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4話 救世主参上

スタット城から東の森の中に小さな里があった。スタット城下町のような石造りではなく、藁や木で組み立てられた家がぽつぽつと並んでいる。まさに田舎の村といった感じだ。

だが不思議だ。オークの村という割には。どこにもオークが見当たらないようだ。


「なあシェリー、そのー、オーク達はどこにいるんだ?」

「彼らの大半は今『オークの大樹』に集まってるわ。それよりこっちに来て。」


オークがいない。そう聞いて正直言ってホッとした。なぜならオークとは獰猛かつ凶暴で、種族問わず虫の居所が悪ければいきなり襲い掛かってくると聞いている。いくらシェリーが優しくても、オークが俺達を認めてくれるかはわからないからな・・・。

シェリーはオークの里の門を入ってすぐの木の家に俺達を連れて行った。

するとその中にはオークはいなかった。だが予想だにしない光景が広がっていた。


「うわっ、何だこれは・・・!?」

「うっ、ひどい・・・こんなことって・・・」


そこではなんと、傷ついた魔物達が床で横たわっていた。オオハツカネズミ、ダークコウモリ、ビッグフロッグ、ボールラビット、ゴブリン・・・等々。魔物達は皆どこかしら傷つき瀕死の状態でいた。細々と「お母さん・・・」とつぶやく魔物も中にはいた。


「ここは傷ついた魔物達の避難所なの・・・。魔王軍の兵士もいれば、『ただ平和に暮らしてだけ』にも関わらず経験値稼ぎのためだけに冒険者に傷つけられた一般魔物もいるわ・・・」


「そうか・・・」


魔物側につく、これは一見簡単なことだが相当な覚悟がいることを俺は突きつけられた。

―魔物は人間を一方的に脅かす悪い生き物で、魔物を全て排除ることが世界の平和につながるのだ―とそう知らされていた。だが現実は全く異なっていた。魔物を倒せば世界平和だなんて、人間の勝手な理屈だ。魔物だって命を宿し、生きているのだ・・・。軽々しく、経験値狩りをしようとした自分が恥ずかしい・・・。


「魔物界では『治癒』ってなかなか出来ないの。『薬草』はとっても貴重だし、『治癒魔法を使い手』もほとんどいないから・・・。だから私は薬草を探してたの。けれど、あなた達なら治癒魔法を使えるんでしょう?お願い!私達を助けて!」


・・・女の子にそんな泣きそうな顔をされて頼まれたら・・・いやそもそも傷ついてる魔物ヒトを見て、みすみす放ってなんておけないに決まっている。


「エリリン!さっそく治癒魔法の準備をするんだ!まだ傷が軽い魔物は俺にまわしてくれ!」

「了解!お兄ちゃん!」


「キュアー!」「スモールキュアー!」


俺だって僧侶のエリリン程ではないが、軽い治癒魔法くらいは使える。エリリンは重症の魔物を、俺は中~軽症の魔物を次々と治療していった。

最初は苦痛に歪んだ表情をしていた魔物も、俺達の治癒魔法で見る見るうちに良くなっていった。


「とりあえずこれで全員か・・・。」

「うん、私も魔法力きれちゃった~。けどこれでみんな安心だね」

「ありがとう、エスウィン、エリリ、ホントにありがとう・・・!」


エリリンは俺の3倍以上、しかも重症の魔物に治癒魔法「キュアー」を唱えていたから疲労は倍増だったろう。だが良くやったエリリン。

そうして、緊迫した場が緩みかけた。

だがその時、傷ついた老婆のメイジも運び込まれてきた。


「おばあちゃん!?」


声をあげたのはシェリーだった。そうか、シェリーがメイジの服を着ていたのは祖母がメイジだったからなのか・・・。すぐに治癒してやらねば。


「かなり弱っている!スモールキュアー!」


他の魔物と比べシェリーの祖母はまだ傷は浅いようにみえたので俺のスモールキュアーでも十分治ると思っていた。・・・だが様子がおかしい。


「お兄ちゃん!シェリーのおばあちゃん、『毒の状態』になってる!」


なんだって!?毒を治療する魔法は僧侶のエリリンしか使えない。だがエリリンの魔法力はもう切れている。くそっ!この毒の進行状態だとすぐに治療しないとヤバイぞ!


「いいんじゃよ、人間達よ。他の魔物を治療してやってくれてありがとう。それにシェリーや、今まで楽しかったぞい。お前だけでも生きて・・・幸せになっておくれ・・・」

「そんな!いやっ!おばあちゃん、死なないで!!」


ここまで来てそれはないぜ、シェリーのおばあちゃん。くそっ!何か方法はないのか!?俺はポケットで拳を握りわなわなと震わせていた・・・ん?そうか色んなことがあって完全に忘れていた!俺はこの状況を解決するアイテムを持っていたじゃないか!支援金がしょぼいと思ってたが、スタット王もたまには役立つじゃないか!


「毒消草があった!これを使ってくれ!!!」

「わかった!お兄ちゃん!」



・・・何とかシェリーの祖母の命を助けることができた。すやすやと寝息をたてて寝ている。後遺症ももうなさそうだ。


「エリリン!エスウィン!ホントにありがとう!・・・ありがとう!」

「はい、わたしもホントに助けられて良かったです~」


シェリーは俺達兄妹に泣きながら抱きついてお礼を言ってくれた。何度も何度も泣きながら・・・。一緒に泣いていた。

そしてさっきまでの暗い表情と打って変わって、あの可愛らしい満面の笑みでもう一度俺に「ありがとう」と言ってくれた。

ふふっ、そんな顔をされたらかなり照れるじゃないか。それに大きな胸もあたっているし。・・・そうか、これが魔物ヒトを助けるということなのか。とっても気持ちいいじゃないか!!!


今まで俺はヒトのために何かをしたことはなかった。全ては自分達兄妹が成り上がることだけを考えて生きてきたのだ。・・・だが今日、俺達は生まれて初めてかけがえのないモノを手に入れたのだった。

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