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そんな毎日を過ごして、言われた、二日後になった。
手荷物は最小限。カメラと望遠レンズと、軽量化されたデジタルカメラ、それと、フィルムをありったけ持ち、タオルと水筒を持っていた。
指定された街の外側の街道で車を待っていた。
街から一歩出ると、家はもちろん、緑すらなく荒野の風景が広がっている。
農家はどこかの山奥に、そして都市郊外にいた人間は都市に住まうか、農林水産業者に転職してしまった。
そのため、都市郊外には人の影はなく、人のいなくなった家は崩れ朽ち果て、中規模の街だったところは旧市街と呼ばれて、政治犯の巣窟となっている。
「……」
荒れ果てた世界のようだと感じて、ため息をつくと、その風景の先から砂煙を巻き起こしながら爆走してくる一つの車があった。
まさかあれではないだろうなと思っていると、見る間もなく近づいてきて、ドリフトしながら勇介の前に止まった。
「や、はじめまして。君がカメラマンさん?」
顔を隠すためだろうか、黒く丸いサングラスをかけた、銀髪の男が運転席から助手席の窓を開けて顔を覗かせる。
見るからに怪しい男。
「……。ええ、そうですが?」
「そっか、レジスタンス、『クロートー』のものだ。とりあえず乗ってくれ」
指示に従って助手席に入ると、すぐにアイマスクを手渡されていた。
「寝心地は悪いが、しばらく寝ててくれ」
アイマスクを取り付けて固いシートに身を預けるとすぐに眠気が襲ってきた。アイマスクに仕込まれていたらしい。
抗う間もなく眠らされて、たたき起こされた頃には日が暮れていて、なおかつ、ようやく車庫に入った、というところだった。
「ごめんね~、時間感覚鈍らせるために盛らせてもらった」
「……用心深い、ですね」
「ま、外部から人を入れるんだ。それぐらい当然、だろ?」
人懐っこく笑った彼はサングラスを外して、第二ボタンまであけたワイシャツの胸ポケットに入れて暗い車庫を見回した。
薄暗い車庫でも、彼の肌は白く浮き上がるようだった。
「詳しい情報はあげられないが、この車庫の広さで大体わかるだろう?」
視線で差された車庫に勇介は納得してうなずいた。
「そう、ですね」
「さすがだ。よし、とりあえず、ヨシ、このレジスタンスのチーフをやっている男のところに通そうか。それから、連中に紹介する」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「ああ。……そうだ、紹介を忘れていたな。オレはユイ。このレジスタンスでは本名の一字を取って呼び名を決める。ま、君はこのレジスタンスに入るわけじゃない。普通に本名で呼ばれることだろう」
ふっと唇をゆがめるように笑って肩をすくめた彼に勇介はうなずいてユイを見た。
「あ、わかりました。こちらこそ、紹介が遅れてすいません。長澤勇介といいます」
「……長澤?」
「ええ、なにか?」
ピクリと眉を上げたユイに勇介は首をかしげた。
心なしか、表情も引きつっているような気がした。見間違いだろうか。
「お兄さん、いる?」
「……ええ。二年前に失踪しましたが」
「……そうか。とりあえず、チーフの前でも苗字を隠して、名前だけで通してくれ」
いざこざを避けるためにね、といったユイに、勇介は首をかしげて納得いかない表情のまま勇介は車庫からチーフの部屋へ向かった。