来訪者は助手よりも弱かった。
「はぁ、また新人が来た。最近多くない?」
「幸い、南棟が空いたので牢獄には困りませんが、この頻度で増えるのは異常ですね」
「……監獄長に聞いてみる?」
「えぇ、あのサボり魔当てになるんですか?」
「誰がサボり魔だと?」
「「ヒィッ!?」」
いつもの事だけど、いつの間にか部屋に入っているのが本当に怖い。
元暗殺者だって言われても納得するレベル。
……ここまで凄い気配遮断能力を持っている暗殺者には会ったこと無いけど。
「俺だって困っているんだ。どうやら、各国のお偉いさん方は、この監獄を『お金を払えば幾らでもゴミを引き取ってくれる便利屋』か何かと勘違いしているようだ」
「ご、ごみ……」
「ボスはゴミなんかじゃ無いですよ。元気出して下さい」
「そうだな、お前の様な名前も知らんゴロツキと違って役に立つからな」
「ザンバルギア大監獄に収容される程の自分がゴロツキですか…まぁ貴方からすればゴロツキと変わらないのかも知れませんが…」
「最近思うんだが、お前らはここに収容される事をステータスになると勘違いしてないか?」
「「え?ならないの?(んですか?)」」
「はぁ」
まぁ、確かにここは、一応無期懲役扱いの囚人しか居ないし、ザンバルギアに収容されるくらいやべぇんだぜ!って言う機会もないから、ステータスにする事は出来ないけども。
「というか、フェリスはそれを言っちゃダメだろう。いつも早くここから出たいと言っていたじゃないか。外でそんなことを言ったら立場か悪くなる一方だぞ?」
「……そうだった」
「ここの奴らの思考に染まりすぎだ、自称パン屋の娘」
「自称じゃないし!事実だし!」
「それを証明する術も、確認する術も無いんですよねぇ」
「黙れ助手、首にされたいのか?」
「そ、それはどっちのくびですか?」
「…………」
「ちょっ、黙らないで下さいよ!怖いじゃないですか!」
冗談だよ。
あっ、そういえば。
「監獄長、また何か面倒ごとを持って来たの?」
「まるで俺が面倒ごとを起こしているみたいに言うんじゃない。まぁ、問題が起こったのは確かだ」
「ほらやっぱり。イヤですよ、手伝うの」
「貸した風呂(ボソッ」
「うっ、」
「豪華な食事」
「うぅ、でもそれは仕事の報酬扱いで、」
「お前が狂気師を殴る際に壊した壁をモロという居もしない囚人のせいにでっち上げて本来懲罰房行きになるはずのお前を助けてやった恩」
「あああああああ!!!!やっぱり監獄長が仕組んだ!あんな猿芝居までして!」
「咄嗟の行動にして中々上手く出来たと思うが?何なら今から懲罰房に行くか?」
「くぅ~……わかったわかりました!手伝いますよ!」
「ボス、良いように使われてますね」
「首だけでも生きられるように出来る人知ってるんだけど紹介しようか?」
「首になれって事ですか!?」
まさか仕組まれたことだったとは……
「まぁ安心しろ。前回のように血で汚れる様な仕事ではない。めんどくささで言えば前回の比にならんがな」
「全然安心出来ないよ?」
「(今のうちに脱出を、)」
「まぁ待て、せっかくだ、今回はお前にも手伝って貰うとするか」
音が出ないように移動していた筈の助手君を監獄長が捕まえた。
「捕まったッ!?で、ですが自分は問題など起こさない無害な囚人なので拘束される謂れは、」
「無害な囚人って凄い言葉だね。パワーワードって言うの?」
「知らん、俺に聞くな。……ある程度なら報酬を出してもいいぞ?」
「美味しい食事をいただくことは?」
「別に構わないぞ(コイツら食事しか要求しないな。普段の至急される食事が不味いのか?)」
「ふふ、そのような問題など、もはや解決したも同然」
「「急に調子に乗り出した(な)」」
助手君、一度手伝ったら何かと理由を着けてまたやらされるよ?
