最終章
私は地平線の見える荒野を、赤いハイラックスでひた走っていた。地面の窪みや障害物をタイヤが踏むたびにごとんと車は揺れ、私の身体全体を揺さぶる。目指すのは、かつて街であったものの残骸。遠くに見えるコンクリートを明るくした灰色の建造物郡へと向かっていた。その中で、一人の男が目に入った。男は私のハイラックスの進路上に常に立ち、私がハンドルを切ってもまた移動しては進路上に立つのだ。
私は車を停め、隣席に置いてある銃器の類を身につけ降車し、男に銃を向けた。
「止まれ」
私が言うと、男は独り言のようにわっと言葉を吐き出し始めた。
「もう懲り懲りだ。何も俺にはないんだ。生きること以外に何もない。人に会ったのは三年ぶりなんだ。俺はあの建物の中で保存食を食って生きてきたがもう懲り懲りなんだ。ただ日々を生きていくだけで、楽しみもなければ義務もない。ただただ生きていく。どこへも行けず、遠くに見えるのは地平線だけだ。気が狂いそうだ。いやもう既に狂っているのかもしれない。でもそんなことはどうだっていい。お嬢ちゃん、その銃で俺を殺してくれ」
私は、構えていたM4を下ろした。
「何故だ! 俺を、俺を殺せっ!」
その言葉通りに、私はガバメントで男の頭を撃ち抜いた。
「……弾、節約したかったの」
今はもう動かない男に対して、私はそう言った。倒れた男の周りには、土色の荒野に赤い血と砕けた脳漿が弾けるように飛び散っていた。きっと、苦しまずに死ねただろう。
私は身につけていた銃器類を元の場所に戻し、また車で移動を始めた。
人は、ただ生きるためだけには生きていけない。どんなにしょうもないことでも、どんなに小さなことでも、どんなに無意味でも、自分が何かを成さなければ、何かを成していると思えなければ、人は生きていけないのだ。久々に撃ったガバメントの感触を思い出しながら、私はそんなことを考えていた。