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事件の動機

 「というか、何で行方不明者が出たくらいで騒いでるの?いつもは死人が出たって無視してるじゃん」

 「無視はしていない。そもそも、ここに来るのは死刑では足りない程の罪を犯したものだけだ。死んだのならそれでもいいというだけだ。今の問題は、『この監獄の中で、誰が、何を、企んで何をしているか』だ」


 監獄内で何かを企んでいる事が問題って訳か。


 「うーん、まあまず調べる所っていったら……あそこだよねぇ」

 「南棟か?」

 「そうそう。ただあそこメンドクサイんだよね。入る度に殺し合いになるし」

 「あそこの連中をメンドクサイで済ませるお前はやっぱりおかしいと思うぞ」

 「……本当にヤバい奴らはあそこにはいないよ。あそこにいるのは、ただ殺しを楽しんでる変態かマッドサイエンティストだけだから」

 「俺から言わせてもらえば、ここに居る奴らは全員ヤバいぞ」

 「はあ、ホント、何で私ここに入ってるの?私被害者だよね?」

 「お前は国を一つ滅ぼしていることを忘れるな」


 あれはあいつらが悪いっていうのは言ってもしょうがない。

 やってしまった物はどうにもならないし、もう私の復讐は終わっている。


 「もうあんな事する気はないのに」

 「その気になれば国を落とせるというのが問題なんだ。そもそも、ここはそういう奴らを集める場所だ」

 「あのミスリルランクの冒険者共は?」

 「あれは人々から英雄と呼ばれる連中だ。そもそも、お前たちとは違って国を亡ぼしたり街規模の大量虐殺をしたりしない」

 「えー何それズルい。殺したのが魔物か人かの違いじゃん。むしろゴミを間引いた私の方が英雄でしょ」

 「英雄は笑いながら街の住人を殺したりしない」

 「……どうかねぇ」


 ホント、私の方が世のためになる事をしたと思う。

 私のお陰で人間同士の争い、つまり戦争が年間に行われる数が減ったのだ。

 ほら、実際に役に立ってる。

 パン屋の娘が大出世だ。

 今の身分は奴隷以下だけど。


 「というか、そんな化け物さん達を収容できてるこの監獄が一番ヤバいんじゃないの?」

 「偶然が続いているだけだ。お前のような化け物が脱獄を試みれば、この監獄は直ぐに壊されてしまうだろう」

 「どうだか。ここの看守たち、かなり強いでしょ?監獄長さんも。もしかしたらここの囚人全部を相手にしてもまともにやりあえるんじゃない?軽く国を落とせる戦力でしょ?」

 「ハッ、さてな。それで?まずはどいつを調べる?」

 「考えてない、全部回るよ。どちらにしろ、南棟に入ったら全部よって来るでしょ」

 「それもそうか」


 たまに、調子に乗った新人が南棟に乗り込んで肉塊になって発見されることがある。

 そういう事が起こると、また自分の実力を勘違いした奴があそこに入ってまた死んでいく。

 南棟で暮らしている変態どもにとって、そういう奴らは正に餌なのだ。


 「……臭い」

 「血の匂いだな」

 「それはいつもだけど、いつも以上に臭い。血を絞ってワザとまき散らしたみたいな匂いがする」

 「俺には想像も出来ない光景だな」

 「良かったじゃない。この匂いがまさにそれよ」

 「良くない……」


