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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
一章:すべての終わり
7/101

1-6

「……」

 さて、と、ピッチャーとコップを洗って安全な水は確保できたと、心の中でつぶやいて部屋の中を見回す。

 質素な部屋。

 だが、組織としては、外部から入ってきた人間をそうやすやす中に入れるわけない。ましては泊めるわけない。

「盗聴器、だね」

 ぽつりとつぶやいて、苦笑を浮かべる。

 本当に、これは習慣だった。

 兄がよく、部屋に盗聴器を仕掛けて遊んでいた。

 そして、それを宝探しと称して自分に探させていた。どんな意図があったにせよ、少しは役立つ。

「……」

 ざっと見回して兄が隠していたところをじっくりと観察していく。

 まず、妖しいのはコンセント。だが、そこはありきたりすぎる。

 よしんばあってもダミーだろう。

 そう思いながらコンセントを軽く蹴る。

 聞いている人がいれば耳が痛くなるだろう。

 あとは、机の鍵穴。可能性が一番高い。

 ここで大体の作業をするから。後は、服にさりげなく取り付けられている可能性もある。

 だからといって警戒する必要はないし、気持ち悪いという感情は抱いてもおかしくはないだろう。

 ごんと、軽く鍵穴にこぶしを当てて、紙を手にして、今、知っているこの施設の配置を書いていく。

 とはいっても、車庫とヨシの部屋と、食堂と、自分の部屋の周り、給湯室だけだが。広さも地上か地下かもわからない。

 水に口をつけてため息をつく。

「勇介」

 ノックと共に入ってきたユイ。

 片手で耳を押さえていることから、盗聴器でここの音を聞いていたらしい。

「お前、本当に記者か?」

 静かな問いに、勇介はそっとため息をついた。

「ただのカメラマンです」

「ただのカメラマンが、盗聴器の場所、正確に蹴り上げたり殴ったり出来ないだろうが」

 扉を閉めてそう聞いてくるユイに、勇介は深くため息をついて肩の力を抜いた。

「幼いころからの訓練のたまものですね?」

 首をかしげて見せた勇介にユイが足音を殺して勇介に一歩近づく。

 それを見て勇介は目を細めた。ユイの足元にも盗聴器が仕掛けられている。

「……ここで何者かしゃべるわけないじゃないですか」

 抑揚をなくしてそういいながら、コップにあった水を鍵穴に向かってかけてピッチャーの中の水をコンセントにかける。

「お前!」

 思わず腰にある銃を抜いたユイに勇介は静かに対峙する。

「防水性じゃないみたいですね。よかった」

 そういって少しだけ声を潜める。

 身近にある盗聴器はこれだけなのだろう。あとはユイの近くにある。

 音の死角を作らないために数メートルおきに設置してあるはずだった。

「……」

 ユイが距離を詰めていく。獲物を捕らえるようにひそやかに、確実に。

「長澤和成大佐。ご存知ありませんか?」

 ポツリとつぶやく。

 その言葉にぴたりとユイの足が止まる。

 父の名は、軍をよく知るものにとってはかなりの脅威になることを知っている。

「ああ、よく知っている」

 低い声に勇介はふっとうつむいて口元に微笑を浮かべた。

 ここでしか役に立たない父の名前。仕事一筋でいた父を出せば、それぐらいの訓練をされていてもおかしくないと、わかってくれるだろうと思った。

「家族、とりわけ、息子と仲が悪いことはよく知っている」

「……。じゃあ、その息子が俺だとすれば?」

「……」

 ユイがなにかを探るように勇介を見る。

 そして、ため息をついてバックパックから何かを取り出すとピンを抜いて放り投げた。

「掃除は自分でしろよ」

 そういう声と共に投げたものから噴出してきたのは金属粉。チャフだった。

「これで一定時間盗聴を無視できる。俺から話す情報がある。聞け」

「……」

 こくりとうなずいてユイを見る。その視線を受け止めて口を開く。

「お前の兄貴は、勇一だな?」

「ええ。長澤勇一、です」

 まっすぐなその返答にユイは、ふっと視線をそらすと、勇介が望んでいるであろう一番の情報を口にした。

「長澤勇一はかつて、このレジスタンスにいた」

 ポロリと言われた言葉に目をむいた。

 思わず詰め寄ってユイの肩をつかんでいた。

「本当ですか!」

「……やっぱりそうか。お前、兄貴を探してたんだな」

 痛いほど指が食い込んでいるだろうに、ユイの表情は崩れず、静かな顔のままだった。

 レジスタンスに潜入取材、そんな危険を冒すのに必要なのは理由だった。

 理由がなくこんなところにもぐりこむわけがない。

 それが、ユイ、アタエ、ミヤビの見解だった。

 アタエとミヤビは推測が出来ずスパイを疑っていた。

 だから、食事には盛らなかった睡眠薬を、不慣れな二人は眠った勇介に嗅がせて、その隙に盗聴器を仕掛けたようだった。

 だが、前もって、勇介の苗字を聞いていたユイには、思い当たる節がある程度だったが、推測はついていた。

「……」

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