念を抱いた新はある予感に恐る恐るアルパカに尋ねる。


「あのさ。さっきからスクショ撮ってるけど、それは昨日も?」


「え? はい。もちろん撮ってましたけど?」


 パシャリパシャリ。スクショを撮りまくりつつアルパカは何でもない事のように言った。


「昨日は360度あらゆる角度から、3600枚のスクショを撮りました」


「「それだ!!!」」


 思わず新とSAIの声がハモる。


「え? どれですか?」


 アルパカは小鳥のように愛らしく小首を傾げているが騙されてはいけない。


 新はビシッ!と彼女を指差し断言した。


「カルマが欝っぽくなった原因だよ!! その360度スクリーンショットが原因だ!!」


 アルパカは一瞬きょとんとし、次には笑い出した。


「まさかあ! そんなことないですよ! ほらこれなんかすごく良く撮れてますし」


 そう言いながら彼女が見せてくるスマホの画面を、「よく撮れてるとかそういう問題じゃないんだが」などと呟きながら新は覗き込んでみる。


 そこには何やらローアングルから撮られた足の写真が。


「ほらこれ! 半ズボンとソックスの間にできる膝小僧を含むこの部位! いいでしょ?! これこそ半ズボンの絶対領域ですよ!!」


 フンス! と鼻息荒くまくし立てるアルパカだが、新には彼女のキラキラした瞳が怖いとしか思えない。


 しかし彼女はそんな様子に気づかず次々とスクショを新とSAIに見せてくる。

 

 一枚目のカルマは髪型と服装こそ変わっているがまだ明るい表情だった。


 ちょっとはにかんだように笑っている。


 それが五百枚目を越えるあたりからひきつった笑顔になり、1000枚を超えたあたりでおびえたような表情になった。


 2000枚を超えると、もはやはっきり恐怖の表情となり、最後のほうはむしろ無表情。死んだ魚のような眼をしているスクショとなっていた。


 ホラー映画かよ、というのが新の感想であった。


「今日も帰ったら今度は帽子と靴OFFで360度から撮影会の予定ですよ!」


 シクシクシク………。


「もうやめて差し上げて! 泣いちゃってるから! ニューマにはまだ涙流す機能無いけど完全にすすり泣いてるから!!」


 慌てて新はアルパカを止めた。これ以上イケナイ。


「あんた苦労してるわね。強く生きなさいよ………」


 さすがのハルも不憫に思ったのか、カルマに気遣いの言葉をかける。


 しかしそれは逆効果だったようでカルマの泣き声が大きくなった。


「というか………」


 そこまで言って新はこれを聞いていいものだろうかとしばし躊躇した。


 しかしこれから友人付き合いするならば問うておかねばと思いなおす。


「………アルパカさんって小さい男の子が好きなの?」


 要するにショタコンですか? という問いであった。


「え?」


 新の言葉にアルパカは一瞬意外そうな顔をし、次には笑い出す。


「違いますよお! 私は二次元の半ズボン少年が好きなだけで、リアルの小さい男の子には興味ありませんよ~!」


「そ、そうなんだ………」


 新は曖昧な笑みでうなずいておくことにした。


 人これを愛想笑いという。


 人間には無くて七癖あるというが、アルパカにもとんでもない癖があったようだ。


「人の業………か」


 今はただカルマ君の幸せを祈りたい。



・・・・・・・・・・



 挿絵(By みてみん)



 というわけで人の業のお話でした(⌒-⌒)


 ちなみにずっとカルマのイラストを出せなかったのは、黒髪おかっぱバージョンの彼を私が描いていなかったから、という単純な理由です 


 一話しか登場しない見た目のイラストを描くモチベーションがどうしても出なかったんや・・・


 さて次回はハルとカルマの再戦ということになります 


 果たしてハルは再び勝利を得ることができるのか?


 乞うご期待ですd(*^v^*)b

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