番外編 いい肉の日 上編
ブックマーク800件越えの御礼にと…
本当は11月29日(いい肉の日)に更新する予定だったこの番外編…
微妙に長くなってしまい、今日までずるずると引きずってしまいました。
これじゃただのお肉の話ですよ。
しかも微グロ、明日の後編はお食事中に読まないことをオススメいたします。
数多あるネット小説中でこの作品をブックマークしてくださった皆様に感謝を込めて!!
日本でいい肉と言えば牛肉、国産和牛だ。
神戸牛、松阪牛、米沢牛に近江牛。巷にあふれる高級牛肉の名前はともかく…私が実際食べたのは数回程度である。
会社の上司の奢りで食べた神戸牛のシャトーブリアンはその美味しさに思わず無言になったのを覚えている。
柔らかで絶妙な固さの肉を噛むと、じゅわりと甘く広がる肉の旨味は…もう言葉にならないほど。
もちろん、お値段にも無言になった。
「美味しいお肉が食べたいなぁ…」
そう賄いを食べながら遠い目をして思わず呟く程度には…この世界の肉は硬い。
「はぁ?今食ってるだろ、うまい肉」
目の前でたれ目をすがめながら、骨付き肉にかぶりついていた狸獣人のチーニが怪訝そうな顔をしてそう言った。
チーニと私が食べているのはオールジービルフという四つ足の魔獣の肉だ。
四つ足で黒と白の斑模様…と聞くとまるで牛のような感じがするけど、柄は白地に黒のドットに近い。
言うなればダルメシアン柄だ。
柄はダルメシアン、大きさは牛くらい。見た目はポニーに近い魔獣。
そして味は…
私は無言で肉に噛みついた。
オールジービルフは高級品と言われている魔獣の肉らしい。
しかもお皿の上にあるのは美味しいと言われているあばら骨付近…いわゆるスペアリブだ。
骨をがっしりと掴んで大きな肉の塊にかじりつくのがオールジービルフの美味しい食べ方らしい。
もちろんここは異世界、地球の豚のスペアリブのようなサイズではない。
大きな骨つき肉は持ち上げる時点で既に辛い。
漫画肉って現実に出されると片手で持てないくらい重いんだ。って今回はじめて気付いた。
まあ、それを分かち合える人はここには誰もいないけどさ。
比較的脆弱なたぬき獣人のチーニだって片手で持ってるしね。
ふう…
思わず遠い目をしてしまう。
そう、私は肉を今まさに食べている。
チーニがかぶりついた肉と同じものが皿どんと鎮座しているのだ。
残っている量は段違いだけれど。
いや、残っているのは皿の上だけでなく、口のなかも。
噛んでいる肉は牛肉に似た味がする。
ただ…超やっすい牛肉に通じる独特の乳臭くて固くて筋ばった感じ。
これを喜んで食べるのは超はらぺこの運動部男子くらいだよね?って味。
私は口を抑えながらはぁ…とため息をついた。
だって、硬い。
どうしてくれよう、この、かみきれずに口に残った筋肉の塊。
しかも噛んでも噛んでも消えない濃い肉の臭みと味。
そうか、この濃さこそこれが高級肉と言われる所以か…あははは。
私は頭をかかえた。
お残しはゆるしまへんで!!
そう叫ぶおばちゃんの三角になった目が私の脳裏に浮かぶ。
しかし、これは無理だ。
皿の上にある肉の端は少しだけ欠けている。だってさっき私が噛んだから。
その欠けた部分は私の口の中にまだある。
かむたびに口内に溢れる牛臭さは私のやる気を猛烈に削いでいく。
ああ、ツラい。
異世界の賄い始まって以来のつらさだ。
明日は絶対顎が筋肉痛だ。
うつむいた私の視界に広がっていた皿が消え、どん!とコップがおかれた。
「え?」
なみなみと注がれた水がたゆんと揺れた。水の中にはスライスされた柑橘類とハーブ。
コップを置いた手は黒い艶々の鋭い爪をもった熊…ではなく、パンダのウーフォンさんだ。
爪で摘まむように私の残した肉をひょいと持ち上げ、バッリバリと骨ごと肉を噛み砕いていく。
私はポカーンとその一連の行動を見上げていた。
可愛いハズのパンダが、猛獣感溢れる様子で口のまわりについた肉汁をべろりとなめとるのを見て、ハッとして慌ててお礼を言おうとするけれど、口の中の肉がそれを妨げる。
私はアワアワとコップの中の水をごくごくと飲み、肉の塊を喉の奥に流し込んだ。
ぷはぁっ!と息を吸い込んでそのままの勢いで「ありがとうございますっ」とお礼を言うと、ウーフォンさんは「ん」とだけ言ってのっそりと去っていった。
後ろ姿の丸いフォルムが相変わらず素晴らしく愛らしい。
肉食パンダだけど。
それに、しても…いつもより心もち背中が丸いのは何でだろう?
「あ~この肉、ウーフォンさんが狩ってきたのか」
チーニはわかったように頷いていた。
え?なんのこと?
「ウーフォンさん、このお肉好物なの?」
パンダなのに?
思わずそう聞き返すとくとチーニは「さあな」と言って骨をかじった。
どうやらこの狸は詳細を私に教える気はないらしい。
こんなときのチーニは絶対口を割らないから無理に聞こうとはしない。
まぁ、気になるけどさ。
っていうか、骨は残そうよ、二人とも。




