第14話 弓使いとの戦い
アルパカを名乗る巨乳女子SOHプレイヤーと対戦することになった新。
対戦申請を送り受諾されるとVRグラスの中の風景がVRに変換されていく。
現実とほとんど変わらない精細な3D画像。
昨日ハルがぶつかったことによって破砕されたベンチは修復されていた。
あの調子でベンチを壊したら公園からベンチがなくなってしまいそうなのでこれでいいのだろう。
新がそんなことを考えていると視界の公園にハルが召喚されてくる。
ばさっと髪を払ったライオン少女は本日二戦目にもかかわらず戦意十分のようだ。
眼光鋭く対戦相手を睨んでいる。
視線の先にはアルパカの相棒だろう少年型ニューマノイドが佇んでいた。
二人のニューマは噴水を背景に向かい合う。
「カルマ! 頑張ってくださいね!」
新の隣。ベンチに座ったアルパカが、少年型ニューマノイドに声援を送る。
「は、はい!」
カルマと呼ばれた彼ははにかんだ笑みを浮かべて片手でガッツポーズして声援に応えた。
カルマは黒髪を坊ちゃん刈りとしか言いようのない髪型にした少年だった。
年の頃は12、13歳くらいに見える。
頬のラインがふっくらしていて、ぱっちりとした大きな瞳が可愛らしい男の子。
服装はファンタジー世界の狩人のような感じで、白いシャツに緑色のベスト。
そして同じく緑色のハーフパンツをはいていて、手にはイメージ通り弓矢を持っていた。
「弓使いか………」
新は思わず渋い顔になった。
ガチガチの近接型であるハルとは相性が悪そうに思えたのだ。
「今日はこれで二戦目! 今度こそあたしが勝つわ! むっふーーー!!」
にもかかわらずハルは意気軒高だった。
むっふー! と鼻息も荒く高揚している様子。
お前そもそも息してないだろうが、と新は思う。
今は二連敗中だというのに、こいつには不安とか弱気とか無いんだろうか?
………ないんだろうなあ。
「では私は観戦モードで見物させてもらうとしよう」
新の隣。黙っていたSAIが口を開く。
観戦モード? と首を傾げる新の視界に『観戦申請が来ています。許可しますか?』というメッセージ。
SAIの説明によると、どうやら近くにいる人間は観戦申請を送り受諾されることで、自分に関わりのないバトルを見ることが出来るらしい。
断る理由などないので新は申請を受諾。
それとほぼ同時に『Ready? Fighat!』の文字が表示され対戦が始まった。
戦闘モードはフルバトルだ。
「せやああああああーーーーーーー!!!」
開始と同時にハルが猛スピードで駆け出す。
すでに何回か痛い目にあっているのに性懲りもなく猪アタック。
それに対しカルマはどこからともなく現れた矢筒から矢を引き出し、落ち着いた様子で弓につがえ放った。
「こんなのっ!!」
ハルは顔面めがけて飛んできた矢を、十字にクロスした両腕のガントレットでガード。
カン! と乾いた音がして矢が弾かれる。
ダメージは極めて軽微。
ハルは防御したために少しスピードを落としながらも、そのままカルマに突っ込んでいく。
「わ! まずい!」
カルマは慌てて矢をつがえ第二射を放つ。
その矢はブッスリとハルの腹部に突き立ち、猛獣のごとき進行が止まるが、すでに獲物は目の前。
第三の矢が放たれる前にハルはお返しとばかり少年の腹に前蹴りを叩き込む。
「うあっ!!」
あんまり緊張感のない悲鳴を上げて、カルマの体がくの字に折れる。
下がった頭部にハルは追い打ち。
ごついガントレットをはめた両腕を組み合わせ、思い切り振り下ろす!
「がっ!!」
カルマはたまらず地面に叩きつけられ、「カルマ!」とアルパカからは悲鳴。
しかしハルの連撃はまだまだこれからだった。
「ふははは!! この時を待ってたわ!!」
それは嬉しそうに歓声を上げると、彼女は嵐のような片足キックをカルマに雨あられと浴びせる。
いわゆるストンピングというやつだ。
「ひい! いたっ!! やめっ!!」
頭を抱え亀のように丸まって攻撃を耐えるカルマに対して、
「この! このこの! このこのこのこの!!!」
ハルは悪鬼のような表情でストンピングストンピング!
カルマの体の下あたりに表示されたHPゲージが見る間に減少していく。
年端もいかない少年を情け容赦なく足蹴にするというあんまりな光景に、
「いやああああ?! なんてことするんですか?!」
新の隣でアルパカがキッ! とまなじりを吊り上げ、涙目で睨みつけてくる。
「いやー。そう言われても………」
新としては引き攣った笑みを浮かべながら頭を掻くしかない。
新に抗議しても状況は好転しないと気付いたアルパカは、両手メガホンでカルマに叫ぶ。
「カルマ! とにかく逃げて!! 転がってでもなんでも逃げるの!!」
完全に防御態勢で回避どころではなかったカルマは、ハルに蹴り回されながらも頷く。
ストンピングの僅かな隙間を縫って横に転がり、なんとか恐ろしいラッシュから抜け出す。
そのまま転がるように跳ね起きて、必死な様子で足を動かしハルから距離を取ろうとする。
しかし、
「逃がさないわよ!!」
勝利に飢えたライオン娘がそれを放置するはずがない。
背中を向けて走るカルマに猟犬のように追いすがる。
そして十分な助走をつけたハルの体が宙を舞う!
「せやあああああーーーーーーー!!!」
気合一発。
両足をそろえた美しい空中姿勢のドロップキックが、ミサイルのようにカルマの背中に突き刺さる!
「がああっ!!」
美少年にあるまじき悲鳴を上げてカルマが文字通り吹っ飛んだ。
数メートルも宙を飛び、頭から地面をものすごい勢いで削っていく。
やがてぱたりと足が地面に落ちそのまま動かなくなる。
HPはちょうどゼロになっていた。
You Win!!
新のVRグラスに初めて見るキンキラのフォントと紙吹雪が舞い、
「勝ったあああーーーーーー!!!」
ハルの勝利の雄叫びが轟いた。
ハル初勝利!ヾ(≧∇≦)/ ・・・の模様をお送りしました
いやあ 初勝利まで長かったですね 14話までかかりました
でもあのハルの猪のような戦闘スタイルでは、なかなか勝利は難しいと思うんですよね
そしてこれからもそれは同じです
果たして新とハルはこれからどう対戦していくんでしょうか?




