“無能”第二王子イリスの独白
“無能”第二王子イリスの視点です。
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一目見てなんてきれいな女の子なんだろうと思った。銀色の髪に綺麗な瞳に、整った顔。氷細工のような透明感を持った天使のような女の子だった。
僕はイリス。この国の第二王子である。
僕の母は正妃であるもう一人の母に比べ、身分も低いこともあり、同じ王族でも位が低かった。そして兄である第一王子のアレン兄さんはなんというか王族らしい性格で、ことあるごとに、「お前は俺の下だ。わきまえろ」「いい玩具だなもらうぞ。いいな?」「俺の代わりにこの課題をやっておけ」「次期王となる俺と呑気なお前では忙しさが違うのだ」と僕のことを露骨に下に見て、召使い扱いでこき使う。
これに不満が無いと言えば嘘になる。しかし、四六時中というわけでもなく、幼少のころからの暮らしと教えでそれが当然として育ったため、反抗すると言った気持ちは不思議と湧かなかった。
そんなある日、アレン兄さんの婚約者というシャルロットという女の子を紹介された。その美しさに心が奪われた。思えば、初めてこの日アレン兄さんに嫉妬という感情を抱いた。
そんな彼女はしばらくして王宮に通い始めた。王妃教育というやつだろう。毎日のように行われる厳しい躾や勉強。表情こそ変わらないものの、だからこそその痛々しさと危うさを感じ取っていた。
ある日彼女は王宮内の庭園にいた。偶然、出会った僕はそのあまりに痛ましい姿に、声をかけたら見る見るうちに不機嫌になった。
何かやってしまったのか?と慌ててご機嫌をとろうと
「氷姫ってあだ名なんだよね。アレン兄さんから聞いたよ。ぴったりなあだ名だね」と褒めてみた。まるで氷細工のように美しく可憐で儚げな彼女にぴったり、と思ったから。
そうしたらすっごい怒鳴られた。そうだよね。苦労もまともにしていないのに知った風な口きかれたり、露骨なおべっかしたらそれは怒るよ。
でも、それは勘違いで、その怒りが僕にではなく、まるで何かを耐えて苦しんで、それをただ僕にぶつけているというのがわかってしまった、僕は思わずシャルロットを抱きしめた。
「心臓の音って落ち着くんです。安心しますでしょ」
そう教えてくれたのは乳母のマリアだった。僕は子供のころ泣いていた時、マリアのその抱擁に何度安心させられたか。
だから僕もそれを真似て、慰めたのに、大泣きされた。何故?助けてマリア。
しかし、それ以降シャルロットは頻繁に僕に会いに来てくれた。嬉しい。あの一件ですっかり嫌われたと思っていたから。女心はよくわからないね。
シャルロットは冷たい少女に見えるが、その実感情は豊かだ。ただ、それを表に出さないだけ。最初は分からなかったが、今では喜怒哀楽全てわかるようになった。
そんな、ある日彼女は貧民について語った。彼女は勉強の際に自国で貧しいため餓えて死んだであろう者の話を聞いたという。彼女は悲しんでいた。今こうして贅沢できる生活しているのに、そんな可哀そうな人たちがいるなんてと。その哀しげな顔に僕は思わずこう言った。
「じゃぁ!2人でみんなが幸せになる国を作ろうよ!」
今思うとあまりに子供じみた約束。でも、その時シャルロットは満面の笑顔の浮かべながら「はい!約束しましょう」と約束してくれた。
その時の笑顔の美しさに僕は完全に魅了され、今日この時から彼女のその夢のために生きることを決めた。
とはいえ、僕には目立った才能はない。そこで国を支える下級貴族や平民、使用人を知ることに心を配った。そして僕は知った。彼らは身分こそ下でも下手な上級貴族より優秀な人材が多いこと、さらにそれが活かされぬ機会が多いことを。
そこで僕が行ったのは、人材紹介だ。簡単に言うと互いに必要としている人材を結びつけるというものだ。これが思いのほかうまくいった。立場が低いと言え「王族」という肩書は上級下級問わず、信頼してもらえる証明書となり、下手な見栄や誇りで下級貴族や平民に声をかけづらかった上級貴族も王族の紹介と言えば、何の抵抗もなく会えるようになる。こうして有能な人材はそれを活かせる人と関係を結び、その才能を発揮し、互いに豊かになっていった。
まぁ、最も僕のしたことなど紹介しただけだから、そんな誇ることでもないけどね。
それから大きくなった時、僕は貴族専用に学園に入学。皆のためにその紹介活動を引き続き行った。大変だけど、人と人と滞っていた流れがスムーズになり、何かしらの益を得るのを感じるのはとても誇らしくうれしい気持ちだった。
そんな中、僕は不穏な話を知り合いから聞く。兄さんとシャルロットのいる生徒会が荒れてきていると。兄さんは僕を馬鹿にして、話しすら聞かないのでシャルロットに話を聞くと・・・まぁ、ひどい内容だった。
アレン兄さんは色々な行事や案を提案しているが、その後放置。案件が溜まりすぎて、中には現実無視した案もあり、根回しも、手配もかつかつ。シャルロットは優秀だし、生徒会のみんなも優秀だが、この調子だと全てをうまく回すにはかなり厳しいだろう。
だから僕は名乗り出た。生徒会外の人物だが、同じ学園の生徒だ。協力するのは問題ないだろう。僕は問題点を見つけると知り合いにお願いし、依頼した。一人で無理ならみんなに協力してもらおうという考えだ。
とはいえ、彼らにとってはほとんど益のない話だ。引き受けてもらえるかと心配だったが「イリス王子には世話になってますから」「恩返しの機会ができて嬉しいです」「任せてください!」「何でもっと早く頼ってくれないんですか!」と皆快く引き受けてくれた。嬉しかった。こんなにも自分が認められている存在なんて。
でも、皆には少し後ろめたい気持ちがある。何せ、僕が頑張っているのは学園のためだけじゃない。横で共に作業に励んで、感謝してくれているシャルロットの笑顔が何度も見たいという個人的な理由もあるのだから。手が届かぬ兄の婚約者の喜ぶ顔が見るだけのために一生懸命になる。我ながら少し女々しいかな。
ある日、学園に激震が走った。
アレン兄さんがパーティー会場で大勢に向かってシャルロットの婚約破棄と一人の令嬢との婚約を高らかに宣言したからだ。僕もそうだが、みんなぽかんとしている。まるで意図が読めない。何考えているんだ兄さん?
