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番外編 いい肉の日 下編



グロ注意。

お食事中の読書お控えください。

消化の妨げ&お行儀悪い以外の問題が発生する可能性があります。






その日の夕飯に出た賄いはスープとパン、それから高級なお肉を取られた私に同情した料理長がくれたフルーツ盛り合わせだった。



うん、私的にはこっちの方が幸せです。





それからというもの、なぜだかやたらと高級と言われる魔獣の肉が賄いに出るようになった。


どうやら高級なお肉は捕まえるのが大変で、しかも兵舎食堂にくる人の数全部を賄えるほどは大きくないものが多いらしく全て賄いに回るらしい。

近年希に見るほどの豪華な賄いにチーニや食堂メンバーはなぜか私にお礼を言う。



いやいや、お肉とってきているのはウーフォンさんだからね。

私にお礼言うのは筋違いだよ?



そして、私は今日もお皿の上の高級肉にため息をついた。



「最近、賄いがやたらと豪華だと聞いてたが…こりゃまた珍しい肉だな」

私の前で一般兵用の煮込みシチューを食べていたヤラールさんがニヤリと笑った。

「あ~ご存知だったんですね…」

「ウーフォンが美食に目覚めたって噂だろ?あのウーフォンが美食家気取りとはなぁ」

わはははと机を叩きながら爆笑するヤラールさんに私は笑い事じゃないんですよ!!とむくれながらヤラールさんの食べかけのシチューと高級肉を無理矢理交換した。


ヤラールさんは躊躇いなく変えられたお肉をひょいとつまみ、骨ごと食べた。



そう、バリバリと骨ごと。



「美味しいですか?」

「ああ、旨いな、骨も程よい固さで肉の味も濃い。骨に負けない噛みごたえの肉の焼き加減も完璧だな」


ヤラールさんはそのまま残りの塊も食べてごちそーさんと言いながらにやりと笑った。


その頬にかかる赤みの強い金髪が普段より酷く肉食獣をイメージさせた。


肉食獣。


そう、ここ兵舎食堂に居るのは基本的に皆肉食獣なのだ。

だって戦うのに必要な鋭い牙も見事な爪も驚異的な身体能力も、基本的に肉食獣にしか必要がない。

戦いに特化しているから兵士になるのだ。

だから、草食獣系の人たちは兵士にならずに農業や林業、二次産業や三次産業といわれるものを生業としている。


だから、ここには来ないのだ。


そして王族や貴族は基本的に強いものが多い。

そして、強いものは肉食獣に多い。


アウェイだ。

草食寄りの雑食な私は食文化的に完全にアウェイなのだ。



そして、連日続いた高級肉ブームで解ったことがある。



ここでの高級肉は骨ごと食べてはじめて、その美味しさが完成するらしい。骨には肉の味を損わない程よい砕け感が求められるし、骨の中の髄液と肉の相性も大事だ。


クセのつよい髄液に負けない濃い味の肉と、喉ごしのいい骨。

これが高級肉を構成する重要なポイント。


そのため、牙を持たないただの雑食の猿でしかない私に高級肉の美味しさを知る機会は一生こない。


骨は残すものですよ。

筋は煮込むものですよ。

可食域は肉までですよ。



「どうせ私は貧乏舌ですー」


ええ、本当にまったくもって悔しくない。負け惜しみのように聞こえるかもしれないけれどね。

それより貧乏食でいいから柔らかくて蕩けるような優しい味のお肉が食べたい…


すっかり最近の食事の友となってしまったため息をついた私の前にことりと小さなお肉を焼いたものが置かれた。しかもここでは珍しい一口サイズのサイコロステーキ。


見上げた先には悪巧みしてるような顔のチーニ。


「食ってみろよ」


おそるおそるかじるとそれは柔らかな牛肉。

甘い蕩けるような脂身のサシが絶妙に入った高級和牛のような味わい。


「…!!」


うわぁ!久しぶりだ、顎が疲れないお肉なんて!!

