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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
五章:移ろう時の中で
80/101

5-15

「いや、もう遅い。あのバカども」

 舌打ちして、五島を見た。

「窪地に集めて一気に爆破だと思いますか?」

「……そうですね。三百六十度の一斉掃射でしょうね。これだけの規模だ。まともには帰ってこられませんね。……別に全員はいらないが、数名使えるのも搭乗していたはずですから、それが消えるのは痛いですね」

「……国軍の車を爆破させて穴を作りましょうか?」

「……それが最良ですね。それぐらいしか考えられない。作るとしたら……」

「レイ! 指揮車はどっちにいる?」

 無線に語りかけると、太陽を十二時として三時半という答えが返ってきた。

「これですね。指揮車をRPGでぶっとばしたのちに装甲車で突撃しましょうか」

「……運転手誰か手配してください。行きます」

「お願いしますね」

 勇介は携帯無線機をもって走り出した。

「誰かRPG!」

 その声に反応した誰かがどたばたと走ってRPG-7を持ってきて、同時に五島の声によって動いたチイが装甲車に乗りこむ。

「東の連中助けるのかよ」

「しゃあない。恩でもうってやる」

 舌打ち交じりに、言って、無線機でやり取りを始める。まだ、外に集めていて、それが窪地の中に入り次第作戦開始というところだろう。窪地は車では簡単に抜けられないぐらい深い穴になっている。まだ、遠巻きに国軍車が見守っているというところだろう。

「全員が入って集まりかかった国軍の指揮車に向かってRPG、そのあと、その穴をねらって三台並列して突撃。そののちに、直線状に抜けましょう」

「大丈夫か?」

「経路選択に関しては五島さんに任せますから」

 それが最良だろう。一応五島からはあのタブレット端末の映像を逐一流してもらってるが、多少の誤差があるかもしれない。

「ということでお願いします」

『りょーかい』

 車同士の意思疎通を図る為、別バンドで無線を使っている。思いのほか元気な声にほっとしながら端末をのぞき込む。

『大丈夫かい、新人』

「ええ。やって見せます」

 無線に向かって言うと向こう側からそれは頼もしいなという馬鹿笑いする声が聞こえた。とりあえず放っておいて、RPGの具合を確かめる。

「もう少しで地点だ」

「了解」

 機関銃が装備されている上にハッチを開けて外に顔を出す。

「ばれんなよ」

「大丈夫です」

 肉眼での目視をして勇介は目を細めた。

「今、何台はまりました?」

「……もう一台で終わる」

 とおっ立てられて爆走してくる車があった。それを見て眉をひそめた。前も後ろも確認していない走りかただ。猪突猛進とはこのことだろうか、と思いながら勇介は来る時を待った。

「まるでゴキブリホイホイだな」

「言い得て妙ですね。奴らはゴキブリか」

「まったくだ」

 車が続々と集まってくる。

「ちょっと下がって左にずれてください」

「りょーかい」

 チイが慣れた手つきで移動させていく。

「OKです」

 RPG-7を構えてサイトをのぞき込む。望遠レンズらしいそれのおかげで指揮統制車のアンテナが確認できた。

「盛大に花火打ち上げてやろうぜ」

 隣の車からそんな声が聞こえた。片手を上げて応じて、目を細める。

「いいか、お前ら。国軍の包囲されてる。俺たちがRPGぶっとばしたら車外へ出ろ。なるべく車のそばを離れるなよ。車のそばに俺たちの装甲車を横づけする。そしたら、すぐに乗り込んで撤退する」

 チイの無線が聞こえてくる。それでも何か不服そうな雰囲気が無線越しに伝わってくる。

一度狙いをつけるのをやめて足で無線の受話器を取り上げて語り掛ける。

「元はと言ったらお前らがバカみたいに走るからこうなってるんだ。文句は言わせないぞ」

 どすの利いた声を作って語り掛けると、窪地にはまって動けないでいるらしいバカどもはおとなしくなった。

「犬死はしたくねえだろ。だったら従え」

 最後無線を下に叩き付けて切ると狙いをつけなおす。

「レイ、どうだ?」

『大丈夫だ。車で囲われたところに俺たちはいる』

 それなら多少車を当てて飛ばしても人を引くことはないだろう。考えることは考えたらしい。

「了解。もう少しだ」

 チイの言葉に勇介はため息をついて気持ちを落ち着かせる。車は着々と窪地に近づいている。もう少し集まって、もしかしたら爆発に爆発が重なるように。狙うのは車が停止したその瞬間。

