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木の上の狼 下





「ヤラール!そんなところで寝ていないで仕事にもどれ!」

うとうとしていたらイキシュの怒号で目すが覚めた。

「まったく、狼になりたいなら木上でだらけるんじゃない」

「うるせぇ…本能なんだから仕方がないだろう」

ちらりと目をひらくとイキシュの隣で心配そうな顔をしているユアと目が合った。

気まずさに思わず目をそらしてしまう。


ユアがブフッっと吹き出した。


「ヤラールさんって狼だって皆さん言いますけど…なんか猫っぽいですよね」

「間違ってませんよユア、ヤラールは狼になりたい虎です」

「あ~やっぱり!髪の毛とか、動きとかは虎っぽいなとは思ってたんですよね。」

「獣形は狼ですが…ものぐさで、だらけぐせが酷く、よく木上で昼寝をして仕事をサボって部下を困らせているダメな隊長ですよ」

ぐうっと咽がなる。


イキシュの言い種が酷いが、真実なので言い返せない。


「まんま行動が猫科ですね」

「ええ、ヤラールは狼になりたい猫です」

とうとう虎ですらなくなった。

どーんと凹んでいたらユアが慌てたように「私、犬より猫派ですよ!」とフォローしてきた。


「きっとスッゴク綺麗なんでしょうね、狼と虎なんて最強じゃないですか」


にこにこと笑うユアの言葉にヤラールは驚く。

それに、合意するようにイキシュは頷き

「そうですね、ユア見せてもらうといいですよ」

さあ、変われ!とにこやかなユアがの後ろから、イキシュに鋭い眼差しで睨まれた。


何故だ。


こんな醜い姿をユアに晒させようとするのか…

イキシュはユアが幻滅するところを見たいのだろうか。

イキシュはユアに罵倒されるヤラールをみたいのだろうか。



ズキンと胸の奥が傷んだ。

裏切られたような、諦めのような…


「わかったよ…」


ヤラールのそりと身をおこし、木から降りる瞬間に姿をかえる。

「うわっ!」

ユアの驚いた声、その後に続くだろう罵倒に覚悟を決める。

しかし罵倒はなく、ドンッ!と何かが激しくぶつかり思わずよろけた。

そうか、不快すぎてものを投げられるとは予想しなかっ…

「凄い!凄い!ヤラールさんかっこいい!!ふわっふわ!もっふもふ!!」

その声に目をあけると、興奮に頬を赤く染めたユアが横腹にしがみついていた。


信じられない事態によろりとよろけると、ユアがそのまま抱きつくようにのし掛かって腹の白い毛に顔を埋めた。

しがみつく手は絶妙な力加減で首回りの柔らかな下毛をも見込んでくる。

「はぁっ…凄い…狼なのに虎とか…もうっ…反則過ぎ…」

興奮にいつもより高くなった体温がユアの甘い香りを強め、熱っぽく吐き出される吐息にぞわぞわとした快感が背筋を走る。

思わず衝動のままユアをべろりと舌で嘗めるとひゃあ!っと間の抜けた声が上がる。

そこに忌避も嫌悪もない。

もそもそとユアが胸元の毛に顔を埋めた。

「わぁ…柔らかい…」


呟かれた言葉に首をふる。

柔らかいのはユアだ。


柔らかくて、温かくて、優しい。


鋭い爪で傷つけぬようにユアをぎゅうと抱きしめると身体中をぞくぞくと快感が走る。

ああ、この柔らかい体をくまなく…


「はい、そこまでですよヤラール」


イキシュの声にハッと我にかえる。

ずぼっと腕の中からユアが引き抜かれた。

「イキシュさん!ヤラールさん凄いですね!!」

ユアは大興奮でイキシュに満面の笑みをみせた。

「ええ、ヤラールの獣形は見事でしょう、私もヤラールほど美しい獣は見たことが無い」

ユアの乱れた髪の毛を優しく撫でながらイキシュがこちらを見たのがわかる。


ヤラールは俯いたまま体を硬くしていた。

頭の中は真っ白だ。

顔を上げれば、イキシュに己の番に手を出した他の雄を見下すような…冷たい瞳を向けられるのだろうか。

あの、赤い瞳が氷のように冷ややかな色を湛えているのだろう。

ヤラールはイキシュとの間にあった友情めいたものも…今日までか。と覚悟を決め顔をあげた。


しかし、そこにあったのは冷たさとは真逆の瞳。


「ほら、大丈夫だっただろう?」


柔らかな赤い瞳が糸のように細くなる。

冷静なイキシュの珍しい満面の笑み。



とある期待にバサバサと後ろで尾が騒がしく振れている。


ユアの柔らかな指が再びヤラールの体を撫でていく。

イキシュの美しい白い指先がヤラールの額にふれる。



『ヤラールは美しいぞ、お前の良さを解る番がいつか必ず現れるさ』

あの日、嘘だと内心で詰ったイキシュの言葉が甦る。



ああ、いたよ、俺を愛してくれる番が。

俺を誰よりも認めくれる友の番だったけれど。



この手を失いたくない。

この優しい二人の手を。



ヤラールは心底そう願った。


優しい二人の指は醜い獣の毛を優しく撫でていく。

さざめきのような優しい二人の笑い声が聞こえる。



俺は許されているのだろうか?

俺は友とその番の側に居ることを。




側に、いてもいいのだろうか。



従順な犬のようにその足元に蹲るから。

静かに眠る猫のように見て見ぬふりをするから。




だから二人の側に。












狼になりたい虎って設定だったヤラールさん。

どっちもかっこいいからいいじゃん!って思ってる周りとそれをわかってない本人。



アニキ!ついていきますって言われてる人って本当は中身は結構鬱々としてるんじゃないかな?って思います。


かっこよくなりたいから頑張る。

頑張って見栄をはる…みたいな。


そんな世話好きおかん系狼虎のヤラールさん。



イキシュさんとヤラールさんの過ぎた友情…そして、イキシュは恋人と下僕を手に入れた…というわけにはいかない。


ヤラールさんの半分は、気分屋の猫さん。

しかも、狐より狼や虎の方が断然強いし。


なんだかんだでお互いがお互いに惹かれ振り回されてる友達って感じです。



え?主人公?

ふっかふかのもっふもふに囲まれたら幸せだよね!

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