第15話 勝者と敗者
SOH開始二日目にして初めて勝利を収めた新とハルの組は、勝利の喜びを噛み締めていた。
「おお?! すごい! フルバトルに勝つとこんなに経験値がもらえるのか!」
リザルトウィンドウに表示された経験値の数字がどんどん上がり、ハルのLVが一気に数LV上昇している。
インテリアコインや、装備石もやはり勝った時の方が多くもらえるようだ。
そしてLVの上昇に伴って、スキルポイントやアビリティーポイントもかなり入ってきていた。
今使ってしまおうかとも思うが、新は結局ポイントをためておくことにする。
どんどん使ってハルを早く強化し、勝率を上げるというのも一つの手だ。
しかし新はなるべく効率的にハルを強化するため、やがてネットに出そろってくるであろうwikiの情報を見てから上げようと思ったのだ。
この手のLVUPと同時に成長ポイントが与えられるゲームの場合、当然LVが高くなるほどポイントは入手しにくくなる。
高レベルになるほどLVUPのために必要な経験値が増えLVが上がりにくくなるからだ。
だから情報を精査し、あとで「ここにポイントを使っておけばよかった!」などと後悔しないように効率的にポイントを使わなければならない、と新は考えていた。
こういったところ彼は慎重派だった。
「ふっふー♪ 初勝利よ! 気分がいいわね!!」
リザルトが終了しスマホに戻ってきてもハルはご機嫌さんで小躍りしている。
それは見た目より子供っぽい動作で、ツンケンしている彼女を見慣れつつある新には微笑ましく思えた。
一方。敗北したアルパカとカルマのパールはというと。
「ああーーーーーー!!! カルマの顔があああ?!」
昨日新も見た敗北後のボコボコフェイスに悲鳴を上げていた。
「すいません。負けちゃいました………」
申し訳なさそうに、タンコブと青タンが出来た顔で謝るカルマに、アルパカは長い髪を揺らし首を横に振って見せる。
「いいんだよ。………というか私の指示がまずかったと思う」
眉を下げつつアルパカは戦闘を思い返す。
「もう少し早く、あのいじめっ子キックからの脱出を指示すべきだった。私の指示が遅すぎたね。もっと早く指示していれば結果は違っていたかも」
意外と冷静に戦闘分析をしてみせるアルパカ。
頬に指を添えてむむむ!、と難しい顔をしている。
指示………か。
アルパカの横顔を見るともなしに見ながら新は思案する。
俺もハルに指示を出した方がいいんだろうか?
今までは様子見の意味もあって彼女の好きなようにさせていたが、これから勝っていくためには指示は必要な気がする。
でもこいつが俺の言うことを聞くかなあ………。
そんなことを考えながらハルを眺めていると。
「ん? なによ? 何か用?」
途端に不機嫌面になったハルが細い顎を突き上げて尋ねてくる。
その鼻っ柱の強そうな態度に新は少し躊躇するが、言うなら勝って気分がいいはずの今だよなと思い直す。
人は試合に負けた後の批評は受け入れにくいが、勝った後は意外とすんなり受け入れることが出来ると何かの本に書いてあった。
それがニューマに適用できるか分からないが、どちらにせよ気分のいい時に言った方がいいだろう。
「なあハル。ちょっと言いたいことがあるんだが」
「だから何よ。早く言いなさいよ」
相当せっかちらしいハルは、早くもイライラし始めている。
気難しい奴だと思いながら、新は彼女に一つ苦言を呈することにした。
「おまえさあ。いつも戦闘開始と同時に猪みたいに突っ込んでいくだろ? あれなんとかならないのか?」
その言葉が耳に入るやハルの眉がギューンと吊り上った。
「はあ?! 何か文句でもあんの? というか誰が猪よ?!」
あ、ちょっと言い方をまずったかと思いつつ新は続ける。
「いや、文句っていうか、あんな風に毎回突っ込んでいったら、相手からしたらいい的だろ? もっとフェイントを入れると」
「嫌よ」
言葉の途中でハルはばっさりと新の意見を切って捨てる。
今度は新が眉を吊り上げる番だった。
「はあ? なんでだよ?」
「そんなまどろっこしいことしなくても、ガーっといってぶっ飛ばせばいいのよ! 現に今日それで勝てたでしょ?」
「いや確かに今日は勝てたけどさ、それはたまたま相手の戦い方と相性が良かったというか」
「違うわ」
ハルは画面の中から新をまっすぐ見つめて言った。
「勝ったのはあたしが強いからよ! たまたまなんかじゃない!!」
それはあまりに不遜で、身の程知らずな言葉だった。
すでに三戦のうち二敗しているというのに、負けたことを忘れてしまっているかのような。
しかし新は呆れたりはしなかった。むしろある種の衝撃を覚えていた。
その自信満々な態度が、自分は強いと言い切ってしまう自尊がかっこいいと思ってしまったのだ。
彼女の自尊はまだ生まれたてと言っていいAIだから持ち得たものかもしれない。
だが新は、自分からはとうに失われてしまったものが、このハルにはある気がした。
………とはいえこれをそのまま放置しておくわけにもいかない。
ハルには現状を認識してもらわなければ。
「でも実際ラプシェには手も足も出なかっただろう?」
「それは………」
ハルが顔を悔しげに歪め僅かに言い淀む。
新はたたみかける。
「だからこれからは俺の指示が必要になってくると思うんだ」
「指示、ですって?」
新が半ば予想していた通り、ハルの眉が真ん中に寄った。眉間にはしわ。
気に入らないことがあるときの顔だ。
新はなるべく穏やかな声音を意識して淡々とハルに説く。
「そうだ。戦闘中のお前はいっぱいいっぱいだろ? だから戦ってる最中のお前が気付かないことを、俺がお前に教えるんだ。それが指示だ」
プルプルと肩を震わせているハルを覗き込むようにして、新は告げる。
「お前は俺の指示に従ってほしい」
「嫌よそんなの!!」
ハルが爆発した。
目を吊り上げ、髪の毛まで逆立てて思いっきり拒絶する
「あたしの戦いはあたしだけのものよ!! 誰の指示も受けない!!」
そしてぷいっとそっぽを向いてしまう。話はこれまでだと言うように。
そのもはや交渉不可な雰囲気に新は思わず頭を抱えた。
やっぱりこうなったかと思う。
………しかしなんというやつだろう。
ラプシェやカルマは当たり前のように指示を聞いていたというのに。
もしかして自分はとんでもないニューマノイドと契約してしまったのではないだろうか。
これからのことを思い、暗澹たる気分になる新だった。
あらすじでも書いていたハルの問題点が明らかになりました
プレイヤーのいうことを聞かないゲームキャラクター、ハル
これから彼女と新はどうなっていくのでしょうか
それは作者にもぼんやりとしか分かってませんw




