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太古の戦士、現る。

 現在、私たちは全員遊戯室の広い部屋に来ている。

 倒れた三人は治療済み。


 「じゃあ次はフェリス対勇者殿だな」

 「何でよ、私暇じゃないんだけど」

 「あの書類全部やってやるから」

 「蹂躙してくれよう。勇者だけと言わず纏めてかかってきなさい」

 「(チョロいな。そもそもあの書類はお前の仕事ではないとは言わないでおこう)」


 しかし勇者か。

 噂では特別な力を持っているとかなんとか聞くけど、実際はどうなのだろうか?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 side.勇者


 「……フェリス?どこかで聞いたような」

 「聖女様?どうかしましたか?」

 「いえ……フェリスと言う名前を、どこかで聞いた覚えがあるのですが、ハッキリとは思い出せず……」

 「こんな所にいる奴でしょ?絶対にまともな奴じゃないわよ」

 「まぁ確かに、ここはザンバルギアだし当然だろうけど……」

 「?勇者様はあの女性が気になるのですか?」

 「ガハハ!もしかしたらアイツが最後の仲間かもな!」

 「冗談じゃないわ!!」

 「そうそう、私が勇者の仲間になるとかありえないよ。大体私は獄中の身だよ?まぁ、ここから出してくれたら考えてもいいけど?」

 「アンタみたいなザコ要らないわよ!!」

 「おお、怖い怖い。さっきそのザコに一撃でやられた人が何か言ってるよ。さっさと掛かってきたら?お腹すいてきたし」

 「後程、何か食事をお持ちしますよ」

 「ありがとう出禁くん」

 「ホントに出禁何ですかッ!?」


 やっぱり、普通の人にしか見えない。

 犯罪者とは何かが違う……聖女様はどこかで名前を聞いたことがあると言っていたけど、一体どうしてここに居るのか調べられないかな?

 ……なぜ、僕はこんなに彼女の事を気にしているのだろう?


 「……もういいや。こっちから行くよ」


 彼女はそう言うと、下に落ちていた石ころを拾った。


 「みんなよく物とか壁とか壊すから、結構落ちてるんだよね。……ほい」


 そして、拾った石ころを指で飛ばした。


 「フンヌッ!!ガハハッ!こんな石ころ程度効かんわ!!」

 「へぇ、そうなんだ」

 「ぬ?ぐほぉッ!?」


 石がイサークに当たった直後、既に目の前には彼女が居た。

 そのままイサークの顎に膝蹴りを入れる。

 先ほどとは違い、動きが見える。

 恐らく、かなり手加減されている。


 「イサーク!!くッ、はぁあ!!」


 僕は腰に差していた予備の方の剣で斬りかかる。

 が、どこから出したのか短剣で受け止められてしまった。


 「……聖剣は使わなくていいの?」

 「この聖剣は、人間相手には使えないんだ」

 「そうなんだ。制約ってやつ?でも、私を人間に括れるのかな?」

 「どういう意味だッ!?」


 僕は剣に力を込めて押し切ろうとする。

 しかし、それも難なく抑えられ、鍔迫り合いが続く。


 「こういう事、」

 「こ、この魔力はッ!?」


 突然彼女の体内の魔力が急激に膨れ上がった。

 この辺り一帯を飲み込まんとする程の巨大な魔力だ。

 これほどの魔力、人間の体内に入っていて無事で居られるはずがない!!

 どうなっているんだ。


 「…ん?魔力が」

 「馬鹿ね、アタシの前で魔力を使うなんて」

 「魔力を吸収したわけね」

 「そういう事ッ!!自分の魔力で死ねッ!!」


 どうやらルートが彼女の魔力を吸い取ったようだ。

 その魔力は杖に集中している。

 そして、彼女に対して魔法が放たれた。


 「『フレイム・クレイモア』ッ!!」


 当たった!!

 ドラゴンにすら大きなダメージを与えた魔法だ。

 流石にやりすぎたか?


 「……え?」

 「うそでしょ?アタシの魔法が……」

 「うん、まぁ、うん。何とも言えないかな。これ位の魔法なら、使える奴はこの監獄に沢山いるよ。ま、その程度かな」

 「沢山いてたまるもんですか!!これ超級魔法よ!!」

 「禁術を使えるようになってから出直せば?」

 「なッ!?」

 「見本を見せたい所だけど、私は魔法は使えないからなぁ」


 そう言って、彼女は手の平に魔力を集中させた。


 「い、一瞬でなんて濃度の魔力をッ!!」

 「ふふん、これ、私の得意技なんだよね。この高速魔力圧縮が出来るのはこの監獄内では私だけだよ」


 そう言って胸を張る彼女はとても可愛らしいが、やっていることは常軌を逸している。

 純粋な魔力は扱いが難しい。

 それゆえに、属性を付与することによって制御しやすくしているのだ。


 「それじゃあこれ、あなた達に上げる」

 「へ?またいつの間に!?」


 またいつの間にか近くに居た。


 「プレゼント・フォー・ユー」

 「なッ!?」


 彼女は僕らの目の前で、魔力の塊の制御を放棄した。

 そして起きるのは、魔力の暴走、つまり……大爆発。


 辺りが眩い光に包まれる。


 そういえば僕たち……なんで戦ってるんだっけ?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「いえーい、ピースピース」

