表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
一章:すべての終わり
9/101

1-8

「勇介!」

 まだ、夜が明けきらぬ朝方。突然、ユイの声が聞こえた。

 はっと起きて立ち上がると戦闘用の服装になったユイが立っていた。

「保護対象が出来た。こい、写真取れるぞ!」

 その言葉にうなずいて、カメラ一式入ったカバンと、デジカメを持ってユイについていった。

「ユイ!」

「俺はこいつと一緒に行く。そっちはそっちで」

「命令遵守!」

「出来ればなー」

 ミヤビの声を軽く流して、ユイが運転席に入り込む。

「後部座席左側に入れ」

 ユイの指示にうなずいて、左側の席に座る。すると右側からアタエが入ってきた。

「助手席は新人の席。乗り降りしやすいからな」

 そんなアタエの声にうなずいて勇介は深呼吸をした。

「緊張するか?」

「……大丈夫です」

 うなずいて車を飛ばしはじめたユイを見た。

 いつになく真剣な顔をしてふと、思い出したようにそこらへんに転がっていたイヤホンを耳に差して、夜の道を進んでいく。

「……そうかそうか、だいたい事情はわかっている政治犯だな」

 独り言をつぶやきながら、ステアリングを回しながらどこかへ向かっていく。

「ミヤビ」

 片手で無線を使いながら車のライトをハイビームにする。あたりには何もない。

「旧市街の無人区画に入り込んだようだ。普通車じゃ、多くは入れないぞ」

『じゃあ、装甲に乗っているあたし達と、あんたしか入れない。ほかは警備とやつらをまく』

「よろしくー。っと、でてきたな。無人区画出てきて車調達したみたいだ。頭いーな。直結の技術も持っているらしい」

 ユイが楽しそうにつぶやいて、一度車を止めバックさせて方向転換するとこの車の最高スピードで走り始めた。

「見つけたな」

「ああ。遠くのあの光の集団。やつら、馬鹿みたいに光焚いてくれるから見やすいったらありゃしない」

 フロントガラスの向こうに見えたのは確かに光の玉。真っ暗の中、それだけが動いている。

 そろそろかと、カメラにレンズを取り付けて手に持った。

「さ、仕事でもおっぱじめるか」

 耳からイヤホンをはずして、助手席においてあったらしい銃を手にとって窓を開けて出した。

『真ん中横切る。遮断して潰すからその隙で』

「りょーかい。カニさん歩きだな」

 ふざけているユイの言葉にミヤビの返事がなくなった。アタエはふふんと笑って後ろから覗き込んだ。

「こりゃ楽しい現場だ」

 まずフロントガラスから見える風景を納めるために、シャッターを切る。それから、望遠と暗視をかねたスコープを取り付けてカメラを覗き込む。

「どうだ?」

「先頭の車が政治犯だとすると、後ろにバイク、機動隊がついてドラム叩いてますね。たぶん、スコーピオン。二人乗りです」

「ほう? やつらも楽しいね。軍人でも逃げたか」

「なつかしーか?」

「オレんときはドラムどころじゃなかったわ」 

 そういいながら片腕での射撃を始めた。

「……」

 銃撃を受けてひるむ機動隊をシャッターに納めて後ろを見る。

 横からなにかが来て、国防軍の追っ手が寸断された。

「カニさん歩きスタート!」

 と完全に楽しんでいるユイの声と共に、装甲車が横にずれていく。

「あれって?」

「まー。車輪を左右上下に入れ替えられるやつなんだ。あと、光学迷彩、内側から360度外が見えるやつだから、今頃やつらはすりつぶされているな」

 車輪の下が真っ赤になったのもよく見えるわけだ、とからからと笑ったユイが機動隊だけになったのを確認する。

「……気付いたかな」

 穏やかな声と共に、機動隊を撒いて逃げる車に併走する。

 助手席の窓を開けて顔を覗かせる。

「レジスタンスのものだ! 乗れ!」

 声を張ると、驚いた顔の血のにじんだ軍服を着た一人の少年がユイを見た。

 頬に酷い切り傷を負って、血がずっと首のほうまで染めている。

 乗れる範囲まで寄せようとすると、すかさず機動隊の一台が割って入ろうとする。

「伏せろ!」

 アタエの声にしたがって伏せるとすかさず窓が開いてアタエが、バイクの後ろに乗った、銃を構えている男の頭を打ち抜く。

 アタエの隙間で勇介が体をひねってカメラを向けて写真を納める。

「……」

 うつろな目をした笑みに強張った顔と、強い憎しみを帯びた顔が映りこんでいる。

 ぞっとするような、人殺しの写真だった。

「ベストショットか?」

「おぞましいものが撮れましたよ」

 強張った声で言うと、銃をしまったアタエが画面を覗きこんで顔を引きつらせた。

「こりゃ、センセーショナルだ」

「ほう? 良い仕事したか」

 後ろを見てすかさずギアチェンジするとバックで機動隊の隊列に突っ込んで抜けたのを見て、今度は前進させて崩れた隊列に追い討ちをかける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