第13話 アルパカ
SOHで一本勝負をした後アプリゲーの話題ですっかり意気投合した新とSAIは尽きぬおしゃべりを続けていた。
話題は様々なアプリゲーをまたにかけて次々と変わるが、お互い話に詰まることはなかった。
「あー、そっか。やっぱりゲリライベントで強化素材集めないとダメか」
「うーんそうだな。イベントの報酬でGETできる素材の数は限られているからな。のんびりやるなら構わないが、、早くPTの底上げがしたいならやはりゲリラクエストを回る方が………」
男二人むさくるしくくっつきあって、互いのスマホを覗き込み、だらだらと飽きることなく話し続ける新とSAIの元に、その時近づいてくる者がいた。
そいつはスマホを両手で持って胸にお守りのように抱き、おずおずとした様子で二人に話しかける。
「あ、あのお………」
「しかし体力回復薬が残り少ないんだよな。この間のイベでほとんど使い切ったんだ」
「それは困ったな。やはりのんびりやるか、いっそマテリアルで交換を………」
二人はそいつの小さな声に気づかず話し続けている。楽しそうだ。
そいつは根気良くもう一度声をかける。
「あのお!」
「それはありだが(うんぬんかんぬん)」
「だが石はとっておいた方が(うんぬんかんぬん)」
新とSAIはそれでも気づかない。
そいつはとうとう痺れを切らして二人が顔を寄せ合う空間に顔を突き出し、至近距離で叫んだ!
「あのっ!!!!」
「わっ?!」
「なっ、なんだ?!」
さすがに二人も驚いて顔を上げる。
SAIなどは驚きすぎてスマホを取り落しかけ「あわわ!」とかお手玉をやっている。
新とSAIに声を気掛けてきたのは一人の女性だった。
年の頃は二十歳ぐらいか、もう少し下だろうか。
ゆるくウェーブした背中まである髪。柔らかなカーブを描くフェイスライン。
赤い縁のVRグラスの奥の瞳は大きく、まつ毛も長く、まぶたはくっきりとした二重を描いている。
肌はしっとりしたナチュラルメイク。
唇には不自然にならない程度に淡いピンクのグロスを塗っている。
なかなかの美人さんであった。
服装はシンプル。白の長そでVネックニットにカーキ色の中央にボタンがついたロングスカートを着ている。
しかしそのVネックニットがえらいことになっていた。
ドン! と張り出している。
襟ぐりが浅いため胸元が見えることはないが、今にも生地が張り裂けてしまいそうなほどに、下から押し上げられている。
かつそれは彼女がわずかに動くだけで、たゆん! と重量感たっぷりに揺れるのだ。
そう。要するに彼女は巨乳であった。それもFカップはあろうかという。
新は内心「おお!!」とうなりつつ、現実ではスーとその見事な御山から目を逸らす。
思わずガン見してしまいそうになったのだ。
初対面の女子に対してそれは失礼であろう。初対面じゃなくても失礼だが。
それをどう受け止めたのか巨乳の彼女は訝しげに「あのお?」と呼びかけてくる。
「ああ、ごめん。何か用ですか?」
年下だろうと目星をつけつつも新は丁寧語で対応。初対面の礼儀だ。
「はい。お二人はSOHプレイヤーですよね?」
やっと話を聞いてもらえた彼女は安堵した表情を浮かべつつ尋ねてくる。
「あ、はい。そうですけど」
新が緊張からのちょっと硬い声で答えると、「良かった!」と彼女は顔を輝かせた。
「私もSOHやってるんです! 良かったら対戦していただけませんか?」
対戦………。
新は胸の内で呟きしかし怪訝に思う。
他にもSOHプレイヤーらしき人達がいるのに、どうして自分たちに声をかけたのだろうかと。
特にちょうど公園の反対側にいる女子三人組のグループなどは、この女性が混ざるのにちょうどいいのではなかろうか?
同性同士のほうが気易いだろうし。
しかし疑問には思うものの新としては対戦してくれるのは願っても無いことだった。
なにしろ今ちょうど唯一の対戦相手と戦ったところで、対戦は一人につき一日一回というシビアな制限があるSOHのプレイはこれにて終了。
あとは新同様内気で、他のプレイヤーに話しかけられないSAIとダベるしかなかったところなのだ。
そんなわけで新は「もちろんいいですよ!」と息急き込んで答えた。
そして、なあSAI? と同意を求める視線を向けたところで首をひねることになる。
さっきから一言もしゃべらないと思っていたら、SAIは黙ってうつむいていた。
髪とサングラスのせいで表情が見えないほどに。
そしてそれだけではなく見てわかるほどにカチカチに固まっていた。
ツーッ。その頬に汗が一筋つたう。
「えーとSAIどうしたんだ? 対戦嫌なのか?」
新が尋ねてやると金髪頭は激しく首を左右に振った。
「もしかして私お邪魔だったんじゃ………」
気遣わしげに眉をハの字にする巨乳女子の声にも小さく首を横に振る。
つうかしゃべれよ! と思わずSAIに突っ込みそうになった新は、寸前でSAIの言葉を思い出す。
『HP満タンなんだ。朝から来たものの、何か他のプレイヤーと波長が合わないというか遠巻きにされているというかこっちからは話しかけづらいというかなんというか………』
はたと気づいた。
そうか、だとすればこれは人見知り!
SAIは見知らぬ女性に話しかけられて人見知りをしているのだ。
夏休みや正月なんかに親戚で集まると一人ぐらいはいる、親の背に隠れる子供みたいだなと思い苦笑しつつ、新は未だハの字眉の彼女にフォローを試みる。
「あ、いやこいつちょっと風邪気味で! 染さないようにって思ってるだけじゃないかな?」
「え? でもあなたとは普通にしゃべっていたような………」
う! 意外と冷静な突っ込み! 新は慌てながらさらに苦しい弁明を連ねる。
「いや俺は風邪に強い体質だから! むしろ風邪の子だから!!」
新自身訳の分からないことを言いつつ、勢いドヤ顔で胸を張ってみせると、彼女はようやく、ふむ! と頷いてくれた。
「そうでしたか。私はてっきりお邪魔なのかと。そうじゃなくて良かったです」
そしてほわっとした笑みを浮かべる。
たぶん気を遣ってくれたのだろう彼女に便乗してうんうん! そうそう!と頷きまくりながら、新がほっと胸をなで下ろしていると、服の袖を引っ張られた。
見るとSAIが救世主を見る瞳で「感謝する」と囁いてくる。
新は大げさな、と笑い小さくサムズアップして見せた。
そして仕切り直し。
「では、対戦しますか!」
立ちっぱなしだった女性を同じベンチに招き、雑談の間外していたVRグラスをかける。
新がSAIと女性に挟まれる位置で、互いのスマホの通信を確立。対戦申請を送る。
「俺の名前はARATA。よろしくお願いします!」
となりに向かって頭を下げると、同じくVRグラスを掛けた彼女も微笑みながら応えた。
「私の名前はアルパカです。ARATAさんこちらこそよろしくお願いします!」
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アルパカ登場です アルパカの名前の由来はもちろんあのモコモコの毛をした不用意に近づくと唾を吐きかけてくるあれです
次はアルパカのニューマノイドとの戦闘になります 今までとまた一味違う彼女のニューマノイドとのバトルをお楽しみくださいd(*^v^*)b




