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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
六章:動き出す歯車
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6-1

お待たせしました。

更新を今日から始めたいと思います。

 あの日以来、勇介は東支部の動きをけん制しつつ、使える人間を徐々に引き込んでいた。そんなある日、五島に呼ばれてモニタリングルームに入ると、どこか懐かしい男が五島の隣に立っていた。

「あ、ユウ? 来ました?」

「おう? ああ、勇介! 久しぶりだなあ!」

 日焼けした顔に、相変わらずやにに黄ばんだ歯を二カッと出して目じりにしわを寄せた顔は見覚えがある。

「唐崎さん? どうしたんですか?」

 首を傾げてとりあえず五島の手招きに応じる。なぜ、ここに唐崎がいるんだろうかと思うと五島がにやっと笑った。

「長澤大佐の執務室に潜入するにあたって、我々の潜入工作員はあいにく手が空いていないので、暇そうな唐崎君に来てもらいました」

「暇そうなって、五島先輩……。おれ、そんなに暇じゃないっすけど?」

「暇でしょう?」

 首を傾げる五島に唐崎はうっと黙り込んで、ポツリと暇ですと首を落とした。

「……唐崎さんは、どういうことです?」

「唐崎、経歴を」

「は」

 背筋を伸ばして短く返事した唐崎の変化に首をかしげると、彼は、隣にいる五島をちらちらと見ながら口を開いた。

「とりあえず、長澤の同期で、ええと、特務中等教育という名の特務所属ののち、除隊、それから、カメラマンやる傍ら何でも屋を……」

「……は?」

「まあ、現役の工作員ということですよ。本当のね」

 にっこりと笑う五島に、あまり理解ができていない勇介に唐崎が笑った。

「まあ、お前のことをサポートするために五島先輩に呼ばれたっつーことだ。お前も面倒なことを考えたな?」

「……つまり、唐崎さんは……」

 ようやく理解しはじめた頭に痛みを感じ額に指をあてていると五島はちらりと唐崎を見た。一つも聞いたことのないことだった。

「そう。特務所属の連中に関しては結構伝説的に語り継がれているはずですよ? 本任務就任直後にもっともらしい理由をつけて逃げたって」

「……十六に上がったと同時に?」

「そ。まあ、親を口先だけで殺して軍部から逃げた。……俺が軍部にいたら長澤を助けることはできないからな」

「……なぜ?」

「なぜって、あいつは俺のダチだからね。……不器用でさ、もともと、ガキの頃は感情の起伏が激しい奴だったのに、高度中等教育を受けている間から、感情の表現が薄くなって、一定の成績を納められるようになった。……軍部では機密って言うのがあるから、外に移ったんだよ」

「……」

 あの父親が感情の起伏が激しい、なんてと思いつつ、ふと、兄がブチ切れたり自分がキレたりするのはそこを受け継いでいるからか、とも思い当たって渋い顔をする。それを見て唐崎は、自覚済みか、とからからと笑う。

「で、父はあなたを相談相手に?」

「ああ。たまに飲みに行く。お前の再就職先もそうだった。勇一がいなくなってから、お前が勇一の代わりに責められて暴行を受けていると。そのために退役させて、再就職先を探してやりたいって。このご時世、元軍人は嫌われているからな。スパイかもしれない、とも疑われる。だから俺が引き取ることにしたが、その結果がこれだ」

「……それでも、俺はここにこれてよかったと思っています」

 自嘲気味に言った唐崎に間髪入れずに勇介が言いつのる。その目はまっすぐな視線で、勇介がカメラマンとして働いているときには見られなかったものだった。

「いい目をするようになったな」

「五島さんや、与一さん、由輝さんのおかげです」

「……与一に由輝だと?」

「お知り合いで?」

 思わず首を傾げると、唐崎は信じられないものを見るような目で勇介を見て五島に確認する。

「与一って、二つ上のクマさんですよね? 由輝は長澤が唯一取り逃がした特務員で……」

「錚々たるメンバーに見守られながらここまで育ちましたよ」

 満足げに笑う五島に唐崎はぽかんとしながらくしゃっと顔をゆがめた。

「そうか。そりゃよかった。長澤に言っとくよ」

「余計なこと言いすぎてここが特定されるなんて馬鹿はやらかさないでくださいね」

「大丈夫ですって。んで? 今日やるんですかい? 先輩?」

「いえ、さすがに今日はいきなりすぎでしょう」

「俺はかまいませんぜ?」

「俺も、基、そのために呼び出されたと思ったので、あとは装備を整えるだけで出撃できますよ?」

 やる気満々な二人に気圧されながらも五島はため息交じりに肩をすくめる。ついでにずれたメガネを直すしぐさがとても様になっているのは年のせいだろうか。

「とはいっても、あちらの都合があるでしょう。来週、また大規模な演習があると聞きました。そこでどうです?」

「……今は事務仕事で机に向かっている、ということですか?」

「そういうことです。今行くのはきつい。唐崎君は報道関係者として潜入して、その日割りを割り出してください」

「了解でーす。んで? 勇介にはなにをやらせんで?」

 まるで、俺ばっかり、といわんとしている彼に勇介は肩をすくめた。

「ユウは内部の面倒な連中の相手を引き受けてくれてますので」

「面倒な連中?」

「反乱因子です。簡単に言えばね」

「そんなのいるのか?」

 五島は肩をすくめて見せてそっぽを向いた。勇介も苦笑をしている。

「どうした?」

「本当は切り捨てたいのはやまやまなんですがね、さすがにあの大人数処刑したら士気にかかわるので」

「……ざっと三十名ほど。何とか、使えるようにしているんですが、追いつくかどうか、っていうのが俺の本音ですね」

「ですよねえ。全員引き揚げるには五分五分。まあ、その間の任務で何名かなくなることを想定してますけど」

 はたして何人死ぬことにしているのだろうか。聞きたい衝動に駆られたが、そうもいかないだろう。

「あの勇介がねえ……」

 感慨深げに呟く唐崎に勇介はなんとも言えずにそっぽを向いていた。それを見て五島は微笑んでいる。

「土に埋まっていたけど、肥料が足りなかった種です。由輝と与一がいい肥しになったんですよ。……それと、自分では自覚はないでしょうが、反抗心も少し芽生えてきてますよ」

「え?」

 首をかしげると五島はそれ以上言うつもりがないように謎めいた笑みを浮かべて唐崎に何かを耳打ちした。それを聞いた唐崎はおっとした顔をして勇介を見た。

「ふーん。いいことじゃないっすか?」

 笑う彼に勇介は眉を寄せて首を傾げてむっとしていた。

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