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“約束された次の王”第一王子アレンの独白

久々に書いた婚約破棄の物語です。

定番な物語ですが、別々の3人の視点で見ることで少し変化をつけた話にしました。すでに完結しており、全3話+エピローグの全4話の構成になり、毎日投稿します。皆さまにすこしでも面白いと思っていただければ幸いです。


最初は“約束された次の王”第一王子アレンの視点です

 一目見た時は何を考えているかわからない、なんというか不気味で面白みがなさそうな女だった。


 この国の第一王子であり、次期王位継承者である俺アレンに8歳の頃、婚約者ができた。

 その将来俺の嫁になるシャルロットという女を紹介された時、確かにきれいだが、ニコリともせずなんとも人形のように不気味な女だったのを覚えている。


 しばらくしてシャルロットは王宮に通うようになった。勉強はするものの、来るたびに他の女とお茶を飲み、毎日のように遊び惚けていた。俺が王になるための努力をしても「王子、もっと努力しなくてはよき王になれませんよ」などと努力もせず、お茶を飲んで遊んでばかりのくせに上から目線でねちねちものを言う。

 それでいつも丁寧に現実を教えてやると反省するのだが、すぐに忘れてまた調子に乗る。とにかく面倒な女だった。

 しかし、ある日急に雰囲気が柔らかくなってきた。ようやくこの女も次期王になる俺を敬うことを覚えたのかと、正直気分は悪くなかった。



 そして、15の頃、貴族専用の学園に入学した。ここは貴族ならば王族から下級問わず入学することが義務付けられた場所だ。王族関係者としては俺と弟のイリスが入学した。

 弟のイリスははっきり言うと無能だ。昔から勉強も運動も普通。覇気もない。恥知らずにも下級貴族と遊び惚ける。王としての資質を何一つもたない愚弟、それがイリスだ。

 もちろん、将来の王として学園で迷惑をかけるようなら、同じ王族だとしても俺は切って捨てるつもりだ。恥さらしの無能な王族など腐った果実でしかないのだからな。


 さて、そんな学生生活を始めると俺は教師たちにより生徒会長に任命された。まったく面倒なことだが優秀な者が先頭に立つことは義務でもある。俺は快く引き受けた。

 俺は生徒会に入り、シャルロットと優秀な何名かをメンバーに選んで執務に励み始めた。なお、生徒会のメンバーから弟のイリスは除外した。あいつは学園で見かけるたびに、平民や下級貴族達とくだらない話をしながら遊び耽っている無能だからだ。遊ぶのはいいがこちらに迷惑をかけねばいいのだが、まったく、同じ王族でもどうしてこうも違うのか。次期国王としては頭が痛い限りだ。


 そんなある日、俺は男爵令嬢のキョウコ=バイエルンに出会った。彼女との出会いはまさに運命だった。堅苦しく古臭いしきたりを壊し、新しい風を吹かせるその言動は斬新で胸がすく思いだった。

 だが、シャルロットは俺に嫉妬してか、とにかくうるさい。仏頂面してキョウコにも古臭くくだらないマナーとやらを押し付けるのだ。うざいにも程があるわ。


 シャルロットと取り巻きどもはキョウコを煙たがっている。キョウコは身分こそ低いが、役立たずではない。俺らに癒しを与え、それに華々しい素晴らしい意見を出した。それにより学園はより活性化していったのだ。身分でしか人を見ず、ネチネチ言う連中のなんとくだらないことか。

 そして、俺とキョウコが活躍する中、俺の才能に惹かれ、慕う貴族の生徒らが増えてきた。こいつらも生徒会のメンバーではないが有能な連中だ。将来、俺をサポートする役職につかせることになるだろう。

 こうして俺とキョウコが活躍し、人気を集める中、一人活躍の場と仕事を奪われた嫉妬かふて腐れている女がいるが、まったく子供ではないのだからそんなことでむくれないでほしい。


