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第19話 豆腐メンタル

 七花を玄関で見送った後、新はしばらくゴロゴロして時間をつぶし、SAIとの待ち合わせの時間よりかなり早く家を出た。


 公園にはすぐ行かず本屋に寄って、週刊漫画を立ち読みし、初めて入る定食屋で昼食のかつ丼を食べるとちょうどいい時間になったので、緑風公園に向かう。


 これでだいたい十分前には目的地に着くはずだった。


 それにしても、と新は周囲をなんとなく眺めながら思う。


 この辺りは本当に住みやすい土地だ。


 近くにスーパーもあるし、本屋も、床屋も、服屋も、病院まである。


 アルバイトも徒歩で行ける場所にしたし、おかげで新は未だに自転車すら買っていなかった。


 ちょっと歩けば必要なものはだいたいすぐそろうので必要ないのだ。


 新達がSOHをしている緑風公園も本屋があるこのあたりの目貫通りのすぐ近く。


 そんなわけで新は今日もぶらぶらと徒歩でSOHプレイヤーのメッカに向かう。


 そしてそれを見た。


 SAIとアルパカだ。


 二人はいつものベンチに二人仲良く座り、和気藹々と語りあっていた。


 ………なんてことはなかった。


 二人とも何故か己のひざのあたりを見つめ、無言。


 表情を岩の様に硬くしている。


 午後一時ごろに来ると言っていたアルパカはずいぶん早く来たようで、同じく早めに来ていたSAIと二人きりになってしまったということらしい。


 見回せば今日は平日ということもあって公園にいる人影も少ない。


 そんな中、二人がどんな会話を交わすのか興味をひかれた新はしばらくその様子を見守ってみることにする。


 おや? アルパカが何か話しかけましたね。


 すっかり観察モードの新の前でアルパカが動きを見せた。


 ちょっと硬い表情ながら微笑みを作り何やらSAIに話しかけている。


 しかしそこは人見知りの激しいSAIのこと。


 こくり、とおそらくは無言でうなずいただけで会話(?)終了。


 アルパカもそれ以上話題を繋げられなかったのか、再び膝頭ひざがしら見つめモードに入ってしまう。


 これはのんびり観察している場合ではないようだ。


 新はおっとり刀でその気まずい無言空間に侵入していく。


「よおっ! もう二人とも来てたんだなっ!」


 あえていつもより明るく気楽な感じで声をかけると、SAIもアルパカもあからさまにほっとした顔になった。


「やあARATA。来たな」

「ARATAさん、こんにちわ」


 二人とも笑顔である。新は思わず嬉しくなった。


 SAIとアルパカが自分を待っていてくれた。


 そして会えて喜んでくれている。


 そんな些細なことが現在友達ゼロの新には嬉しかったのだ。


 しかし。


「ところでARATAよ」


 唐突。SAIが深刻そうな表情で切り出す。


「私はしばしこの場を離れねばならない」


「え? なんでだ?」


 いま顔を合わせたばかりなのに、と新はきょとんとする。


 そんな彼にSAIはサングラス型VRグラスの奥の瞳を遠くし、あさっての方向を見つめながら言った。


「自然の摂理が私を呼んでいるのさ………」


 意味不明だった。


 新は意味を尋ねようとするが、そこで気づく。


 金髪の美青年がその頬に脂汗をにじませていることに。


 そしてその手が腹を押さえていることに。


 その一事で新は理解した。


 SAIはアルパカと気まずい二人きりタイムを過ごしたせいで、腹を痛くしてしまったのだ。


 何たる豆腐メンタル………。


 新は切なくなりながらSAIに重々しくうなずいてやる。


「分かった。自然の摂理にはあらがえないよな。行ってこい!!」


 SAIは弱々しく微笑むとせかせかした足取りで公園から出て行った。


 腹を押さえ背中を丸くして、おそらくは襲い来る大波に耐えながら………。


「はあ………」


 新と二人きりになるとアルパカは息を吐いた。


