御礼小話 バレンタインデー 前編
お久しぶりです。長く更新をしておりませんでしたが⋯あれこれ更新をしているので、こちらも更新です。
バレンタインが近いので⋯
まだ読んでくださっていた皆様に感謝をこめて。
「先輩、ずっと好きでした!私と付き合ってください!!」
「ごめん⋯」
なーんて、ほろ苦い青春の1ページの記憶を私は持っていないけれど。
憧れたな~告白!!
と私は芋を洗いながら思った。
なぜなら、何気なく見たカレンダーが2月12日だったのだ。
もうすぐバレンタインデーだ。
バレンタインデーといえばチョコ。
そう、チョコレートだ。
しかしここは異世界。
チョコに似た食べ物が無かった。
だから、気づくのがバレンタインデー当日だったら、私あ~バレンタインデーだったな~まあ異世界だしいいか、って思うだけだったと思う。
しかし今日はバレンタインデー2日前。しかも明日は半休、明後日はお休みの日。
なら、頑張れば似たようなもの用意出来ちゃうんじゃないか?
そう思ってしまったのだ。
とはいえ何度も言うようにここは異世界。
私の知るかぎりチョコレートは存在しない。けれど、その時私は閃いた。
チョコレートがないならつくればいいじゃない。
かくして私は茶色くてチョコっぽくなりそうな食品をちょうど来ていた食品卸業者に頼んでみた。
「ちよこれいとー?聞いたことねぇなぁ。うーん、まぁ倉庫探していくつか持ってくらぁ」
チョコレートの特徴を事細かに説明した私に馴染みの業者さんはうーん、と首をかしげながら次の届け先に向かっていった。
この業者さんは普通の食材を届けるのではなく希少と言われる一風変わった食材を持ってくる凄腕の食材業者さんらしい。
凄腕…と言われてもピンとこない可愛らしいイタチ獣人さんだ。荷物が多いときたまにイタチの姿で来ているからとても可愛い。とてもかわいいけれど…イタチは狂暴だということを向こうの世界の知識で知っていた私は一定の距離を保っている。
残念なことにイタチ獣人の種族の見分けが出来ない私はテンなのかハクビシンなのかオコジョなのか判断できない、もしかしたらラーテルの血が流れてるかもしれない。だってこの人、申し訳ないけれどちょっと不細工だし…
ラーテルはやばい。
イタチは危険。危険があぶない…
いや、まあ、それはいい、脱線しすぎた。
つまり、チョコとまで贅沢は言わないからココアに似たものがあればホットチョコレートとかココアクッキーとかできるだろうし、そういうものでバレンタイン気分を味わえればいいかな。
なんて、そのときの私は考えていたわけだ。
翌日の午後、業者さんのお弟子さんが持ってきた色々な食材を前に私はなやんでいた。
茶色くてとろみのある蜜、黒くてほろ苦い粉、特徴的な甘い香りの謎の石…次々と出されていく謎食材にうーん…と首を捻る。
似ているかと言われたら否だ。
「お客さんの言うてたちよこれいとー、うちの親方も知らんゆうてましたわ」
「うーん…やっぱりないのかぁ…じゃあ、そっちの粉ふたつとこの瓶ください」
「まいど~」
イタチの業者さんのお弟子さんは怪しい方言を話すつり目のイタチ獣人さんだった。親せきかな?
「今日親方さんは?」
「親方は丁度いい機会だゆうて倉庫の大掃除してはりますわ」
そういって代金を受けとるとお弟子さんは帰っていった。
私は仕事終わりに部屋にもどると自炊用についている小さな台所で2種類の茶色い粉を砂糖水で練ることにした。
それぞれ混ぜてみたところ、ひとつはコーヒー風な匂いでものすごく苦かった。もうひとつの粉は…ちょっとパンチに欠けてるぼんやりした味。
どちらも木の実を粉状にしたものらしくパンやお菓子に混ぜて使うものらしいけれど、全部見た目はほぼココア 。そこにバターみたいなものをくわえて練った。イメージはチョコレートクリームだ。
次にココア風味のクッキー生地を作った。
これも粉を二種類混ぜた、のこってもしょうがないし。ココア味じゃなくてココア風クッキー。
流石は料理人用の寮だけあってここの部屋は冷蔵庫、オーブンつきだったりする。
魔石をつかう高級品家電?家具?だ。煙突つきだけどね。
クッキーは明日の朝イチで焼いて、冷ましたらクリームをはさんで完成だし、午後には配れるかな〜なんて思いながら冷蔵庫に生地とクリームをしまって寝た。
翌日は朝から寝かせておいた生地でクッキーを焼いた。おおよそココア味。焼いたらちょっとシナモンいれた?みたいな匂いがする。どこからシナモン来たんだろ?
焼き上がったクッキーを冷ましているうちにねかせておいたチョコ風クリームの様子を見た。
寝かせて落ち着いた色の濃い方のクリームは苦味が増してチョコっていうかカフェモカみたいな味になってた。例えるならコーヒー味のチョコかな。あのコーヒー豆の形のお菓子みたいな味。混ぜたちょっとふわふわになった。なぜだ。
色が薄かった方は予想よりも固くなっていた。色も濃くなってツヤツヤしている。なぜだ。
ねっとりとしたそれを舐め…ようとして手がちょっと止まる。
クリームは一晩寝かせたらコーヒー風の匂いが増していた。ということは⋯
すっごく苦かったら嫌だな…と。
私はむむむ、と悩みつつも「もっとへんなものいっぱい食べてるし!!」そう覚悟を決めて、えい!とスプーンですくって舐めると予想より苦くは無かった。
というか…
「おいしい!!」
チョコレートではなくコーヒーキャラメルの味がした。チョコではない。
「…まあ、美味しいからいいか」
ソースもクッキーに挟むことにした。
ダブルクリームなんて豪華だ。
クッキーはひとつづつ油紙でキャンディ包みにした。
案外可愛くできた。
ここにきてぐっとバレンタインらしくなってきたことに私のテンションは上がった。
調子に乗った私は大量の義理チョコを篭に入れて部屋を出ようとして思い直す。
これはもしかしたら新しい食材か調理法かもしれないし…料理人なら挟む前のものを味見したいんじゃないかなって。
私はソースとクリームを瓶に移した。
それから使わなかった謎の水飴みたいなやつ。使い方教わろうかなーって。
そうして私は足取り軽く厨房に向かった。




