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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
3章:思い偲ぶより思い出して笑って
35/101

3-2

「ユウ。放しなさい」

「放したらどうしますか?」

「……」

 無言の答えに勇介は腕をつかんだ力を少しだけ緩めた。ここで手形をつけても意味がない。

 ミヤビはただうつむいて足元を見ている。それを見ながら勇介は穏やかな口調を心がけて口を開いた。

「ユイさんの後を追わせるわけないでしょう。なにが起こったのかはわかりませんが、良哉さんの身に何らかのことが起こって、全指揮権がミヤビさんに移ったんでしょう? ならば、オレはあなたを守らなければならない。そうじゃないと、この組織は瓦解する。国軍に負けてしまう」

 腕をつかんで、怯えたような目をしているミヤビの目をまっすぐとのぞき込んでゆっくりと語りかける。

「オレがあなたを守ります。だから、あなたはこの組織を守って。あなたがここに、組織にいれば、大丈夫」

 今は有事。慌てる暇も、取り乱す暇もない。

 自分に言い聞かせている言葉を、ミヤビにささやくと、ミヤビは目を見開いて勇介を見た。

「いいですね?」

 畳みかけるように聞くと、ミヤビは震えた瞳で勇介を見つめ、ふっと瞼を落とした。

「ユイさんは大丈夫です。特務ならば、自らの死すら上官にゆだねる。彼の上官はあなたです。あなたが死んでいいと言わなければ、あの人は死にません。それが、特務の誓約です」

「誓約?」

 静かな問いに勇介はうなずいて無線機に手を伸ばす。車内は装甲が厚いのか、周りの音を一切遮断している。

「無線で聞いてみます? あの人のことだ。どうせ盗聴でもしてるでしょう」

 そういって、おいてある無線機のチューニングを合わせてユイを呼び出す。

『やっぱり気づいてたかー?』

 悪びれもない言葉と共に銃声が聞こえている。

「ごみ掃除はどうです?」

『でっかい粗大ごみの集団がめんどくさくてよ。まあ、目つぶし焚きまくってるから大丈夫だけど』

「閃光弾ですか?」

『ああ。奴らサーマルゴーグル持ってないか暗視に着けてるかどっちかだから、閃光と煙で攪乱してバカスカやってるわ。ま、連中、俺たちぐらいの時より確実に雑魚くなってる。統治が進んで平和ボケしてる連中って感じだ』

 銃声が飛び交う向こう側でユイが軽く笑い声を立てた。すぐに三点バーストの銃声。

「モザンビークです?」

『いんや? ただ顔吹っ飛ばした』

「何人?」

『三人。だまになってやがる。まあ、新兵が混じってるっぽいんだな。ま、これが黎明期を生き抜いてきた先輩の弾だって。代償の高い授業だ』

 余裕そうに言いながらさらに銃声。そして、マガジンチェンジの音。

「敵規模とユイさんの部隊の全容は?」

『敵はおそらく一中隊。まあ、暇なんだろう。ジャンジャン送られてくるから二中隊ほど殺ったかもだな。表にいて展開していた連中の規模を減らしてこっちに送ってるのかもしれない。表の状況確認してもらっていいか?』

「了解です。ミヤビさん、確認を」

「わかった」

 ミヤビが近くにあったノートパソコンを開いて耳にイヤホンを指して何かを言っている。

『ユウ』

「なんです?」

『やっぱ俺が見込んだ通りだな。その調子でミヤビを支えろ』

「え?」

「ユイ、ビンゴ。最低限表に出てきたら叩ける程度の戦力をもって裏に送ってる。移動が見られた。対地ミサイル部隊が応戦。外も結構火が上がってる」

『花火揚げてるのな。んじゃこの無線も感づかれているかな。秘匿回戦開くぞ』

「ミヤビさん」

 憔悴しているがだいぶましな顔色になったミヤビがうなずいて手馴れた手つきで無線機を操作してうなずく。

「コード01、聞こえるか? オーバー」

『OK。ライトアップなう。なんて言ってみたりして? 暗号化コードは、ミヤビ、あれか? オーバー』

「あれよ。なってる?」

『ああ。たぶん、あっちは暗号わかんねえだろうな。ん? ああ、んちょっと閉じるわ。忙しい』

「了解」

 ミヤビに目を向けてうなずく。

「コード01」

 凛とした声が無線に語り掛ける。

『はいよ?』

「死ぬことは禁ずる。戻ってこい」

 静かな言葉に勇介は小さく笑って無線を見つめる。無線越しに激しい銃声が響き渡っている。

『勇介、お前、いらねえ知恵渡しやがったな?』

「あなたの今の上官は誰ですか? オレはこの覚悟を決めましたが?」

 笑った勇介にミヤビは首を傾げる。勇介はそっとミヤビに笑いかけてもう一度無線を見る。

『しゃあねえな。わかったよ、ミヤビ。帰ってくる』

 そして、アウト、という言葉を残して無線が切られる。

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