 南棟に近づくにつれて血の匂いは強く濃くなっていく。


 「これは早速黒か?」

 「どうだかねー、こんな分かりやすい事するかなぁ?」


 問題はそこだ。

 もし南棟で問題を起こしたのなら、それは隠す気が無いという事に等しい。

 直ぐにバレるに決まっている。

 仮にこんな大がかりな事をやるなら、こうして調査の手が伸びる前に事を起こしている筈だ。


 「着いたな。これは、吐き気を催すな。血の匂いは成れているつもりだったのだが」

 「はぁ、この匂いは暫く取れないかなぁ。まーた変な噂が立っちゃうよ」

 「この件が終わったら一度だけ風呂を貸してやろうか?」

 「え!?いいの!?ヤッター!!」

 「……開けるぞ」


 監獄長が南棟の入り口の大きな扉に手をかけ、ゆっくりと開く。

 そして、私たちはその光景を目の当たりにした。


 「……風呂だけじゃ足りない。美味しいご飯も追加で」

 「……いいだろう。どうやら、事は思ったよりも進展している様だ」


 南棟の中はメチャクチャになっていた。

 彼方此方に転がる肉塊、飛び散る血しぶき、所々に見られる戦闘の跡。

 極めつけは……


 「祭壇と、積み上げられた死体か」

 「悪魔の召喚でもやるつもりなのかな?」

 「邪神かもしれんぞ。しかし、よくもまぁ監獄の限られた資源でここまでの建造物を……」

 「関心してる場合?これ、他の棟も危ないかも」

 「何故だ?」

 「ほら、祭壇の下の魔法陣を見て。形が不自然じゃない?」

 「……そう言われるとそんな気がするな。未完成、というよりも、魔法陣の一部しかないような」

 「その通りだと思う。多分これ、監獄の中心を向いて作ってあるんだと思う。この監獄は綺麗な作りをしてるから、北棟、西棟、東棟、そして中央棟にもこれと同じ物が作られる筈」

 「それは困るな。大至急部下に通達しよう」


 喋り方は落ち着いているが、監獄長の頬に汗が伝っているのが見える。

 あまり魔法陣についての知識はない様だが、この規模の重大性には気づいている様だ。


 「はぁ、ヤダなぁ。この規模の悪だくみを出来るのは数えられる程しか居ないよ」

 「だろうな。……この魔法陣が何を表しているのか分かるか?」

 「さぁ……召喚系じゃないのは確か。それ以外は何とも……」

 「そうか。いずれにしても阻止しなければな」

 「……阻止しなければここから出られる?」

 「なんだと?」

 「何でもないでーす!」


 流石に冗談だ。

 そんな方法でここから出たって外で生きるのが辛くなるだけだ。

 逃亡生活はごめんだね。


 「で?私はどうする?待機?それとも別棟に急行する?それとも黒幕調査の続行?」

 「どれが一番動きやすい?」

 「んー、中央棟調査」

 「それは何故だ?」

 「黒幕さんが誰であれ、絶対中央に来るでしょ。魔法陣の起点が中央になるよう描かれてるし。仮に黒幕本人が来なくても、それに近い人物が来るでしょ」

 「複数犯だと?」

 「さぁ?多分一人。だから絶対に来る」

 「……そうか、なら任せるぞ」

 「祭壇がある場所、多分どの棟も似たようなところにあるから、あったら見張っといて。壊すのは無し、何が起こるか分からないから。無くても祭壇が作られそうな場所に待機、多分これが一番確実」