 だが、その内問題が起きたのだ。キョウコに不穏な影がまとわりついてきたのだ。

 無視をされる、大勢からつるし上げられる、あげくに明らかに故意と思われる“事故”まで起きたのだ。シャルロットの仕業だ。あの陰気女は、キョウコに八つ当たりしたのだ。無論自分の手でやったはずはあるまい。自分の配下の者を使ったのだろう。キョウコも「シャルロット様を見た様な・・・」「そんな噂が・・・」と呟くばかり。可哀そうに・・・下級貴族という身分でしか人を見ないとはな、もう限界だ。

 俺は決心した。これからの王族の伴侶に必要なのは肩書ではない、女としての器なのだ。これから迎える俺の時代の幕開けとしてあの女には大勢の前で罰を受けてもらうとしよう。そして皆に知らしめるのだ。新しい王が身分に関係なく認め、受け入れる器をもつことを。


 学園の関係者が集う学園屈指の大イベントのパーティー会場にて俺は皆に声をかけた。

「シャルロット=シャーウッド!キョウコ=バイエルン男爵令嬢を卑劣な嫌がらせをした罪により、婚約を破棄する!そして新たにキョウコ=バイエルンを我が次期妻として迎え入れることを宣言する!」

 その宣言をした途端。周りとそしてあのいけ好かない鉄面皮女の顔がぽかんと間抜け顔になるのを見て、すっきりした。まぁ、ショックだよな。王妃の道が断たれて。けど、これもお前の自業自得だ。少しばかり俺より優秀なだけで次期国王であるこの俺を見下し、たてついてばかりで挙げ句子供じみた嫉妬で俺や周りに迷惑をかけたのだからな。

 よほど、ショックだったのか、シャルロットは俯いて震えが止まらない様子だ。だが、可哀想とは思わん。むしろ良いざまだよ。この後泣き叫んで許しを請うかもしれんが、まぁ、俺も鬼ではない。婚約破棄以外の処罰だけはしないようにしてやろう。


 しばらくしたら、あの女はねちねちと反論したが、王子である俺とかわいいキョウコと陰険鉄面皮の氷女の言うことならば周りがどちらを信じるか言うまでもないだろう。うっとうしいので、俺が一喝するとあの女は俺の王の威圧に耐えられなくなったのか、ようやく婚約破棄を認め、顔を隠すようにして震えながら出て行った。

 はははっ!これで面倒なのがいなくなった!これで俺は次期国王としての新たな一歩を歩むことにある。俺は俺を愛してくれるキョウコの肩を抱き、俺を慕い、改めて俺の王としての器に驚愕するつき従う者達の顔を見て、これからの輝く未来を思い描いていた。


 だが、数日後

「アレン貴様を王位継承から外す。貴様は子爵の位に落とす。これからは一臣下として国に仕えよ。王は第二王子であるイリスが継ぐ」

 という父である国王の無慈悲な発言で泡と消えた。


「ど、どうしてです?父上!なぜ私がそのような目に!」

「わからんか?・・・本当にわからんのか?」

 じろりと睨む父の眼光に、冷や汗をかきながらも俺は何とか声を出す。

「き、キョウコとの結婚のせいですか?確かにキョウコは身分が低い!しかし、その慈愛ある心は王妃として十分な素質です。少なくとも、そこのシャルロットよりもです!それに父上。イリスに王が務まるとお思いか?こんな遊んでばかりの無能な男に!?」

「・・・はぁぁぁ」

 俺の反論は、父上の重い溜息でかきけされた。そして父上は静かに語り始めた。

「いいか、黙ってよく聞け、アレン。公然とは言わなかったが、シャルロットいやシャーウッド一族の結婚は国にとって重要な意味をもつ。シャーウッドは他国の王家とのつながりが深い。そして祖先は我が王家の分家であり、わが国でも指折りの資産家でもある。わかるか?王家とシャーウッドの結婚は他国の繋がりを強化し、王族の力を増やし、国力を増やす意味があったのだ。分るか?シャルロットはそれがわかるからこそ、貴様の振る舞いにも我慢していたのだ。それを貴様は全て台無しにして、今まで築いた周囲の努力を無駄にしたのだ。その責任を負わねばなるまい」