まぁ私の負担が減るからむしろもっとやれって感じたけど。
「……で?起こった問題って何ですか?」
「あぁ、実は外から客が来る事になってな」
「客?」
「こんな世界中の汚物を集めたような場所にですか?」
「俺の監獄になんてこと言うんだ。まったく。でだ、その客が余りにも厄介でな。教国の勇者とその仲間、更に教国の聖女のオマケ付きだ」
「はぁ……は?何で?冗談にしちゃ笑えないけど」
「冗談ならどれほど良かったかね。何でも、『お告げ』とやらがあったようだ。この監獄に、勇者と共に戦う『最後の仲間』とやらが居るらしい」
「あんたじゃない?」
「貴方では?」
「さあな。仮にそうだったとしても俺は行かないぞ。世界を救うなんて御免だ」
それには同意だね。
そんな面倒な事をしている奴はかなりの変人だ。
「えっと、そのお客さん方はいつ来るんです?」
「今日だ」
「「えぇ……」」
「たまたま近くに居る時にお告げがあったようだ」
なんて迷惑な神サマだ。
祈りの代わりに呪詛でも送ってやろうか。
「ん?どうやら来たようだ。という訳で俺は戻る、じゃあな」
「……結局何を頼みたかったんですかね?」
「さぁ?何もしなくていいんじゃない?……修理申請の紙持って行ってくれなかったから、結局私がやらないといけないし」
「手伝いますよ」
「助かるー」
前から新人が入るペースが上がってきているせいか、申請書の量も増えてきている。
修理申請以外にも、薬(違法薬物じゃない方)や新しい囚人服といった物が案外多い。
そして何故医務室の備品の購入申請書がここに来ている!?
看守までここに書類を出し始めたか、仕事しろ!!
「あの、肩パットの申請って」
「却下、あんなダサい物付けてもしょうがないでしょ」
「ダサくないです!男のロマンですよ!」
「私男じゃないし」
「(´・ω・`)」
最近では何のために必要なのか分からないものが増えてきた。
監獄にある物で自作するツワモノまで現れる始末、看守にばれると没収されるようだが。
「……春画て、自分で書けよ」
「絵を描ける人って、結構限られてるんですよ?予約でいっぱいで……」
「……あっそ」
そんな男どもの事情とか知りたくもねぇ。
「この場合は情事では?」
「いや、相手が居ないから春画を望むんでしょ?男女が居ないと情事にはならないでしょ」
「それもそうですね……普通に話せますね?嫌がると思ったんですが」
「そりゃあ周りに殆ど男しかいないし、いちいち気にしてられない……って、嫌がると思うならやめてよ」
「恥じらう顔が見れるかなぁと……あっ!?待って!今の無しです!!私は何も言ってません!!」
「出禁ね」
「アァァァアアアアア!!!!!!どうか!どうか慈悲を!!」
「慈悲は無い」
「ぬおおおお!!!!」
「何を遊んでるんだ?仕事はどうした」
「「囚人に書類仕事させるな!!」」
いきなり現れた監獄長には特にツッコまず、仕事に対してツッコんだ。
いや、実は前にやらなければいいんじゃないかと思ってサボった事がある。
あれは酷かった。
監獄の修理などは看守たちが気付き次第やっていたので何とかなったが、それ以外が酷かった。
特に酷かったのは騒音だ。
時間問わず戦闘音が響くから寝られなかったのだ。
あの時は怒りで思いっきり暴れてしまった。
「まぁいい。勇者殿、こいつが現在ここの囚人をまとめているボスだ」
監獄長がそう言うと、一人の男が部屋に入ってきた。
黄金の装飾が施された白い鎧を身にまとい、盾を背負い剣を腰に掛けている。
鎧はともかく、剣と盾はかなりの物だ。
聖剣とかそういう類の物だろう、見たのは初めてだ。
勇者の後ろにも何人かいる。
看守とは違う、恐らく勇者の仲間たちだろう。
でも、何か……
「すっごく弱そう」
「え?」
「すまないな勇者殿。こいつは思った事を直ぐに口に出すタイプでな」
「失敬な。結構我慢してるよ」
「あの、本当にこの人が囚人をまとめているんですか?僕にはただの可愛い少女にしか見えませんが……」
「ハッハッハッ!勇者殿は冗談もお上手なようだ。コレが可愛いなどと」
「喰らえ、必殺万年筆」
「フンッ」
監獄長は私が投げた万年筆を人差し指と中指で挟んでキャッチした。
そしてもう片方の手で指を振ってきた。
煽ってるのか?お?
