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第12話 一本勝負

SOH稼働二日目。朝からのバイトを終えた新は、再びSAIとSOHで対戦することになったのだが。

「おーいハル。対戦だぞ~」


 ホーム画面のニューマノイドに声をかけた新を迎えたのはこんな言葉だった。


「おっそい!! あたしはとっくに体力満タンの準備万全よ! さあ早く戦わせなさい!」


 フンス! と荒い鼻息を漏らすハルは、彼女の言うとおりタンコブも消えてHPMAXだった。


 戦闘好きな奴だ、と思いつつ新は「へいへい」と適当な返事をしながらSAIに対戦申請。


 受けたSAIは、相棒(パール)のロリ巨乳ラプシェと、


「今日も頼むぞラプシェ!」

「はい! 頑張ります!!」


 などと対戦前のやり取りを交わしている。


 その普通の会話が、まず罵倒から入ってきたハルを相棒とする新にはうらやましく思える。


「じゃあ今日もフルバトルで?」


 モードセレクト画面になって、新はSAIに尋ねる。


 SAIは細い顎に指を当てて「うーん」とひとくさり唸り、


「いや今日は一本勝負を試してみようではないか。一応ツイッターなどで概略は知っているがやはりやってみないとな。どうかね?」


 それもそうだと新は頷き一本勝負をタップ。


 昨日はバトルフィールドのローディングに結構な時間がかかっていたが、今日はあっさりと戦闘画面に移行。


 二人のニューマが緑風公園を模したバトルフィールドに現れ、 Ready Fighat!! の文字が表示される。


 それをスマホの画面で眺めていた新は、まだVRグラスすら掛けていなかったことに気づいて、あわててグラスとワイヤレスイヤホンを着ける。


「昨日はよくもやってくれたわね! ぶっとばーす!!」


 開始と同時に夜叉のようなおっかない表情のハルがラプシェに向かって駆けていく。


 すごいスピードだ。


 対するラプシェはハルの剣幕に「ひいっ!」と(おび)えつつも、昨日と同じくカウンター狙いの態勢でハンマーを半身に構え迎え撃つ。


「ふはは!! あんたの攻撃はすでに見切ったわ! 今日はあたしがあんたをぼこぼこにする番よ!」


 ハルはごついガントレットに包まれた両手をボクサーのように胸の前に構える。


 そして昨日と同じように襲い来るハンマーに拳を合わせていく。


 ハンマーを拳で弾くつもりなのだ。


「よし行けハル!!」


 思わず新も両の拳を握りしめて応援する。


 衝突する二つの影。そして、


「ぎゃんっ!!」


 見事にハルの顔面にハンマーがめり込んでいた。


 彼女の拳による武器弾きが失敗したのだ。


 まあそれはそうだよなあ。あんなのそう何度も成功しないわなあ普通に考えて、と遠い目になる新の前で、


 ギャン ギャン ギャン ギャン………。


 エコー付きの悲鳴をリピートしつつスローモーションでぶっ飛んだ金髪のニューマノイドが、背後にあった木製のベンチに叩きつけられる。


 盛大に木片をまき散らしつつベンチが破砕。


 木片の中に横たわるハルを背景に画面には、『一本!! 勝負あり!!』の文字が。


「ええっ?!」


 思わず困惑の声を上げる新を置き去りにさらにリザルトが表示される。


 どうやら早くも勝負がついてしまったということらしい。


「一本勝負というのは柔道や剣道の試合のように綺麗な攻撃が入ったら終了ということらしいな」


  自身も呆気にとられていたSAIが、サングラス仕様のVRグラスを指でくいっと直しながら推察。


「なるほど。じゃあ同じパールと再戦は?」

「いや。どうやらそれはできないようだ」


 新もSAIに再び対戦申請を送ってみようとしたが、フルバトルの時と同様『同じパールとは一日に一回しか対戦できません』というメッセージが現れただけだった。


 なんつうシビアな仕様になってるんだ、と新は思わず渋面になる。


 これならフルバトルにしておいた方が良かった。


 他に対戦できる人もいないし(というか声をかけにくいし)。


 しかも経験値やその他戦闘報酬もフルバトルの時より少ないようなのだ。


「うがああーーーー!! また負けたああ!! なんで一撃なのよ?! 納得いかないわ!!」


 新のスマホに戻ってきたハルもフラストレーションがたまったようだ。


 そして、


「えーと………」

「………………」


 新は思わずSAIと顔を見合わせる。


 お互いSOHを終えたら何を話していいのか分からないのだ。