なにこれ!こんな美味しいお肉がこの世界にもあったの?!


「なにこれ…めっちゃ美味しい!!」

「えっ!?マジかよ!?」


微妙なチーニの台詞が気になりつつも、ひとまずそれは横において私は肉の美味しさを噛み締めた。


そして洪水のようにどっと脳裏に甦るいろんなものにじわりと目が熱くなった。


味覚は記憶と繋がっていると何処かで聞いたことがあるけれど、どうやらそれは本当だったらしい。


専務が連れていってくれた無骨だけどとびきり美味しい和牛専門店、彼氏がいない女同士でいった夜景の綺麗なレストランで目の前の鉄板で焼かれたお高いお肉、お母さんが御祝いだからと奮発して買ったのお肉を焼きすぎてしまったステーキ…


ああ、そうだ。たとえこの肉がどんな生き物の肉でも…この美味しさの前ではどんな文句も言えない。

私はこみあげる熱い想いをこらえるためくっと俯いて目頭を抑えた。


「おいっチーニ…お前ユアに何食べさせたんだ!?」

「え?ええ?!俺のせいっすか!?」


気にしない。と誓ったけれど、焦ったようなヤラールさんの声と奇妙に、揺らぐチーニーの声に嫌な予感がひしひしとする。


「ほらみろ!だからやめとけっていったんだよ」


ドスドスと駆け寄る足音は多分料理長のものだ。

「いやいや、だって本に人族はアレ食べるって書いてありましたよ」

「書いてあったがアレを食べて問題ないとは書いてなかっただろっ!あーやっぱり止めればよかった!」

「おいおい、アレって…え?アレを食わせたのか!?」


その不穏な会話に涙が一気に引っ込んだ。アレアレアレって単語を伏せせすぎ!!


「ちょっとチーニ!私に何食べさせたの!?」

がばりと顔をあげる。と皆が厨房を見ている。

そこにあるアレを見ているであろう皆の視線の先には…でろりとした謎の丸いボール的な物体を掴んでいるウーフォンさん…ん?


謎?


いや、あれは何処かで見たことがある気がする。


っていうか、あれは…どこぞの墓場の親父さんじゃなかろうか。


大きなボールを持つパンダは萌えってなるけど…大きな眼球持ってるパンダはちょっとした事件だ。


そして偶然にもウーフォンさんの持っている眼球と目がばっちりあってしまった。

あ~なんかサイズに対して黒目が少ないね。

三白眼だったのかな?


「本にはオールジービルフは眼球の裏のアレの肉が美味いって…」

「おぃ!そんなゲテモノを食わせたのか!!」

チーニの胸ぐらを掴むヤラールさんに珍しく出てきた狸の尻尾がぼんってなる。あ、耳もだ。

ぎゃんぎゃんと騒ぐ外野は気にせずにテーブルの上を見る。


確かに肉かと言われたらちょっと違うかな~という見た目なような気もする。っていうか眼球のどの部分なんだろう?

外眼筋とか?それとも白目部分?お肉は白くないけど。

まあ、ゲテモノ…ゲテモノといわれれはそうかもしれないけれど…


ぶすり、と残りの肉にフォークを刺した。


ぱくり、と食べると…うん、やっぱり頬っぺたがおちそうなくらい美味しい。

味に関していえば百点満点だ。

うん、たとえ、元がなんだろうとおいしければ良いじゃないか!!


美味しいは正義だ。


うんうん、と頷いていると周りが静になっていることに気づく。

しかも、うわーこいつ目玉喰ったぜ!?みたいな顔でこっちを見てるし。

ええぃ!獣のくせにグロ食はNGとかむしろその方がナンセンスだよ!