「監獄長、席を外してもらっても?」
「出禁くんか」
「その呼び方を止めてください!!勇者だか何だか知りませんが、ボスに対するなめた態度、黙ってはいられませんよ」
「助手君どうしたの?」
「いや、ちょっとくらい目立つ事をしておこうかと。何だか自分がザンバルギア大監獄に収容されている犯罪者であると忘れられそうで不安なんですよ。ちょっと悪者っぽい事をしてみようかと」
「おお!勇者に喧嘩を売るのは確かに悪者っぽい!」
「お前ら……」
まぁ私はパスで。
別に悪者になりたくないし。
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side.勇者
「えぇ、ど、どうします?何か喧嘩売られちゃいましたけど」
「適当にボコボコにしちゃえば?何ならあたしがやろうか?」
「ルートさんダメですよ?女性がそんな過激な言動をしちゃ。勇者様に嫌われますよ?」
「こ、こいつは関係ないだろ!!」
「ガハハ!なら俺にやらせてくれ!勇者とその仲間の力、俺が見せてやろう」
「貴方が代表ですか。少し不安ですね」
「聖女サマって時々キツくないか?まぁいいか。で?囚人に手を出しちゃ不味いか監獄長?」
「構いませんよ。放っておいても囚人同士で殺しあっているので」
「それって構わないんですか……」
何でみんな血の気が多いんだ。
……それにしても、あの書類の山が置いてある机にいる少女。
なぜこの大監獄にいるのだろうか?
よく知っている訳ではないが、犯罪者とは少し違う気がする。
しかし、この監獄で何かの間違いで収容されるなんてことはあり得ない筈だ。
何かとんでもない事をしたのだろうか?
とてもそんな風には見えないが……
「ふっ、どうしました?早くかかってきて下さい。私はここにいる連中の中では待てる方ではありますが、待たされるのは好きって訳じゃないんですよ。あまり遅いとこちらから行ってしまいますよ?」
「どっからでも掛かって来ていいんだぜ?やれるもんならやってみろ。何なら先手を譲ってやってもいいぞ?」
「……後悔しますよ」
「はっ!それはこっちの……あ?」
「イサ―クさん?どうしました?」
……ドサッ
「ッ!?イサーク!?」
「イサークさん!?」
「……死んではいません。気絶しているだけの様ですね」
何も見えなかった。
一体何が……?
「ちょっとアンタ!!卑怯な手を使ったでしょ!?」
「はぁ……愚かですね。ザンバルギアの本当の恐ろしさを知らない様だ。あまりにも弱すぎる、ね、ボス」
「え?ここで私に振る?まぁちょっとビックリするくらい弱いよね。助手君に勝てないどころか何をしたかすら気付けないなんて」
「え?あの、もしかして自分の事弱いって言ってるんですか?」
「強いの?」
「当たり前ですよ!!ボスの助手するくらいですよ!?この立場を手に入れるのにどれだけの馬鹿共を屠ったか」
「私の助手の取り合いで殺し合いが起きてる!?」
「ボスの助手には、常に挑戦者が現れますからね。殺されたら助手交代です」
「えぇ……」
何か目の前でとんでもない話をしている。
かく言う僕も、彼の動きは何一つ見えなかった。
「ッ!!今度はアタシがやってやる!!さぁシn「いい加減よそでやれ」うっ……」
「「ッ!?」」
「な、なぜ自分まで……ガクッ……」
ま、また、何も見えなかった。
今度はあの助手?と言う人も倒れている。
やったのは、あのボスと呼ばれる少女だろう。
いつの間にか真横に居るし……
ルートも一瞬の内に気絶させられてる……なんなんだここは……?
本当に、ここに最後の仲間がいるのか?