 確かにそのような話は以前聞いたことがある。しかし、それと王妃の器は別だ。優秀な王であれば婚姻関係などなくとも家臣自ら全てを捧げで力を貸してくれる。キョウコとの結婚はその王としての器の大きさを知らしめるための方策だと言うのに、自らの父の頭の固さは想定外だった。

 しかし、いかに自分が正しくとも父を無視して次期国王とはなれない。そのため俺は断腸の思いで折衷案を出した。


「そ、それならば!もう一度シャルロットと婚約します!キョウコは側室とします!それでいいでしょう!?」

 ぐぅ、何ということだ。くだらぬ慣習のためにもこんな冷血女と結婚してやらなくてはいけないとは。だが、これもキョウコと結ばれ国王となるためだ、我慢せねばなるまいと断腸の思いで応えたが、父上は冷たい目で言い放った。

「大勢の貴族の子弟、しかも他国の留学生もいる前で王族の名前で堂々宣言して今更何をいっておる。公爵令嬢を冤罪で大勢の前で辱めて、やっぱり間違いで、婚約破棄もウソでしたので婚約しなおします。とでもいうつもりか?王族の名誉をこれ以上地に落とすつもりか?貴様?」

「待ってください父上!冤罪とはなんですか!?キョウコは確かにシャルロットからいじめを受けていたのです!」

「わしはお主らの学園の姿を見るために、信頼できる部下にお主らの姿を観察し続けてもらっておる。はっきりいうぞアレン。そのいじめとやらは事実無根よ。厳密には無礼な言動を続けることに業を煮やしたシャルロットを慕う貴族の令嬢達による忠告で、シャルロットは無関係じゃ。そして、貴様が遊びほうけている間に、シャルロットとイリスは十分な実力を見せてくれた。故に無能な貴様を王位からおろし、成果を上げているイリスを王にすえることにしたのだ」

「なにを言っているのです?父上?キョウコが嘘?しかもイリスが有能?言っておきますが、私は学園で教師直々の推薦で生徒会会長となり。数々の実績を上げているのですぞ?それに比べ、イリスは生徒会の活動にすらかかわっていないのですよ?」

 さ、さっきから何を言っているのだ?父上は。まるで理解できない。

「生徒会会長の就任は貴様の能力を図るためにわしが学園長に命じただけにすぎん。貴様の実力をかってのことではない。それと貴様の実績だったか?それは予算も期間も段取りも杜撰な思い付きの計画をあげたことか?そんな無茶な案が成功したのはシャルロットの実務能力とイリスの人脈と知恵によるものだ。そんなこともわかっておらんのだな・・・おぬしは」

 ふぅぅぅと父上はまたもや大きなため息をつく。

「もういい・・・以上だ。キョウコとやらと結婚したければしろ。だが、王家とは関係ない。子供ができても王族の一員とは認めん。結婚式も貴様個人の財産でやれ。さすが財産までは取り上げん。それでも普通の貴族ならば十年以上は暮らせる額だ。それでよかろう」

 そこまでいうと沈黙が訪れた。父上の話はこれで終わりと言うことだ。つまり俺は国王になれず。無能な弟が国王になるということか!?


 ・・・なんなんだこれは。なんで私がこんなことになっているのだ?ありえない!私はこの国の王になる男だぞ!それがどうしてこんな目に合うのだ!

 ふと横を見るとあの憎き女がいつも通りのすまし顔で見つめていた。この異例の事態に動揺もしないとは。そこで俺は気づいた。もしかしてこの女か?この女があらぬことを父上に吹き込み騙したのか!?

