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言いたいことを言っていると、後ろに人の気配を感じて男の頭を突き飛ばすように離して、しゃがみこみながら振り返って腕をかざすと冷静な顔をした男が両手を上げた。
「気が立っているところ、後ろに立って悪いな。そのバカども、俺の部下だ」
「……というと、あなたも東の?」
「新人も知っているのか?」
「あなた方と本部、とくにユイさんとミヤビさんと仲が悪いことは知っています。それが、イサムさんの死をきっかけに深まったことも」
「ふん、それだけ知ってるなら、いいだろう。……ったく、今それどころじゃないことはわかってるだろうに、このバカどもは」
「……あなたの差し金ではないということですか?」
「寝起きの頭にしては鋭いな」
「それぐらい疑って当然でしょう」
「まあな。そいつらは好きにすればいい。オレの命令に背いた時点でそいつらはオレにとって謀反者だ」
「……そう報告しておきます」
頷いて勇介はため息をついて、あわただしくやってきたミヤビとその他面々を見てため息をついた。
「お仲間たくさんでいいな」
皮肉った言葉に鼻で笑って勇介は男を見た。
「それにしても、イサムのケツを追いかけまわしているのか。言い得て妙だな」
「記憶にしかない、イサムのケツ追い掛け回して……。あの人がこの人たちを見ていたら、盾突いた時点で殺してますよね」
「? イサムはそんなことしないぞ?」
「それは、あなたたちにそんな一面を見せなかっただけです。……あの人は、組織にとって完全に足を引っ張っていると判断した人間に対しては、……虫けらを見るように、そして、それをつぶすのにためらいはない。知りませんか? 軍時代に、上官を殺して、謹慎になったの」
「知りませんかって、知るわけねえだろ。諜報の連中じゃあるまいし」
「……そんなことも知らないのに、あの人のこと、知ったかぶりしてほしくないですね」
バカにするように鼻を鳴らしてそういって、立ち去ろうとすると肩を掴まれた。
「知り合いかなにかなのか?」
その言葉に、すっと目を細めて手を振り払った。そして、少し低い声を出した。
「自分で察せよ」
兄の口調を真似していうと、ミヤビたちに報告するために近づいた。
「ユウ、これはあなたが?」
「ええ。口ほどにもない連中でした」
こともなげに言ってふらふら状態の男たちを見て、またこぶしを握った。
「ユウ」
「ちょっとすいません」
まだナイフを握っている男を見つけて手を踏んづけてやる。
「ぐお……」
「イサムならこれぐらいやっている。お前らがイサムの影を求めるならば、あの人がやりそうなことをやってやるよ」
そのままどいて手を蹴りつけて、指の骨を折る。
「次、誰かいないか?」
「ユウ、やめなさい」
「……つけ上がっている連中には一度痛い目を見せなければなりません。これぐらいやっても戦力の低下にならないでしょう」
そういいながらも勇介はミヤビの横に並んで連行されていく男たちを見ていた。
「どうしたの?」
「いや、あの人たちが知っているイサムの姿は、英雄そのものだったんだろうなと思って……」
「……。そうね」
ぽつりとつぶやいてうつむいたミヤビを見て、勇介はふっとため息をついた。
「イサムは、国軍へ攻勢に向かえないいらだちをうまく発散させて、意識を国軍に向かわせた人だから。でも、きれいなことばかりで抑えられていたとは思えないわ」
「……そうでしょうね」
肩をすくめて、ふっと表情を緩めた。
「俺が寝てる間も、こんな感じだったんですか?」
「いや、あたしが動くときはアタエか五島がついてきてたから。今日はたまたま……」
「……内部に敵が何人いるかわからない状態ですから、一人であまり動かないでくださいね」
素直にミヤビがうなずくのを見て、あとは現場に任せてミヤビを食堂に連れていく。