 彼女も緊張していたのだろう。


 そして眉をハの字にしながら意外な言葉を口にする。


「私SAIさんに嫌われてるんですかね?」


 新は彼女の隣に座りながら目を丸くする。


「は? いや、そんなことないと思うけど」


 即座に否定するがアルパカの顔は晴れない。


 緩くウエーブした髪をいじりながらぽそぽそと不安を口にする。


「でも私が話しかけてもほとんど口を開いてくれなくて。うんうんと頷いてはくれるんですけど、目も合わせてくれないし………」


 彼女はちょっと落ち込んでいるようだ。


 あちゃあと新は思わず天を仰ぐ。


 SAIがあまりに人見知りなためにこんな誤解まで生んでしまっているではないか。


「いや、違う違う! SAIは君を嫌ってるわけじゃなくて………」


 フォローしようとしてハタと言葉に詰まる。


 SAIがまともにアルパカと話が出来なかったのは、彼の人見知りと内気のせいだ。


 しかしこれをそのままアルパカに告げてしまっていいのだろうか?


 SAIはどうも自分の性格を他人に知られたくないと思っている気がするのだ。


 あの攻撃的な金髪。いかつい黒のジャケット。


 周囲を威圧してやまないサングラス型VRグラス。


 そんな彼のファッションも内気な自分を悟らせないため。


 まだSAIと付き合いが浅い新だが、そんな気がしていたのだ。


 そのようなわけで新は言葉に迷う。


 迷ってからアルパカにはこう告げた。


「………ちょっと無愛想なだけだと思うよ。ぶっきらぼうっていうか」


「そうなんですかね………」


 しかしアルパカの憂い顔は晴れない。


 もうひと押しが必要なようだ。


 仕方なく新はSAIの秘密の一つを解禁する。


「というか昨日あいつとメッセージしたんだけどさ、アルパカが加わってくれて嬉しいって言ってたよ」


「え?! 本当ですか?!」


 本当だ、と新は彼女に頷いてやる。


 事実メッセージ中の雑談で彼はそう言っていたのだ。


 ただこういう話は本人に伝えてしまうのはあまりよくないだろう。


 許せSAI。


 新は心の中で金髪の友人に謝罪した。


「そうですか良かった! 私てっきり嫌われてるんじゃないかと思ってました」


 やっとアルパカが笑顔になった。


 女の子の笑顔というのは良いものだ。


 秘密をバラした甲斐がある。


 目を細め白い歯を見せて笑う彼女は少し幼く見える。


 間近で巨乳美人に微笑みかけられて、新はちょっとドギマギしてしまった。


「さ、さて! じゃあSAIが戻ってくるまで一本勝負と行こうか!」


 僅かに赤くなった顔を誤魔化すように新は顔を伏せてスマホを手にSOHを起動する。


「あ、でもアルパカさんはSAIとフルバトルしたかな。HP残ってる?」


 HPが残ってないと勝負はできない。


「大丈夫です。SAIさんとはまだ対戦してませんから」


 それは意外な言葉だった。


「え? そうなの?」


「はい。ARATAが来るまで待とうってSAIさんはおっしゃってましたから」


「そうか………」


 先にSOHで遊んでいれば、もう少し話題が出来て、気詰まりな時間を過ごすこともなかったかもしれないのに。


 SAIの律義さに新はさっき豆腐メンタルなどと思ったことを後悔した。


「それなら俺達もあいつが帰ってくるまで待ちますか!」


「ふふふ。そうですね」


 ………というわけで自然の摂理に呼ばれたSAIを待つ間、二人は前回の対戦の話題でそこそこ盛り上がったのだった。


前々回のメッセージに続き、人とのつながりを主題にしたお話でした


ちょっと地味なお話が続いてますねw


次回はバトルに向けた前段階のお話になります だいぶコミカルテイストのお話になる予定です


そしてあのキャラのイラストがついに公開の予定です


お楽しみに~d(*^v^*)b

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