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第7話 初めての対戦

 バトルが始まった。その直後。


「うりゃあーーーーーーーー!!!」


 ハルが機先を制して駆ける。


 獲物を見つけた肉食獣のように猛然とラプシェに迫る。


 右手拳が強く握り込まれぐっと体側に引き寄せられる。


 どうやら拳骨で殴ってやろうという算段らしい。


「………」


 対するラプシェは無言。


 ちょっとおびえたような表情ながら、ハルをキッ! と見据え武器を構える。


 手に持つのは全長がラプシェ自身の背の高さほどもある巨大な鋼鉄のハンマーだった。


 柄だけでも相当大きいが、ヘッドの部分に至ってはラプシェ自身の頭二個分ほどもある。


 見ているだけで足がすくみそうな重量感と圧迫感を放つ武器だ。


 あれをまともに食らったらやばいぞ。


 新は息を呑んで突進するハルを見つめる。


 相手は猛進してくるハルに対し、ハンマーによるカウンターを決めようという考えらしい。得物を上段に構えず、少し短く持って体の横に構えている。


 さあ、どうするハル?


 フェイントを使うか、それとも直前で止まるのか。


 見守る新の前でハルは、………そのまま突っ込んでいた。


 フェイントも、一旦停止も何もなく、ただただ一直線に。


 当然ハルはカウンターの餌食になった。


 バゴッ!!


 すごい音がして「ぎゃあ!!」と色気もくそもない悲鳴を上げてハルが吹っ飛んでいく。


「ばっ」


 新は思わずベンチから腰を浮かせて声を上げる。ばかやろうと言いたかったのだ。


 そう言いたくなるほど、それはあまりに見事な玉砕であった。


 鋼鉄のごついハンマーに殴り飛ばされたハルはごろごろと地面を数回転もしてやっと停止。


「………やってくれたわね」


 むくりと起き上ったハルがラプシェをすごい眼光で睨みながらなんとか立ち上がる。


 だが足元がふらついていて、明らかにピヨッている。


「ラプシェ追撃だ!!」「は、はい!!」


 あまりに見事にカウンターが決まったためか、ハンマーを振り切った体勢で目を丸くし、固まっていたラプシェが、SAIの鋭い指示に再起動。


 ハンマーを構えなおしてハルに迫る


「たあああーーーーーー!!」


 上段からの打ち下ろし。これもハルはまともに食らった。


 意識が朦朧としていて回避できない状態なのだ。


 さらに振り下ろされたハンマーがぐんと持ち上げられハルの顎あたりを狙う。


 短く持ったことを利用した矢継ぎ早の連撃。


 これをハルは腕をクロスし、ガントレットのようなごつい手甲でなんとかガード。腕ごと弾かれながらも防御に成功する。


 しかし連撃はさらに続く。


 ラプシェは一歩踏み込み、ハルの腕を弾いた慣性で中空にあったハンマーを力任せに振り下ろす!


「そう何度もっ!!」


 ハルはその攻撃を後ろとびでやっと回避。そのまま数度後方に跳ねる。


 バランスを崩してたたらを踏みながらもラプシェと距離をとることにようやく成功した。


 ハルをとらえ損ねたハンマーは、ゴガッというような破砕音をさせて公園の石畳に打ち付けられた。


 石畳が砕けその破片が飛び散る。


 猫耳フードの少女が「うんしょ!」とか言いながらハンマーを持ち上げると、石畳には放射状の(ひび)と石が欠けたために空いた穴が出来ていた。


「おお! これはすごいな」


 新は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


 ハンマーの威力にではない。


 それは石畳が壊れたことに対するものだった。


 そしてなるほどと納得する。


 こういう破壊の演出をするために、わざわざ時間をかけて、バトルフィールドをフルCGで構築し直したわけか。


「ちょっと! どこ見てんのよ! 地面よりあたしを見なさいよね!!」


 自己顕示欲が強いらしいハルが文句を言ってきた。


 しかし、だ。


 ハルのHPは今の立ち上がりの攻防でいきなり半分近く減っていた。


「ああ、悪い。でもそれより劣勢だぞ? どうすんだ?」


 新の言葉にハルは不敵な笑みを浮かべた。


「どうするもこうするも、ぶん殴るだけよ!!」


 そしてまた一直線に駆け出す。真正面から。


 その様はまるでイノシシ。ハルは典型的な(ブル)武者(ファイター)だった。


 当然ラプシェはまたカウンターの構え。そこにハルが猛スピードで突進していく。


 また最初のような光景が展開されると思いきや、


「でやあああ!!」


 気合一発。


 ハンマーの振り下ろしと同時にハルが拳を突き出す。


 ガントレットに付属したグローブにあしらわれた、金属の拳ガードとハンマーが接触し、甲高い金属音と火花を上げる。


 その結果弾かれたのは何とデカい金属塊。ハンマーのほうだった。


 もちろんこれはリアルではありえない光景だ。このような場合普通は質量が大きいほうが勝つに決まっている。


 演出的アンリアルとでもいうべき、ゲームやアニメに特有の現象と言えた。


 ともかくハルはハンマーを弾きラプシェの懐に入ることに成功。


 体勢が崩れガラ空きになった腹部に渾身の左ストレートが撃ち込まれる。


「ぐうっ!」


 ラプシェが顔を歪め、ハルはさらに右ストレートを加えようとしたが、そうは問屋が下ろさなかった。


 ラプシェは苦悶に顔を歪めながらも、ハンマーの柄の突端、石突の部分でハルの背中を思い切り突いたのだ。


「ぐっ!!」


 寸前で右ストレートは届かず、パンチのために体勢が崩れていたところを力任せに突かれたハルは地面に叩き伏せられる。


 その時点でもう勝負はついたも同然だった。


「よし! そのまま止めを刺せ! 反撃を許すな!!」


 SAIの指示が飛び、ネコミミフードの少女が地に伏すハルに雨あられとハンマーの打撃を加える。


 何発かは横に転がって回避したが、ラプシェは指示通りハルを逃さず、何発目かの振り下ろしでついにハルのHPゲージが尽きる。


 You Lose


 VRグラスの内側に残念なBGMとともにどどめ色の文字が現れる。


 こうして新達は初戦闘に敗北した。


 ・・・・・・・・・・



挿絵(By みてみん)

ということで初バトルでございました いかがだったでしょうか? 


私としてはラプシェのハンマーが長い柄付きなのが描写するうえで結構難しかったです


ハンマーの使い方はモンハンをイメージして書きましたd(*^v^*)b

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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊迫感があり、初戦と言うことで小難しい駆け引きもなく楽しんで読むことが出来ました。 ハルのポンコツぶりもいい味を出しているなあ。
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