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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
二章:中と半端
25/101

2-8

 そしてついたのは、うまく瓦礫に隠されたところだった。

 正面には国軍の指揮統制車のアンテナが見える。

「近くないですか?」

「だから狙わせて撃ったら即刻退避」

「……了解しました」

 まず、優先すべきはミサイル班の逃げ道の確保。

 一緒に護衛についてきた隊員と目配せをしてうなずきあって、あたりの警戒を始める。

「じゃ、行きます」

 凛とした声があたりに響いて緊張が走る。

 アサルトライフルを握る手に力を籠めなおして周りに気を配る。

半円状に一斉に降り注ぐミサイル。

 すべてを打ち終えたのを見届けて、すくっと立ったミヤビがジャベリンを背負い一目散に逃げていく。

「三人ついてけ、二人足止めに残れ」

 その指示にしたがって、勇介はミヤビの背を追う。

 後ろからは銃声。

 見つかったらしい。

「本部の位置がばれたら面倒だ。どこかで殲滅するぞ」

 誰かの声にうなずいて、勇介はちらりと後ろを見た。

「多いですね」

「ああ」

 後方支援で使える人を集めたという印象を受ける。

 弾の精度はそれほどなく、数を撃っていればとりあえず当たるだろうという発想の撃ち方だった。

「だまになっててもだめだ。二手に……」

「ミヤビさん。RPGもらえますか?」

 一緒に逃げていた隊員の言葉に重ねて言っていた。

 ミヤビは勇介を見上げて首を傾げ、申し訳なさそうにもう一人を見た。

「何する気?」

「後ろの連中にちょっとお見舞いします」

「範囲は?」

「そうですね。正面十二時にしたら、六時、四時、八時と五時半、八時半の五か所。掃射で一度足止めします」

「わかったわ」

 ミヤビが無線で連絡して、反応した隊員が一斉に振り返って手に持った思い思いのアサルトライフル、主にAK-74Mか、M249だが、を掃射する。

 そして、相手ががれきの裏に退避し釘づけになったところで、その瓦礫めがけてRPGが放たれる。

「なんつー無茶を」

 あきれ交じりの言葉は褒め言葉として受け取っておこう。

 また逃げ始めたころには追いすがる隊員の数が半分以下に減っていた。

 適当に弾と手りゅう弾を投げて、投げ返して本部へ逃げ込む。

 その時だった。

 ちかりとミヤビの頭にレーザーが当たった。

 はっと後ろを見てミヤビに並走して、腕を横に引っ張ると自分の前を走らせる。

「後ろ、狙われてます」

 アサルトライフルを片手で腰だめして撃つ。

 肩当てしながら狙っていた国軍兵の頭に見事にあたり、倒れこむ。

 同時に撃たれ、ぶれた銃弾が勇介の肩を打ち抜いて衝撃で後ろに倒れこむ。

「勇介!」

「大したことありません。さ、早く」

 冷静にそういって立ち上がると、振り返りながら腰だめの状態で次々と国軍兵を倒れさせていく。

「……」

 その命中率に誰もが唖然としている。

 それを感じながらも勇介は警戒を怠らずに後ろを振り返りつつ、徐々に追っ手を減らしていった。

 そして、本部までたどり着いて、本部にある装甲車の重機関銃を食らわせて、軍兵の戦意を完全にそいだ。

「ユウ、けがは」

「貫通しませんでしたね。中途半端なところで止まってます」

 それだけ言って勇介は車の陰に隠れ、ナイフを抜くと自力で弾をとろうと傷口にナイフをあてがった。

 そして、ふっと息を吐いて袖を噛んで目を閉じる。

「ぐ、ぅく」

 一思いに刺して弾を抉り出す。

 おさえきれずに漏れた小さな悲鳴は、周りの喧騒に掻き消え、痛みが引くまでしばらく体をこわばらせて荒い息を吐いていた。

「ユウ?」

 痛みも引く前にミヤビの声が聞こえてきて、すっと息を吸って腹にためるようにして痛みを抑えこんで、前のめりになっていた体を起こす。

「弾は?」

「今とりました」

 さすがに荒い息を鎮めることはできずにそのままでいうと、ミヤビは自分が痛そうな顔をして目を閉じた。

「バカ、表面麻酔ぐらいあるわよ」

「……すいません」

 苦笑して後の処置を頼もうと座る。

 それに合わせてミヤビが結構大胆に服を切り裂いて肩を出させた。

「散弾じゃなくてよかった」

「それがあれですね。散弾だったら顔にもくらってましたよね」

 笑いながら言うと、表面麻酔を塗るミヤビの手がぶれた。

 痛みに顔をしかめると、ミヤビは無言で消毒液たっぷりの脱脂綿を傷口にぐりぐりと押し付けてきた。

「くっ」

 びくりと体をはねさせて声を押し殺した勇介に、ミヤビはオキシドールを傷口に吹きかけて泡をぬぐう。

「……っ」

 あまりの容赦ない痛みに、声を殺すのに精いっぱいの勇介を追撃するようにミヤビが、軟膏を傷口に押し込んで塗り込むと、強めにガーゼを当てながら手馴れた手つきで包帯を巻いていく。

「ぅぁっ……」

 詰めていた息を吐き出してうつむくと、ミヤビはため息交じりに去って行った。

 お礼を言うこともできずにただ、息を整え痛みをやり過ごしていた勇介はいつにないミヤビの雰囲気に首をかしげていた。

 そして、痛みをなだめ終えて立ち上がると、脂汗で顔が濡れていることに気付いた。

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