3-8
「ちょっとこれ借りていいですか?」
そういいながら初弾を装てんして構える。
「kar98k、か」
慌てて後退する車のフロントガラスちょうど運転手側を狙って引き金を引く。
「見事!」
「もう一発入れます。カバー!」
静かに告げてボルトを引いて排莢。また、構える。
「もう一発って?」
と、聞かれたのと同時に引き金を引いていた。
後退した車のフロントガラスにあいた穴のわずか数センチ横に着弾。
一発目が当たったことによって飛び散らなかったガラスが見事に吹き飛ぶ。
「お前」
「窓ガラスが取っ払われたら運転手を狙います」
冷静な口調に周りがごくりと唾をのんだようだった。
勇介は、一度しゃがみこんで相手から姿を消す。
銃を手に異様な雰囲気を振りまいている勇介に、誰もが言葉を発することもできずに固唾をのんでいる。
「行けるか?」
「ええ。フルオート見舞うより効率的でしょう?」
窓ガラスを手で割って取っ払って加速して追いつこうとする車に勇介は立ち上がって狙いを合わせる。
あちらは慌てているが、もう遅い。
ハンドルを切ることを予想して少しずらしたところに狙いを合わせて引き金を引く。
銃声とともに弾が長い銃身から飛び出ていく。
「……」
誰もが絶句していた。
見事に命中。
運転手の額に当たって、一発で戦闘不能にしたのだった。
すかさず排莢して助手席でフルオートを見舞ってくれている男の首を狙う。
「お前、狙撃班にいたのか?」
「いいえ。CQBです。でも、狙撃も好きでしたね」
完全に車はコントロールを失って森の木に突っ込む。
その後ろから機動部隊、バイクが飛び出してきて、すかさず銃弾が飛んできた。
「おっと」
ライフルを投げ捨ててアサルトライフルに持ち替えた勇介は、片手でグレネードのピンを抜いて少し手に持ってから投げる。
地面に落ちる直前で爆発したグレネードの破片がバイクに刺さり、また隊員の足や手に刺さったようだった。ふらついた車両を狙ってフルオートの線が追う。
「やるな」
「大したことないですよ。新人らしくしおらしくしてて殺されるなんてまっぴらですから」
肩をすくめて返すと、男たちは気に入ったと豪快に笑っていた。
「あんちゃんは国軍にいたんかい?」
「二年前まで。二年前からはカメラマンでしたよ。えと、これかな」
ポケットを漁って出したのはデジタルカメラだった。
それを見てミヤビが目を剥いて、周りもぎょっとしたようだった。
「ちょ、あんたねえ!」
「暇なときに写真撮ってるんですよ。つーか、ちょっと撮っていいですか?」
冗談交じりにそういうと、本気にしたらしい隊員があきれ交じりに銃を手に立ち上がった。
「んじゃ、オレが変わってやるよ、ほれ、取れ。取って国民にばらまいてやろうぜ? 奴らは殺戮を楽しんでいると」
その言葉に甘えて銃を渡して弾薬を足元に置いてやると、弾が当たらないように奥に引っ込んでからデジタルカメラを起動してズームをかける。
「ユウ」
「すいませんね。ずっと、トイレとか飯とかの時に取ってたんです」
戦闘を走っている男の顔にピントが合うようにして写真を撮る。
「どんなの取ってたの?」
「普通に荒野に野営地点、天幕が張ってあったり、あいつらの休憩風景とか、あとは……」
「戦ってる姿?」
「ええ」
静かにうなずいてデジタルカメラをミヤビに渡す。
このままポケットに入れておけばグレネードと一緒に投げてしまいそうだ。
「見てていいですよ。すいません。もうすみました」
「おう、そうか。んでも機動はめんどいなあ」
「まあ、ちょろちょろしててめんどいですよね。どうしようか」
やはり一斉掃射で逃げ道をなくすしかないらしい。
二人でうなずいて、使われていないアサルトライフルをもう一つずつもって、その意図に気付いたもう一人が二人の間を埋めるように立って、二個持ちをする
「行くぞ」
「はい」
せーの、と言いながら引き金を引いて両手で腰だめで撃って、左右に逃げ道がないようにばらまいていく。
そこでバランスを崩してくれればいい。
「狙います」
やがて遠くに退いたバイク集団に勇介と、もう一人がバイク本体を狙って撃っていく。
「だいぶ引きましたね」
あるバイクはバランスを崩して後ろを巻き込んで、将棋倒しのように倒れていく。
あるバイクは、弾がガソリンタンクに当たったらしく引火して一気に爆発していた。
「よくやった!」
ほとんどバイクが消えて、荷台にいた先輩たちが声を上げた。
隣で一緒に戦っていた先輩とこぶしを突き合わせて笑い合って、警戒役を引き継ぐ。




