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「ユイ」
廊下の途中、黒いジャケットを身にまとった美貌の女性とすれ違い、ユイと後ろにいる勇介を見てユイを呼び止めた。
「おお、ミヤビ嬢、なんだ?」
「後ろのは?」
一応聞いておくといった彼女にユイはにっと笑ってウィンクをつける。
「前、話したろ? カメラマンさんだ」
「あー、取材の? 大丈夫なの?」
「ああ。たぶん、従軍経験者。歩き方から染み付いているからおそらく少年兵科課程を修了して、なおかつ、青年科、つまり、少尉以上だっただろう。邪魔にはならない」
得意げに解説して見せたユイに勇介が唖然と見ていて、納得したようにミヤビ嬢と呼ばれた長い黒い髪が綺麗な女性はうなずいた。
「そう。それなら大丈夫ね。ヨシも待っている」
「だな。おし、勇介、行くぞ」
「あ、はい」
ミヤビ、に目を向けて会釈を送って先を行ったユイを追う。
「なんで……」
「三つ子の手習いなんとやらっていうだろ? 少年兵科はまず基礎として歩き方から徹底的に叩き込む。軍から離れてもそう簡単に忘れられるものじゃないさ。それと、少年科を修了して、青年科に入ると、出世が早いからな、一年以上いただろうことを考慮すると、少尉ぐらいにはなっていたはず、と思ったんだが、どんぴしゃだったろ?」
「ええ。……最終が丁度少尉でした」
笑ったユイに勇介はすこしだけ後ずさっていた。
そんな勇介に気付きながらもユイは笑ったまま、勇介をチーフの部屋に入れた。
「よっさん、カメラマン連れてきた」
「おう、ご苦労だったな。パシリ」
「あとで酒だな」
机に向かって帳簿をつけていたらしい男は、立ち上がって勇介に目を向けた。
髪を撫で付けた彼を、勇介はまっすぐと見て頭を下げた。
「はじめまして、勇介といいます」
「お疲れ様。私が、このレジスタンス、クロートーのチーフ、平沼良哉。メンバーにはヨシと呼ばれている」
「よろしくお願いします」
頭を下げていった。ユイを見るとにっと笑ってうなずいていた。
「連中に紹介の後、写真とって良い施設……、食堂とあとなー。廊下?」
「医務室も別に大丈夫だぞ?」
「対した施設は写真とらせらんない、かな。文章も俺のほうで検閲させてもらう。しいて言うならば、詳しい解説はしないでくれ」
「……はい」
「あんまり危険なところには連れて行けないだろうが、まあ、簡単な活動のときはつれてって、その時は別に、制限なく、でいいよな? よっさん」
「ああ。どうせ、国軍の連中には顔が割れている。しかし……」
「どうした?」
「キミの出版社もかなりな無茶するな。レジスタンスに潜入して写真とったって言ったら国軍も黙っちゃいないだろ?」
頬をかいた勇介にヨシは首をかしげた。ユイは静かにそれを聞いている。
「どうせ、裏出版ですから。たいしたことないと思いますよ」
「こんなヤマも乗り越えたことがある、と」
「さあ。下っ端ですから」
肩をすくめて言う勇介を見てか、ヨシとユイがそろって首をかしげた。
「下っ端?」
「確かに下っ端じゃなきゃこんなところによこされないが……」
「二年前まで兵士、だったんです。……諸事情によって退職して、知り合いの伝でカメラマンに再就職、ということです」
「結構めんどくさいとこ行ってるんだな」
「……そうですね」
苦笑して言うと、まあ、気負わずがんばってくれ、とヨシは笑って、用が済んだといわんばかりのユイにつれていかれ外へ出た。