「シ、シャルロット!貴様はかったな!」

「は?」

 俺の怒声に憎き女はきょとんとした顔をする。なんと憎々しい顔だ。間違いない。こいつは俺を罠に嵌めたのだ。

「父上にあらぬことを吹き込み!私を陥れたのだな!何という卑怯者だ!貴様には貴族の誇りはないのか!父上、シャルロットに何か吹き込まれたか知りませんが、騙されないでください!私の行いは学園の者に確認すればわかります!きちんと調査をした上で結論を出してください!」

 激怒した俺は父上に真実を申し出たが、父上はすでに俺を見ていなかった。

「シャルロットすまなかったな。こんなバカのために長年苦労させられて。貴殿の家のお詫びは後日に改めてする」

「いいえ。御国のためですから。それに今回の件はアレン王子の独断によるもの、王様が気を病む必要はございません」

 俺を無視した、その発言に切れそうになるが、俺はもう一人の無言を保っている能天気な男に話しかけた。

「イリス!貴様も何か言え!貴様のような男が王な不可能だ!今すぐ父上に王位継承の件を断れ!これは命令だ!」

 俺の命令に、いつものように腑抜けた笑顔でうなずく・・・と思いきや。

「・・・いいえ。兄上。俺は王位を継ぎます」

「何?」

 否定された。今まで俺が強く言えばなんでもいうことを聞いていた弟が俺の言うことを聞かない?

「兄上、俺は今までの10数年以上の生活で大勢の人々と触れあって気づいたんです。俺はこの国が好きなんだと。そして残念ながらこの国は国民全員が幸せになれる仕組みにはなっていない。だから俺は王になる。王になって、貴族だけじゃない、国民みんなが幸せになれる国を作りたいんだ・・・約束したからね」

 最後は何を言っているか聞こえなかったが、イリスは王になる決意をしているのが分かった。ふざけるなよ!お前は俺の後ろにいる者だ。権力も財産も俺のおこぼれをもらうだけの無能な存在だ。優秀な俺を差し置いて王など許されるわけが無かろう!

「はっ、お前ごときが王になるなど笑わせるな。お前のような無能な男が王になどなったら、それこそ国がつぶれるわ!身の程を知れ!」


「ならば、その能力は私が埋めましょう」

 なんだと?見るとシャルロットはイリスの顔をまっすぐに見て、膝を折ると凛とした声を上げた。

「イリス王子。私は貴方の力になりたい。もし許可をいただけるならば、私に支えさせていただけないでしょうか。私が持ちうるすべてであなたを王として支え、貴方が望む未来を叶えることをお約束します」

「シャルロット・・・でも、君は兄上に一方的に婚約破棄をされた身。その後で僕と一緒になるならあらぬ噂をたてたれて・・・」

「ご安心を。もとより覚悟の上、そして私はそのような些末な声気にもしませんし、何より守られるだけの無能ではありません」


 俺は気づいた。これは茶番だ。イリスとシャルロットは昔からできていたのだ。邪魔な俺を陥れるために昔から策を練っていたのだろう。父上にあらぬ情報を渡し、偽りの証拠をつくり、根回しをしてすでに俺を追放する舞台を作っていたのだ。もはや俺が何を言おうと結果は変わらないだろう。なんという悪党どもだ。

 こんな奴らが国を支えるなどもっての外だ。王になるべき優秀な俺と心優しきキョウコが追放され、こんな悪人どもが王など・・・許されるものか!!!

「許さんぞ・・・」

「何がです?アレン子爵」

 不思議そうな顔で問うシャルロット。その白々しい態度に血液が沸騰する。


「絶対に許さんぞ貴様!イリス貴様もだ!貴様に王族と貴族の誇りはないのか!?このように卑怯な真似をして王の座を奪おうとは!この恥知らずにして下種どもが!!父上!時間をください!父上はこの愚か者どもに騙されているのです!こいつらがいかに下種で、俺が本当の王にふさわしいことを証明してみせます!待っていろ、俺が王になったら、貴様らは追放などでは済まさぬ!処刑だ。貴様らの卑怯な血はここで途絶えさせてくれるわ!」


 俺の怒りに満ちた宣言に全員は威圧されたのか口もきけないでいる。

 はっ!これが真の王の力だ。小細工では出せない真の王の威厳だ。やはり、この俺こそが王にふさわしい。この俺が真実を暴き、正義を証明してくれるわ。そして俺は硬直している全員を背に、退出した。

 見ているがいい。本当の王にふさわしいのは誰か証明してみせよう!

次は“氷姫”シャルロットの視点になります

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