 「いえーい、じゃない!!どうしてくれるんだこの有様を!!随分と大人しく戦っていると思ったら最後にこれかあッ!!」

 「あ、約束通り、申請書の処理お願いしまーす」

 「フェリー―――ス!!!!」

 「逃げるぞ助手君」

 「らじゃー」


 すたこらサッサ。


 「ふぅ、追いかけて来ませんでしたね」

 「まぁ勇者が居たからね。放ってはおけないでしょ」

 「放っておいたら解体されるか人体実験の材料にされますもんね」

 「あんないい素材をここのマッドサイエンティスト達が逃す筈がないしねー」

 「……結局、勇者たちが探している仲間って、誰なんでしょうか」

 「さぁね。これ以上何かあっても面倒だし、しばらくは何処かで大人しくしていた方がいいかも」

 「ですね、一時的に部屋を変えますか?別棟に空いている場所がありますし」

 「それいいね、じゃあ行こう」

 「了解です」


 監獄内はこういう時にとても便利だ。

 荷物なんてそもそもないから引っ越しに手間がかからない。


 「どこに行きましょうか?一番住人が少ないのは南棟ですが」

 「みんな死んだからね。あそこまだ血の匂いがなぁ」

 「新人共から結構不満が出てますね」

 「気に入らないなら別棟の奴から部屋奪えば?って言っといて」

 「分かりました」


 気に入らないなら力ずく、と言うのがここのルールだ。

 前は私のやり方が気に入らないとか言って、結構襲撃されたものだ。

 特に夜はヤバかった。

 毎日どころか毎時で来るのだ。

 みんな暇すぎでしょ。


 まぁ、今はだいぶ減ったけど。


 ここでは、夜襲とか毒殺とかを卑怯とは言わない。

 死ぬ奴が悪い、ここに居る奴は誰もがそう言うだろう。

 数でボコボコにされても卑怯とは言えない。

 道徳なんてありはしない。

 やられる奴が悪い。

 そもそも、ここにはその程度でどうにかなるような弱者は来ない。

 そういう奴はここに来ることすらない。


 要は、ここに居る奴らは末期言われても仕方がないくらい頭がおかしいのだ。

 価値観がずれている。


 ……勇者たちは、恐らく『最後の仲間』とやらを見つけるまで暫くこの監獄にいると思う。

 きっと仲間を見つける前に心が折れるだろう。

 ここでは勇者の称号はロクデナシをたきつける火種にしかならない。

 勇者どうこう関係なく襲い掛かってくるだろう。

 様々な形で。


 まぁ、私が気にする事ではないか。


 「あ、引っ越しの前に食事に行こう。お腹すいた」

 「はい、では食堂へ行きましょう。今の時間は看守しか居ないと思いますし」


 丁度中央棟に居るので食事を済ませてから移動する事にする。


 「……ん?地震?」

 「揺れてますね」


 監獄が揺れている。

 しかしこの揺れは地震とは違うような……


 「……ヤバい!下から何か来るッ!!」

 「えッ!?ちょ、下ってまさか!?」

 「……地下監獄の誰かが出てきた」


 一先ずこの場を離れなければ。

 このままだと真下から出てくる。

 崩落に巻き込まれるのは勘弁だ。


 地下監獄、正直いつからそこに居るのか分からないようやつもいる。

 特殊な鎖でミノムシ状態にした上、魔法で封印を施してつるされている。

 一度見たことがあるが、あの化け物が二人とか三人とかで来たら間違いなく勝てない。


 実は、当初の予定では私は地下監獄行きだった。

 あんな全てに見放されたといっても過言じゃないような場所は二度と行きたくない。

 そんな場所から、今、誰かが出ようとしている。


 「これ掘り進んできてるね」

 「お、落ち着いてますね」

 「落ち着いてる訳ないでしょ」


 これから出てくるのは化け物だ。


 「ボ、ボス、今の内に逃げましょう!幸い、ここには看守が集まっていますし」

 「ダメ、申し訳ないけど、私はここを離れられない。理由は言えない。逃げるなら一人で行って」

 「……わかりました、私も残ります。戦うのでしょう?出てくる化け物と。正直かなり怖いですけど、居ないよりはマシでしょう」

 「は?死んじゃうよ!?」

 「死んだ奴が悪い。そうでしょう?」

 「……勝手にして。助ける余裕はないかもよ」

 「ご安心を、私がボスを助けます」

 「調子に乗るな」


 随分と強く言うようになった。

 会ったばかりの頃はただ言う事を聞くだけだったのに。


 こいつはこんな所に来るようなロクデナシだが、扱いを『部下』から『友人』にグレードアップしてやろう。


 「ッ!?今ボスの方から強烈なデレの波動が!!」

 「な訳あるか。気を引き締めといて」


 だが、人手が増えるのはありがたい。


 感じるのだ、強烈な魔力を。

 増悪さえも感じさせる程に強大な物だ。

 一体何に対してだろうか?

 何か地下の奴を刺激させる物が……まさか……


 勇者?


 だとしたら恨むぞザコ勇者。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!!


 「で、出てきましたッ!!ってデカッ!?」

 「巨人族……」


 巨人族、もう物語の中にしか出てこない伝説の種族だ。

 本当は実在しなかったんじゃないかとさえ言われている。

 そう言われてしまう程、もう長い間巨人族は見つかっていない。

 こんな所に生き残りがいたとは……


 「ユウシャァァァアアアアア!!!!!!!!」

 「やっぱりか」


 思いっきり勇者と叫んでいる。

 どうやって気付いたのかは知らないけど、厄介な事になった。


 「助手君!!予定変更!!ちょっとルスラン呼んできて!!」

 「ええッ!?あの変態をですか!?」


 悔しいが、今はアイツの力が必要だ。

 多分、アイツならこの怒り狂っている巨人を鎮める事が出来る。


 これは私のわがままだけど、出来るだけ殺したくはないのだ。

 可能なら、それ以外の方法で物事を解決したいと思ってるからね。

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