 「指示が出し終わったら俺も中央へ向かう」

 「早めに来てよ?どうなっても知らないから」

 「肝に銘じておこう」


 という訳で、ここからは別行動である。

 私はぴょんぴょこ高速ジャンプで移動する。


 パパっと終わればいいなぁ。


 きっと、そう簡単には終わらないだろう。

 何となくそんな気がする。


 「はいとうちゃーく。さっさと入りますか」


 中央棟には食堂や娯楽室など、そんな感じの基本的には誰でも使える共用設備が置いてある。

 後は懲罰房と地下監獄があるくらいか。

 地下監獄に関しては今回は無視して良いだろう。

 ちなみに、ここの懲罰房は地獄である。

 何せ娯楽施設のすぐそばにあるのだ。

 自分だけ閉じ込められて皆は遊んでいるという状況は中々くるものがある。


 「……誰もいないし何もない。後は大広間かな?」


 この時間は殆どの囚人が自分の牢屋の中にいる。

 待機時間だ。

 休息時間とも言う。

 この時間は自由時間の次に荒れる。

 流血沙汰が絶えないこの監獄では、狭い牢屋の中に犯罪者を数人閉じ込めて居るので荒れるのは当然だ。


 「なんだろう、凄くぞわぞわする。今すぐここを離れたい気分」


 大広間に入ってから、その感覚は明確な物になっていく。

 次の瞬間だった。


 「あっ!?」


 大広間に小規模なドーム型の結界が広がり、その中に閉じ込められてしまった。

 更に、そのドーム内から四本の魔力の線が私の手足に一本ずつ繋がり、身動きが取れなくなってしまう。


 「……もしかしなくてもやっちゃった?」

 「そう!君はやってしまったのだ!過ちを犯したのだ!」


 大きな声が大広間に響く。

 男の声だ。

 私はその男を知っている。


 「ルスラン……」

 「おお!僕を覚えていましたか!流石は囚人のボスですね!」

 「当然、貴方はそこら辺の問題児とは訳が違う。忘れる筈がないよ」

 「ヌフフフ!うれしーですねぇ!!」

 「…………」


 相変わらずキモイ。

 初めて会ったときからこんな感じだ。


 「しかしまぁ、あっさり罠にかかりましたねぇ。ちょっと拍子抜けですよ」

 「……あの魔法陣デタラメだった?」

 「気づきましたか!!そう!あれに意味なんて無いんですよ!!強いて言えばフェリスさんがここに何かあると勘違いをするような構造に工夫した程度ですねぇ。自分、魔法陣はうろ覚えなので」

 「あ゛あ゛~~」


 いろいろ頭で考えていたのが無意味だったとしり身体から力が抜けていく。


 「……で?私を捕まえてどうするの?」

 「聞かせてください」

 「へ?」

 「返事を聞かせてほしいのです」

 「……ごめん、なんの?」

 「ラブレターです」

 「…………」


 お 前 だ っ た の か !!


 「ちょっと予想外過ぎてヤバい。体中からいろいろなモノが出そう」

 「聖水ですか?」

 「その聖水という言葉が何を差しているのかは知らないし理解したくもないから黙ってて。……で、返事だけど、却下で」

 「……なぜです?」

 「この監獄に入っている時点で合格ラインから大幅に下回ってるよ」

 「グアァァァアアアア!!!!」

 「あと、何?あのド直球な手紙の内容」

 「き、気持ちは素直に伝えた方がいいとアドバイスをいただきまして……」

 「キモイ」

 「ニギャアアアアア!!!!!!」


 ルスランは顔を手で覆って大声を上げだ。


 「……そうですか」

 「…………えっ?まって、そのためにこんな大規模な事をしたの?」

 「え?そうですけど?」

 「…………」

 「…………」

 「……コロス」

 「なずぇでぃす!?」


 私は力任せに魔力の拘束をちぎる。


 「ちょちょちょッ!?それ素手で切っちゃいけない系の奴ですよ!?というかなぜ出来るんです!?」

 「フフフ、女には秘密が多いんだよ?」

 「ヒィ!!知りたくないぃいい!!!!」

 「頭冷やせぇえええ!!!!」

 「グホァァアアアア!!!!!!」


 私の腹パンをもろに喰らったルスランは壁まで吹き飛んで行った。


 「……はぁ、くだらな過ぎでしょ」

 「フェリス!!今の音はなんだ!?」

 「あっ、監獄長」

 「……あれは『狂気師』のルスランか?なぜ壁にめり込んでいる?おい、大丈夫か?」

 「モ、モロに腹を、殴られました……」

 「モロ?モロとは誰だ?フェリス、そんな囚人いたのか?」

 「あ、うん、もうそれでいいや」


 とまぁ、ザンバルギア大監獄とはこういう場所である。

 凶悪な超スペックの犯罪者が、周りの事を一切考えずに欲望に走る、それがこの場所が世界の終わりの具現とか言われたりしている原因なのだ。


 「早く出たいなぁ」


 私の夢は、いつ叶うのか。

 光り無き監獄に、答えは無い。


 なお、『モロ』という囚人が見つからず、事件は迷宮入りとなった。

 やっぱりここの看守たちは仕事をしてないと思う。

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