 しかしまだ帰宅するには早いし、このまま黙っているのも気まずい。


 何か話題は、と周囲を見回した新の視界の端を赤く塗られた移動店舗が掠めた。


 昨日も見かけたホットドッグの移動店舗。今日もこの公園で営業中らしい。


 これだ! と新の頭に白熱電球が閃いた。


「そうだ! 何か食べませんか? あの店ホットドッグ以外にもいろいろ売ってるみたいだし!」


 店を指差してSAIに提案すると彼はポンと手を打ち、


「それはいい考えだ! 私もあの店が気になっていたんだ」


 と同意してくれた。


 二人仲良く連れ立って店舗までのわずかな距離を歩き、赤と白でデザインされたどこかのピザ屋を連想させる車体の前、カウンターに置かれたメニューを眺める。


 曰く、コーラやオレンジジュースなどの飲み物。


 看板メニューのオリジナルホットドッグ(これだけ大文字。どこがオリジナルかは知らない)。


 さらにソフトクリームなどもあるらしい。


 さっきおにぎりを食べたばかりの新はバニラソフトを、SAIはコーラを手にベンチに戻り、ポツポツとSOHの話題などを話しつつダベる。


 そして一時間後。


「え? マジ? SAIもあのイベ参加してたのか! あれほんと最悪だったよなあ?!」


「うむまったくだ! しかも運営の対応も悪かった。つまらんお詫びアイテムなどより無駄に費やした私の時間を返してくれと言いたい」


「それな!!」


 いきなり二人は意気投合していた。


 それというのも新がふとしたことで口にしたスマホゲームの話題のおかげだった。


 奇遇なことに新もSAIも同じスマホゲームをやっていたのだ。


 しかも一つや二つではなくいくつも。


 同じゲーマー同士これで会話が弾まないわけがなかった。


 さらに話してみると、二人は同年代。同い歳の25歳だと判明。


 一気に新とSAIの距離は縮まったというわけである。


「しかしSAIがあのゲームのプレイヤーだったとはな。案外レイドイベントあたりで共闘してたりしてな!」


「ありえるなそれは。今までリアルであのゲームのプレイヤーに会ったことなどなかったが、嬉しいものだなこれは!」


 二人は笑みを交わしあう。


 今まで一人でプレイしていたゲームが、SOHを触媒にして意外な繋がりを生んだ瞬間だった。


 良い雰囲気なので新はここで思い切ってみた。


「なあSAI。良かったら何かのSNSで情報交換しないか? あとここにSAIが来てるとき連絡くれれば俺も来れるかもだし」


 SAIはサングラスの奥の瞳を驚きに見開いた。


 すぐにそれは笑みに変わる。


「それはありがたい! ならSOHメッセージを使うのはどうだ?」

「SOHメッセージ?」


 新は知らなかったが、SAIが説明してくれたところによれば、SOHにはアドレスを交換したパールにメッセージを送る機能があるらしい。


 言われてよく見ればホーム画面のアイコンの中に封筒の形のものがあった。


「これか! じゃあ俺からメッセージを送るからアドレスを教えてくれるか?」

「うむ!」


 SAIからアドレスを教わると新はすぐにこんにちわとか適当なメッセージを送った。


 すぐさま『wwwwwww』と返信が返ってくる。


 何故草を生やしているのかは謎だが、これでSAIとのSOHメッセージのやり取りが可能になったわけだ。


「これからよろしくなSAI!」


「ああ! こちらこそ!!」


 二人は笑顔でグータッチを交わす。


 まさか25にもなってゲーム友達ができるとは思わなかった。


 新はじんわりと胸に湧き上がる喜びをかみしめる。


 これだけでもSOHを始めて良かったと思えた。


・・・・・・・・・・


 そんな新は気付かなかったのだ。


 この時二人のSOHプレイヤーに近づく影があったことを。


 そいつの胸でたゆーんと二つの果実が揺れた。


というわけで一本勝負と、新とSAIの親交を描いたお話でした


一本勝負は取得できる経験値も少ないのですが、一本で勝負が決まるためHP消費も少ないという特徴があります 一本勝負にはここに使い道があります それはまた後々のお話で活用する場面が描かれると思います


さて次回はまた新キャラ登場です たゆーん

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[一言] SAI氏、そんなに強面なんかよ...。
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