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そして、翌日。
どこに盛られていたのか、また、盛られてしまった勇介は、ボーとする頭で指揮統制車に乗り込んでいた。
「おう、良く寝られたか?」
と、したり顔で聞いてくるユイに、さすがにいらっとして、嫌味で返すと、意外な顔をされた
「お前も言うな」
「すいません。寝起きで機嫌悪いだけです」
それにくわえて、頭痛いし目、開けてられないしとぼやくと、ユイが、仕方ないなと笑っている。
「まあ、とにかく悪かったよ」
わしわしと頭を撫でられて目を細めると、見ていたミヤビが呆れた顔をした。
「ユイ、子ども扱いしすぎ」
「だって、オレからしたらまだまだ子供さ」
そういってユイは、ミヤビが覗き込んでいる地図を一緒に覗いて、ふむふむと頷く。
その表情がしまりのないものから真面目なものになっている。
「五島とは話はついているのか?」
とはじまった簡単な会議の様子をぼんやりと勇介が見ていた。
「勇介」
「はい?」
「寝てて良いわよ? 毛布そこにあったよね?」
「ああ、そうだな、そこ、物ないから横になってても平気だぞ?」
その言葉甘えて勇介は毛布をとって差されたところで丸くなる。
「効きすぎたのかねえ?」
「どうなんだろ、体調に左右されるからね」
そんな会話を聞きながら勇介は眠りに落ちていった。
夢も見ないぐらいの眠り。
「勇介ー?」
呼び声にふっとまぶたを上げると、ユイの顔が目の前にあった。はっと目を見開く。
「わっ」
思わずはねのけ、飛び起きて、片膝をついた状態で構えると、周りにいた隊員たちが驚いた顔をする。
「あ」
ユイが苦笑していた。
辺りを見て気まずさに顔をそむけると、ユイは勇介の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「悪い悪い、驚かせたな。ついたぞ」
「え?」
ハッチが開き、顔を覗かせると、車庫についていた。
「降りられるか?」
足取りを確かめてうなずいて、車から出てユイを待つ。
「よし、帰るぞ」
ユイの案内で暗い車庫を歩いて部屋に戻る。
部屋に戻れば、ユイがすぐに出て行って、ばたばたと足音が聞こえた。
その足音を聞きながら、部屋に用意してある水を捨てて部屋の外に出た。
「どうした?」
「水って、どこに?」
「ああ、こっちだよ」
監視だろうか、アタエが部屋の外に立っていてそれにピッチャーを見せると、納得したようにうなずいて給湯室まで案内した。
「盛られてると思ったか?」
「さすがに、あそこまでされちゃ、警戒して当然だと思いますが?」
肩をすくめてそう答えると、アタエはそりゃそうだとからからと笑った。
「やっぱお前、記者っぽくないわ」
「……すいませんね。父が厳しい人で」
それだけ言うと、いつも眉間にしわを寄せてばかりの父の面を思い出す。
兄と自分が幼い頃は普通の父親であったように思える。
だが、兄が成長するにつれて、家には戻らなくなって、自分が少年兵科を修了する頃にはあの人呼ばわりだった。
「勇介?」
「あ、すいません。戻りましょうか」
うなずいて、給湯室からでて部屋に戻る。その間、アタエと若干世間話のような会話をした。