2-6
スパールームで防具越しの一方的な暴力を受けて止めていた。
時々ののしる声も聞こえたが、それは耳を閉ざすようにして聞かないふりをして衝撃を受け流す。
四対一だ。すぐに体勢は崩れる。
あとは、もうリンチの状態だった。
「てめえのせいで奴は死んだんだ」
「お前が死ねばよかった」
そんな言葉を繰り返しながら殴るけるの暴行を受けていた。
彼らのいうことは確かに正しいのだと思う。
だが、それなりに腹を立てている自分がいることを勇介は自覚していた。
なぜ。
八つ当りをされているから?
否、一方的な暴力だから?
否、誰も助けてくれないから――?
こんな暴力には慣れているはずだった。
こんなの軍学校にいた時によくやられていた。成績の悪い連中にいつも。いつも。
ふとなにも考えずに、目の前にあった足をつかんでいた。
その時自分がどんな表情をしていたのか、勇介にはわからなかった。
ただ、無機質な表情。
無表情でその足をつかんで立ち上がって、体勢を崩して倒すと、問答無用に急所に一撃して倒していた。
「な、てめえ」
後ろから殴りかかってきた男には、裏拳を見舞って、死角から現れた男には回し蹴りをする。
どたんばたんと、つぎつぎと足元に倒れ伏した男たちを見ながら、どこか感情が薄くなったような自分に気付いていた。
――怒りは自分に向いていたのか。
ナイフを手に取って血走った眼で起き上がって、首元を狙ってとびかかる男を、そんなことを思いながら見据える。
よけようともしない勇介に彼がゆがんだ笑みを浮かべる。
勇介はその切っ先を見据えながら、腕を振り上げためると同時にその腕でナイフを受け止め、カウンター気味の膝蹴りを返した。
「くっ」
声を上げたのは男だった。
勇介は大した痛みを感じてないようで貫通した腕の傷を無感動に見やって、倒れている隊員を見てどうするべきかと考えていた。
口の端に流れる血を手の甲で拭って口を開いた。
「もう、おわりなのか」
感情すらこもっていないそんな挑発に、倒れ伏していた男たちの何人かの指がピクリと動いた。
「あんだと?」
「もう、終わりなのか? もう、気が済んだのか」
いつもの自分なら絶対に言わないであろう言葉。それがするりと口に出てきてしまう。
そんな挑発に乗って、めまいを振り切るためにか、頭を振って立ち上がった男が、叫びながら殴りかかってくる。
それを簡単にいなして腕を極めマットに叩き付ける。
二人いっぺんに殴りかかってきたのを身を沈めて、素早く背後に回り込んで肘鉄を背中に落として、もう一人を受け止める。
掌にあるこぶしをぐっと握りつぶして、すかさずに入ったもう一方の拳に手を放して飛び退ると、背中に人の胸があたり、すぐに羽交い絞めにされた。
詰んだ気がしないのが不思議だった。
羽交い絞めをすぐに抜け肘を脇腹にお見舞いしてから、とびかかってくる男にカウンターフックを、見舞う。
「何してんだお前ら!」
そんなアタエの怒鳴り声が聞こえ、はっとあたりを見る。
足元には、倒れこむ男達。その中で立ちすくむ自分。
ぽたぽたと左腕に刺さったままのナイフの切っ先から血がしたたり落ちる。
「ユウ? お前」
「詳しいことは、この人たちから聞いてください。失礼します」
そう吐き捨てて勇介は左手に刺さったナイフを抜いて、なおもすがろうとする男の顔の近くに投げ、けん制する。
「お前、その怪我」
「怪我にも入りません。失礼します」
かつかつと足音を響かせて部屋へ戻って行った勇介の背中を見て、アタエは生唾をごくりと飲み込んでいた。
「お前ら、どんなスイッチ押しやがったんだよ」
無残に倒れ、嘔吐いている隊員を見ながらぼそとつぶやいて扉を閉めると、ヨウに勇介の部屋を訪ねるように言って、ミヤビにこの事態を報告しに向かった。
結局、この一件は、リンチされた勇介がブチ切れてぼこり返した、というある意味本当の解釈をされて、勇介にはなにも非がないとされた。
むしろ、ぼこり返したことで心配そうだったユイとミヤビの視線が軽くなったのは事実だった。