パン
久しぶりに書いたものです。随分【アレ】ですが……いや、短くまとめすぎたかな。
最近よく見る夢なのだが、それが妙に奇妙な夢なんだ。なんてったって夢の舞台がパンなんだもんな。
【パン】それは食べ物、香ばしい香りがお腹をギュルギュルと唸らせ、口の中を唾液の洪水と化し、一瞬で人の食欲を鷲掴みにする人気絶頂の食べ物……その中に俺が入り込むっていう、正直理解不能な夢なんだ。
大体にしろパンって言うのは、人が入れるほど大きくは作られちゃいない。少なくとも俺が今まで瞳に映してきたパンはな。しかし、夢で俺はその食物に入ったんだ。パンが突然変異を起こしたのか、はたまた俺が小人になり下がったのかは分からんがね。
なにしろ夢だ。以前どこかで見た小説の影響でも受けているのかもな。夢の結末部分がよく思い出せないんだが、もしかしたらその小説か何かのオチと一緒かもな。まあ、どちらにせよ今の俺にゃそんなことは関係ないがね。思い出したところで夢の中じゃそんなモノ泡みたいにすぐ爆ぜて消えちまうんだから。
消えるか……しかし何故だ? 何故俺はあんな掴みどころのない夢の内容を覚えているんだ? 今まで夢の内容を覚えているなんてことがあったか? ……あぁ美人のお姉さん達に囲まれてって時が一回あったな。しかし、あれは【刺激的】だったからだ。パンの落ちぶれさとは比較にならないほど、華やかだったからだ。
じゃあ何故…………あ、くそ! 眠くなってきやがった。あああ! くそ、まだ頭の整理ついてねぇ……の……に。
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眼前にクモの巣状の白い糸のようなモノが螺旋状に延びている。鼻孔にはこびり着くような、粘りつくような、そんな濃い脂っこい匂いが蟠る。
俺はその不気味な空間に足を運ぶ。何故かは知らない。その中に入ると先ほどよりも遥かに濃度のある空気が身体に纏わりついてきた。非常に心地が悪い。
足元は緩衝材のように足を絡め取ろうとするし、まるで生きているのではと錯覚させる。生暖かなそれは、どこか人肌のような感触がする。
一度状況を把握すると、自分がどんどんと奥に進んでいることを知った。千切れてしまいそうな程細い意識の糸は所々に穴が開いてしまって、最早周りの刺激を受け取ることしかできない。例えるならばマリオネット。何に操られているのかといえば、それは俺の本能なのだろう。人は夢の中では無防備になる、自分をさらけ出すという話も聞いたことがあるしな。
ふと、足が前へ動かなくなった。別に足の行く手を何かに遮られたわけではないようだ。そう、まるで自分で意識して足を止めたかのように不自然さの一片もなく止まった。
彷徨う視線が自然と前方のそれに絡み付いた時、俺は言い知れぬ不安を感じた。
「パン、パン、パン、パン、パン」
そいつは不気味なほどはっきりとそう言った。それはこの際どうでもいいのだが、そいつの容姿がまるで把握できない。確かに目で俺はそいつを見ているのだが、それが脳に伝わる間に何かのプロテクトが掛けられる。そんな感じに伝わらない。
「パン、美味しい、パン、美味しい、でも、パン、喰われたくない」
まるで、言っていることを理解できない、咀嚼する気にもならない。意味不明、その熟語がそいつにはお似合いだ、と思った。
「パン、パン喰われたくない、パン、パン、喰う方にいきたい」
非常に不気味に感じる。だが、自分が何に対してそう感じているのかがよく分からない。何に対してだ? 眼前にいるであろう【何か】にか? それとも精神的に、押しつぶすように圧迫してくる周囲の白い壁か? 鼻に付きまとって離れない重い匂いからか? それとも、それら全てにか?
「パン、パン、パン、喰う方にいく、夢の中だけでも……」
不意に視界が狭まってくるのを感じた。それと同時に足元が波打つように揺れ、膝をその場につけた。慣れることのない濃いバターのような匂いもはっきりと強くなっていることにも気づいた。
そして、今まで見てきた、いや体感した夢の内容がフラッシュバックのように甦った。
「俺、ここでパンに食われるんだ…………」
掘り起こした記憶にはそういう記憶があった。鈍い音とともに視界が赤に染まる記憶が……あった。
狭まる壁、パンの生地に潰されていく身体の悲鳴が妙にクリアに耳に残った。
刺激的だぜ。あまりに刺激が強すぎて抑制されたんだな! はッはッはははは…………願わくば、この夢から覚めた後も【最後まで】この内容を覚えて…………
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うっわー、またパンの夢見ちゃったよ。ありえねー、これで何回目だ? もういい加減にしてほしいぜ。あーパンのこと考えたら腹減ってきたな。
「パンでも【喰うか】」
Q 「最後の方は覚えていない」みたいなことを言っている割に、その中がパンであると、夢から覚めても知っていた主人公は何故そこに疑問を持たないのか?
A それは微妙な伏線
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