ばちっと眼があったウーフォンさんも信じられないという顔でこっちを見ているけれど…

パンダのくせに表情豊富とか意味がわからん。


そうだ、日本にはマグロの目玉だってスーパーにごろんとパックされて売ってるじゃないか。

私が牛もどきの目玉食べて何が悪いというのだ。


そう無理矢理自分を納得させながらもぐもぐと二切れ目を咀嚼していると視界の端でウーフォンさんの姿がゆらりと揺らいだ。


と思ったら三切れ目を刺そうとしていたフォークを持つ手ごと止められていた。

ウーフォンさんの爪は人型になっても黒い。それがとても不思議だ。



「ユア、それは、食べ物じゃ、ない」


一言一言区切るように、まるで幼子に言い聞かせるようにウーフォンさんはひたと猛烈なたれ目で私を見つめた。

しかし、そんなイケメンパワーに負ける私ではない。

だって目の前には夢にまでみたシャトーブリアン…的なお肉。


「いいえ、ウーフォンさん、これは食べ物ですよ、しかも大変美味しい食べ物で…モガッ!!」

べちゃり、という音と同時に言い返す私の口が大きな手で塞がれた。


その手はぬるり、としていて…

ちょ、ちょ、ちょっとまって、ウーフォンさんこのぬるりは…


「これは、食べ物ではない。そうだろう?」


ぬるり、と掌で口を塞いだままの頬を指先だけが撫でる。

鼻腔をもわりと生臭い血のようなリンパ液のような、ひどく不快なにおいがくすぐる。


ウーフォンさんが視線だけでゆっくりと、テーブルの上を見ろと示す。

おそるおそる見下ろした皿の上にはサッカーボール大の大きな眼球。でるり、中から赤と白の入り交じった神経組織が続いているのが酷く生々しい。


「こ・れ・は、食べ物じゃないだろう?」


にっこりと、見たこともない笑顔を浮かべてウーフォンさんが私に聞いてくる。

私は無言でこくこくとうなづいた。


ウーフォンさんは満足げに厨房へ去っていった。

さきほどまで私に触れていたぬるぬるの掌が今はチーニの頭を鷲掴んで引きずって。

「ギャー!!!」

とチーニが叫んでいるけれど…


ぽかーんと動けない私のぬるぬるになった顔をヤラールさんが濡れたタオルでゴシゴシとふいてくれてた。


「案外、あいつまともだったんだなぁ…」

料理長が顎をなでながら唸るように言う声を聞きつつ、私は皿の上にどんと鎮座した眼球を見ないように目をそらしてそっとため息をついた。



美味しい柔かお肉への道のりは険しそうだ。



翌日、相変わらず何の肉かわからない肉で料理長がまかないを作ってくれた。

今日はチーニが急にお休みしたからのんびり賄いを食べる時間が取れず、調理場の片隅で交代交代で皆で食べている。

料理長の横で程よい肉の固さの串焼き肉を食べる私の頭を通りすがりの特大パンダ肉球がぽふぽふしていった。


「その肉は昨日あいつがとってきたんだよ」


料理長がおかわりを焼きながらそう教えてくれた。


串焼きになったそのお肉はふわんと柔らかく見た目と相まって焼き鳥にに見えてくる。

けれど、鳥肉ほど鳥臭さはない。


「おいしい~!さっぱりなのに固くなくて…わぁ!何のお肉だろ?」


美味しい!と思いつつ変なものじゃありませんように。

と思った私は悪くない。

悪いのはチーニだ。


「そりゃ野ウサギだな」


ガタンッ!!

料理長の言葉に何かが倒れた。


「うわああああぁんん!!ばっかやろー!!!」


イリエさんが泣きながら戸口蹴破るような勢いでどこかにいってしまった。その、跳ねるような走り方、そして長い耳…


キィ…と音を立てて揺れたドアを見て私と料理長が思わず顔を見合わせた。



ウサギさんだったね。




うっかり、同僚に共食いをさせてしまったこの世界の肉事情は複雑だ。









お読みくださりありがとうございました。


ユアが何を食べたのか…


活動報告の方にこぼれ話としてのせております。

注意喚起を一読された上でおよみください。

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