「行くぞ」

 その声に機関銃に体を預けてRPGを構えていた男たちがおうと声を上げた。指揮統制車が止まった。引き金を引く。

 わずかにぶれながらも進んでいく三条の白い煙。引き金を引いた瞬間にはもう装甲車は移動を始めていた。

 中に身をすべり込ませながら、爆発音を三回聞いた。上のハッチを閉じて左右後の三か所のハッチの鍵を開ける。

「うまく抜けた。おちるぞ」

「了解」

 がくんと上下に揺れて思わず体勢を崩し手短なところに掴まる。そのまま落ちるように滑り、急ブレーキが踏まれた。いよいよか、とハッチを開けてやると、人がなだれ込んだ。命に係わることは早いな、と思いながら、大体の定員を迎えたことにハッチを占める。

「収容完了」

『こっちもだ』

『今完了した』

「撤退!」

 無線に叫び、その声を聴いたチイが思いっきりアクセルを踏む。

「ユウ」

「レイ、無事だったか」

 やつれきった顔をしたレイにほっとして笑う。

「ああ。何とか。すまんかった」

「いや、無事ならいい。今回はお前が指揮を?」

「……一応。端末もらってくりゃよかったが、横着しちまった」

「以後こんなことないようにな。車十台お釈迦だ」

「……面目ない」

 うなだれるレイに肩を叩いて気にするな、とつぶやくと、ふと、収容人数が少ないことに気付いた。

「戦死者は?」

「七名。……あれだけ囲まれていたんだったら少ない方だ。おそらく、アンテナぶっ壊したことでパトロールが厳しくなっていたんだろう」

「そうだな」

 うなずいて、するすると上のハッチを開けて追っ手を見る。

「くそ多いな」

 とりあえずRPGを構えている追っ手の車を見つけ出して、おなじRPGで応戦してやる。

「ユウ、旧東支部を通って帰る。東支部にしこたま爆薬が仕込んであるから、それを起爆すれば、奴らも途切れるだろう」

「……そうか。レイ、頼む」

「了解」

 機関銃を握って勇介はとりあえず、後ろからくる車をけん制していた。

「にしてもド派手にいくな」

 チイがぼやく。その言葉に勇介はなにも返さずにちらりと振り返って東支部だった建物を見た。旧市街地区の一画の平たい、元は室内運動場だっただろう広い建物だ。

「……っ!」

 東支部のはるか先に、一台の車が止まっているのが見えた。思わず、スコープを覗くと、そこにいたのは、一人の青年だった。

「――?」

そんなわけないと思った。だが、その面差しには見覚えがある。

「どうした?」

 報告するべきか否か。スコープの先の彼はふっと目をそらして掌にある仮面をかぶりなおして踵を返した。

「そろそろ爆破するぞ、ユウ、戻れ」

 外の映像を見ながらレイが言う。このまま穴だらけの東支部に突っ込んで適当な場所で外に出て爆発させるという。

 呆然としながら中に入って、切り替えるように目を閉じた。

「どうした?」

 首を傾げるレイに首を振って映像を見た。

「大丈夫だ。何でもない」

 ガタガタと車体が揺れる。中に入ったようだった。

「あのバカども一緒に入ってきやがった。包囲もされんだろうが大丈夫だろ」

 いざとなったら体当たりだな、とチイが楽しそうに言ってすぐに抜ける。そして、爆破の影響を受けないあたりまで行ったのを確認して、爆破のボタンを押した。

 先ほどの爆発音と比べ物にならない地響きを伴った強い衝撃に、だれもが体をすくませていた。

 車はしばらく走って、三ルートに分かれて本部へ戻っていく。

「追っ手は?」

「確認します」

 上のハッチから外を見ると、車は確認できなかった。サーマルゴーグルを併用してみるが、人や車らしき反応は見られなかった。上も大丈夫。

「大丈夫です。完全撤退」

「りょーかい」

 ハンドルが切られてまっすぐ本部に入る。

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