聞く限りだとシャルロットは無罪だ。なのに婚約破棄を認め、会場からいなくなった。アレン兄さんは得意げな顔で新しい婚約者のキョウコさんという方を高らかに褒めちぎっているが、皆は騒然としている。これかなり大ごとなのでは?
数日後、僕は父に呼ばれた。そこにいたのはアレン兄さんとシャルロット、そして数名の護衛兵である。
話は当然、例の婚約破棄の件と王位継承の繰り上げの件だ。僕は王位継承の件は知っていたが、アレン兄さんは知らなかったようで大激怒。何か言っているが、これまたひどい。ここまで何もみていなかったとは。
しかも頑張ったシャルロットに向かって罵詈雑言。流石にムカッと来る。
その内、アレン兄さんは僕に矛先を向けた。
「イリス!貴様も何か言え!貴様のような男が王など不可能だ!今すぐ父上に王位継承の件を断れ!これは命令だ!」
いつもなら「はい」と頷くところだが、流石の僕も限界に来ていた。そしてことこの場において現状を見ないアレン兄さんに見切りをつけていた。
「兄上、俺は今までの10数年以上の生活で大勢の人々と触れあって気づいたんです。俺はこの国が好きなんだと。そして残念ながらこの国は国民全員が幸せになれる仕組みにはなっていない。だから俺は王になる。王になって、貴族だけじゃない、国民みんなが幸せになれる国を作りたいんだ・・・約束したからね」
そう、僕の根底にあるのは昔シャルロットとした約束。彼女は覚えてもいないだろう。でも、あの時の笑顔は僕は忘れていない。彼女がまた笑えるように、そしてあれから出会った身分を超えた大勢の友人たち。彼らのために、僕はこの国を継ぐことを決意した。
そこで予想外のことが起きた。
「イリス王子。私は貴方の力になりたい。もし許可をいただけるならば、私に支えさせていただけないでしょうか。私が持ちうるすべてであなたを王として支え、貴方が望む未来を叶えることをお約束します」
シャルロットが僕に求婚していた。
僕は混乱する。
え?すごく嬉しいよ?初恋だよ?確かにまだ僕には相手居ないよ?でもこんなに王族に振り回されて、まだ関わろうとしてくれるの?っていうか僕なんかでいいの?
王の地位が手に入り、初恋相手から求婚されるという思わぬ幸運に呆然としていたら、アレン兄さんは癇癪起こして勝手にどこか行ってしまった。
その後、しばらくしてアレン兄さんは貴族の人々相手に「王は俺に相応しい。力を貸せ。そしてあの卑怯な2人に思い知らせてやるのだ」と歩き回って自分の味方に誘っているらしい。頭が痛い。なんでこんなに現実を見ないんだろう。
聞くところによると妻となるはずのキョウコさんも流石に愛想を尽かして逃げたらしい。どうやらそれも僕とシャルロットが仕組んだことと思っているらしく、王宮にやってきて騒ぎ立てて、つまみ出された。そんな醜聞もあり今や誰にもまともに相手にされていないようだ。当然、僕とシャルロットの結婚話や僕の王位継承に影響は一切しない。
僕より才能があったはずなのに、どうしてこんなになってしまったのか僕はアレン兄さんのことを初めて心から憐れんでしまった。
補足として学力・運動面だけならばアレン王子はイリス王子より少し上です。ただ、人を見極め、見る目があるという点についてはイリス王子はアレン王子よりずっと上です。また、シャルロットの学力と実務能力は2人を大きく上回ります。
次はエピローグです。少々蛇足ですが、とある人の視点になります。