魔王討伐の誓い
「冒険者一同500人!よくぞこれだけの人数がこのスタット城に集まってくれた!誠に感謝する!この世界の危機を救うため、ぜひ魔王討伐を成功させてほしい!魔王やその幹部を討伐できた者には、あらゆる財宝と名誉を与えようぞ!」
王の言葉が城内に鳴り響く、集まった冒険者一堂も「オーッ!!!」と歓声をあげる。それだけここにいる皆の魔王討伐への士気は高いことがわかる。
ふふっ、何とか間に合った・・・。だが、読者への自己紹介が遅れてしまった。ふふっ、我ながら上手いことを言う、ふふっ。俺の名はエスウィン、勇者だ。たった一度の人生、みんなの記憶に残るような凄い偉業を成し遂げたいと思うのは 誰しもが抱く願いだ。この世界は人間と魔王軍の争いが絶え間なく勃発し、とても平和とはいえない。そこで、スタット国王の「魔王討伐」の大々的な募集を見たのをきっかけに、このスタット城に参上したという訳だ。魔王を倒すという偉業を成し遂げれば、世界中の人々から賞賛され、伝説として永遠に語られるだろう・・・そう、歴史に自分の名を刻む、男としてこれに勝る幸せは他に無い!そして・・おっ、まだ国王の話は続くようだ・・・。
「ここに集まった戦士の中でも特に皆に紹介したい者が3人いる!レオ!スタンリッド!ショウジ!」
「はい!」
国王に呼ばれた3人が王座の前に並び、敬礼した。
「レオ、貴公は1000年前に魔王からこの世界を救った勇者グリンの子孫じゃ。その血筋にふさわしい勇敢な心と皆をひきつける優しい人柄であるという話はよく聞いておる。期待しているぞ」
「はっ!ありがたきお言葉まことに感謝いたします!ぜひともご期待に応えられるよう頑張ります!」
勇者グリンの子孫か・・・。1000年も昔の話になると、あまりにも身近に感じられないので、創作のように感じていた。けれど、子孫がいることを知ると実話だったんだなあって実感させられる。ちょっと感動だ。
「スタンリッド、先日このスタット王国城下町が魔物に襲撃を受けた時、見事にこの国を守ってくれた。あれだけのモンスターが押し寄せてきたにも関わらず、死傷者が出なかったのは、全て貴公の活躍のおかげだ。礼を言う。貴公の活躍に触発されて、ここに来た者も多いだろう、ぜひ皆の見本となり導いてやってくれ!」
「はっ!このスタンリッド、粉骨砕身の覚悟で魔王を倒してみせます!」
スタンリッド、100体の魔物の襲撃からスタット王国城下町をたった一人で守った王国騎士だ。痺れる位かっこいい武勇伝だ。城内に集まった冒険者の中から「スタンリッドに憧れて、ここに集まったんだ」って声もちらほら聞こえるくらいだった。かく言う俺もスタンリッドの活躍に触発された1人なのだが。
「ショウジ!そなたは異世界から来たという話を聞いている!驚くべきことに魔法という概念がなく、『科学』とかいう術で構築された世界だそうだ。その異世界の技術を駆使してこの世界を救って欲しい!」
「はい、がんばります」
異世界人、噂には聞いていたがホントにいたのか・・・。科学なんてただの迷信だと思っていた俺にとっては非常に信じがたいんだが。
「レオ、スタンリッド、ショウジ、それに他のみんな!そなたらの旅はここから始まる!精一杯頑張ってほしい!幸運を祈る!」
ちぇっ、俺は他のみんな扱いか・・・。確かに俺には特別な血筋も無ければ、立派な功績などもない、まだまだ駆け出しだ。だが俺は勇者だ。―なぜなら勇敢な心と正義の信念があれば、その時点で勇者なのだから。
レオ、スタンリッド、ショウジ以外はそれぞれ個別で王様に挨拶していった。
「王様!私はエスウィンと申します。必ずや魔王討伐を果たしてみせます!」
「うむ、頑張るがよい。」
国王に挨拶は済ました。魔王討伐の支援金として王様は10エーンくださった。10エーンというのは毒消草をギリギリ1個買えるくらいだ・・・しょぼいなんて思ってはいけない。ちなみにレオ、スタンリッド、ショウジは53万エーン支援金として貰っていた。53万エーンなんて貰ったら、剣、鎧、兜等色んなものが買えるんだろうなあ・・・。そうこう考えている内にスタンリッドがみんなを呼び寄せていた。
「なあ冒険者のみんな!旅路は違えど魔王討伐という目的は皆同じだ!せっかくだからここにいるみんなで誓いの印として、この石版に自分の名前を刻まないか!?みんな生きて帰ってこれるようにと!」
ふむ、面白い。流石はスタンリッドだ。他の冒険者の士気も多いに高まっていた。俺は自分の名前、勇者エスウィンと深く石版に刻み込んだ。他の冒険者たちも全員名前を刻み込んでいた!そして500人の冒険者が大きな円陣を組んだ。号令は勿論スタンリッドだ。
「俺たちは絶対にこの世界の平和を守るぞー!!!」
「おーっ!!!」
どんな伝説も皆「0」から始まる。今その第一歩を踏み出した!
そう、これから勇者エスウィンは次々とダンジョンのボスを倒し、いろんな村を救う、そうしてみんなから認められる「勇者」となるんだ!そう、そして・・・名声も富もがっぽり入り、さらには可愛い女の子からはモテモテ、バラ色のハーレム生活だーっ!!!
あっ、いかんつい本音・・・いや雑念が出てしまったようだ。仕切りなおそう、俺が勇者になる理由はモテたいとか有名になりたいとかではない、世界の平和を守るために勇者になるのだ。