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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
二章:中と半端
31/101

2-14

 そして、翌日、翌々日と、数日間皿洗いをして日々を過ごしていた勇介は、どこかそわそわとしていて、そのたびに五島になだめられ明に笑われるという一日を過ごしていた。

 そんなある日、勇介がいつものように起きて、お店のほうに顔を出すと何やら話し込む、黒髪に染め戻したらしいユイと五島がいた。

「ふーん。やっぱりか」

「見えてたんですか?」

「ああ。あの人ならやりかねないしな。お、おはよう」

 ユイが目ざとく気づいて手を上げて勇介を手招きする。

「おはようございます。えと?」

「明がいるので明にやること聞いてください」

 ユイに目くばせした五島は、そのままユイと出て行ってしまった。

 それを見て首をかしげると勇介は厨房に入って皿洗いをまた任された。

 どうやら固定の仕事になりそうだな、と思いながら、スポンジを握る。

 そして、皿洗いとお昼休憩と皿洗いで一日を過ごし、夜まで残ってお店を手伝っていたユイに捕まって、閉めた店で一杯やることになってしまった。

「一日ご苦労さん」

「いえ。……」

「なんだ? もう戦場が恋しくなったのか?」

 あきれ交じりの声に勇介は肩をすくめた。

「焦らなくていいさ。なにも心配はいらない」

 ユイがそういって、五島が淹れたコーヒーを使ったアイリッシュコーヒーを傾ける。勇介の手にはロックのウイスキー。

「新人が焦ってもたかが知れてる?」

「そういうんじゃねえよ。ただな、お前の今のその状態は視野狭窄の状態なんだよ。いい意味でも悪い意味でも戦場しか見えていない。でも、それじゃ、ただの戦争屋だろ? 目的もくそもない」

「……」

 一理あると思って口をつぐんだ勇介は、掌の中にある琥珀色の液体を見やる。

「レジスタンスは反政府運動をしている。政府、政権を奪還したときのことを考えて、あと、奪還するための文化的なテロの仕方も考えておかなきゃならない」

「文化的なテロ?」

「そう。たとえば、取材を受けるとかな。そういうことを考えるには若い柔軟な頭が必要なんだが、若いのにお前は堅く凝り固まっちまってる」

「……」

「だから、ここでちょっと平和な暮らしをして、戦がないってことのありがたみを感じてもらいたいと思ってね。そしたら、少しは余裕もてるだろ?」

「余裕?」

「そう。お前のその状態は余裕がなくなってるからなんだよ。自分の身の振り方を、自分で決める前に人に求められて選択してしまった。はたから見ててハラハラしてんだな」

「なぜ?」

 質問攻撃にユイは困ったように眉を寄せて苦笑した。

 そこが余裕がない証拠だと突っ込んでやりたくなるが、付き合ってやることにした。

「お前さ、いつでもいいが、五島のメガネとった姿見たよな?」

「……ええ」

 初日の適性を見ると言われて連れられた夜を思い出す。月を眺めている五島の姿に、正直、鳥肌が立った。

「お前、あれと同じ目をしてるんだよ」

「え?」

 あれと同じ目、つまり、自分の目はあれほど空虚な目をしているのか、と瞬きを繰り返す。思ってもないことだった。

「明らかにやばいだろ? 五島はメガネをスイッチみたいにしてある程度制御しているようだが、お前は四六時中そんな目をしているんだ」

「……」

 それじゃ、裏に置かれてもしょうがないかと思いながらウイスキーをあおる。

「まだ、お前は元に戻れる。もっとさ、お前、他人がお前を心配しているとか、慮ってくれるとか、考えろよ」

「え?」

「オレもミヤビもアタエも、ほかの隊員の連中もお前のこと心配してんの。じゃなきゃ、このくそ忙しいときに五島の店に人員補充なんてしてやんねえから」

 きょとんとする勇介にユイは深くため息をついて勇介の目を見た。

「お前はもう替えのきく人員じゃなくなっているんだ。なのにお前は自分を替えのきく人間だと、いや、人形だと思って行動しているだろう?」

 それに思い当たることがある勇介はなにも返せずにうつむいた。

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