2話 美少女悪魔シェリー・デーモン
メイジの動きはぴたりと止まった。エリリンはそれを見て呆気に取られている。
聞いたことがある。魔物使い達は、人間の敵である魔物を味方にしているという話を。その時、魔物は仲間になりたそうな視線を送るらしい。そうすることで人間と魔物の心が通じ合い、真の仲間になるのだとか。
だから俺は思った。魔物が人間側に味方することができるのであれば、その逆―そう、人間が魔物側に味方することができないかと。確かに俺は魔王討伐の大儀のもと勇者として旅に出た。誓いの儀なんかもしたりした。しかし死んでしまってはどうしようもない。俺の真の目的は、生きて偉業を成し遂げることだ。魔王討伐はその手段でしかない。目的と手段を履き違えてはいけないのだ。
しかしこれは賭けだ。魔物から「人間なんていらん!」と言われたらもう終わりだ。・・・さぁ、どうなる!?
「えーっ、ホント!?嬉しい!照れちゃうなぁ・・・」
!?
どこかから、甘い可愛らしい声が聞こえた。
「エリリンか?」
「違うよ、お兄ちゃん、わたしじゃないよ!?」
そう、エリリンの声はもっと自信なさそうで儚げな声だ。だからこの声の主はエリリンではない。というかエリリンもかなり戸惑っている。
「もう!何言ってるの私よ!私!」
俺とエリリンは目を丸くした。あの禍々しいミイラのような仮面をしたメイジから、あの甘く可愛らしい声が聞こえてる。
「あっ、そっか!この仮面で声が聞こえなかったのか!よっと!」
メイジは仮面を取った。その素顔は・・・
驚くほど美少女だった!!!
「めっちゃんこカワイイ・・・だと!?」
思わず俺は声が出た。本当に魔物なのかと疑った。甘いケーキのようなふんわりとした栗毛色の髪、写るもの全てを魅了してしまうような碧眼。ぷるんとした艶のある唇。もちろん顔も小さい。人間でもこんな美少女そういないぞ!?
正にあの甘い声の主にふさわしい容姿だった。
「私が・・・カワイイ?しかもめちゃんこ!?もー、おだてても何も出ないわよ!・・・私カワイイのか、そっかそっか♪」
カワイイと言われただけで、すこぶる上機嫌になっていた。まるで魔物というよりも普通の年頃の女の子みたいに。
「じゃあまずは自己紹介から始めるわね!私の名前はシェリーデーモン、よろしくね!」
「ああ、よろしく。俺の名前はエスウィンでこっちは妹のエリリンだ。」
「じゃ、行こっか。さっきの君の眼差しの意味、わかってるんだから!私の仲間になってくれるんでしょう?」
「ありがとう、通じて良かったよ。ぜひお供させてくれ」
どうやらシェリーの味方になるのに成功したようだ。良かった、これでとりあえず俺とエリリンは助かった。だが、エリリンは意味がわからない、という表情でこちらを見ていた。
「ええっ~!?お兄ちゃん、正気なの!?人類を裏切っちゃうの~?」
「大丈夫、俺は正気だ。それよりエリリン、お前も一緒に魔物側へ行こう!いや俺と一緒に来てくれ!頼む!」
「えーっと、まぁお兄ちゃんがそう言うなら私もついていくけど・・・。」
エリリンをあっさりと説得した。
「ふふっ、これで決まりのようね。よろしくね!エリリン!」
「あっ、はい。シェリーさん、よろしくお願いします。
エリリンは相変わらず人見知り、いやこの場合は魔物見知りか。俺以外と話す時は少しオロオロしてしまうのだ。
「ところでシェリー、君は本当に魔物なのか?どっからどう見ても、人間の美少女にしか見えないが・・・。」
「私が人間!?もう、失礼しちゃう!どっからどう見ても魔物じゃない!」
どうやら人間扱いされたことがお気にめさなかったのか。シェリーは少しふくれっ面をしていた。そしてなんと緋色のローブを脱いだ。少しドキッとした・・・まるで水着のような服なのでシェリーの肌の露出が増えていた。・・・胸(いわゆる、おっぱい)もでかい!まるでメロンだ!目のやり場に困るなぁ・・・と思いつつチラチラ見よっと。
「もう!どこ見てるの!エスウィン!ほらっ!」
俺の視線に気づいたシェリーは背中を見るよう示唆する。意味がやっと理解できた。
「す、凄い・・・おっきい黒い翼・・・」
「そう・・・だな。シェリー、君は・・・悪魔か?」
シェリーの背中から大きなコウモリのような黒い翼がバサっと広げられた。大きいな黒い翼を持つ魔物、これはもはやメイジなどではない。悪魔だ!
「ピンポーン!大正解!私のフルネームはシェリー・デーモンって言うの!改めてよろしくね!」
道理で強かったわけだ。こんなに強いメイジがいるはずがなかった。だが悪魔なら納得がいく。悪魔なら最低レベル30以上はあるからだ。こんなところにいるのは謎だが。
「じゃあとりあえず行こっか!私の手につかまって!」
俺達は戸惑った。特にエリリンはうろたえている。・・・これから何をされるのかはわからない。だが、とりあえず魔物といえど美少女の手を握れるのはラッキーなので俺はシェリーの右手を握った。おおっ、細くて柔らかい!滑々してる!・・・続いてエリリンは恐る恐る左手を握る。
「手は絶対離さないでね。行くわよ!」
!?
何が起こったかわからなかった。俺は地面に足をつけて立っていたはずだった、だが今は大地を踏む感触が感じられない。そう、俺は空高くにいたのだ、黒い翼で翔くシェリーに連れられて。
大地にある全てのものが小さく見える、森も山もあの広大なスタット城さえも。正直言って気持ちいい。だがエリリンはかなり怖がっていた。
「わ~っ!高い!怖い!おろして~」
「ごめんね、エリリン。もうちょっとの辛抱だから・・・。すぐに着くから!」
シェリーはそう言って東の森へ目指し、俺達を連れて飛んでいった。
・・・凄まじいスピードで。