表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
一章:すべての終わり
17/101

1-16

 すぐに入って、ダイヤルをする。

 単調なコール音とともに、穏やかな声が響いた。

「はい、五島ですが?」

「あ……」

 なんといっていいのだろうか。勇介がどもっているとかちゃりと後ろから音が聞こえた。

「ここで何をしている?」

 聞き覚えのある、声だった。

 とっさに電話から手を放す。

 がしゃんと音が響いて、肩をつかまれてひかれるまま従った。

「勇介だな」

 メットを上げて顔をさらしたのは一人の兵士。勇介と同じ年頃の青年だった。

「栄ちゃん……」

「よもや、こんな形での再会になるとは思わなかった。なにをしでかしているんだ、お前は」

 説教のように言うと、顔を少しこわばらせたまま栄ちゃんこと、栄吉はそれでも職務を遂行せんがために銃口を勇介の眉間に合わせる。

 彼は、同級生だった。学校生活の活動の大半を一緒に過ごした親友。

「お前、自分がどういう状況に置かれているか、わかっているな?」

 それに両手をあげながら首を横に振った。

「明け方前、国軍の兵を殺害したのち、のこのこと町に帰ってきたバカだ。先ほど政治犯認定が下りた。お前を雇っていた会社も国賊として追われる、いや、つぶされることになった」

 静かに告げられる事実に、勇介は顔色をかえようとはしなかった。

 それを見て栄吉はため息をついた。

「あくまでもばっくれようとするのか」

「何を言っているかわからないよ、栄ちゃん」

 静かに言う言葉に栄吉が目をぐっとつぶって唇をかみしめた。

「オレを殺すの?」

 畳みかけるようにそういうと、彼は目を開いて静かな表情で見つめてきた。

「ああ。逃亡犯だからな」

 きっぱりとしたその言葉に勇介はぐっとこぶしを握った。

 そして、リュックの中に手を伸ばして唐崎から渡されたポーチから、かたい感触、銃を引き抜いて栄吉に見せた。

 入っていた銃はコルトガバメント。

「そこまで用意していたのか」

「……」

 栄吉は打つそぶりを見せない。

 勇介はふっと力なく笑ってこめかみに銃口を当てた。

「お前」

「栄ちゃんに殺されないんだったら自分で始末つけるよ。あっちで拷問は嫌だからね」

 静かに言って栄吉を見る。

 栄吉は唇をかみしめて同じように撃鉄を起こした。打ちたくもないだろう。

 遠くから車の音が聞こえた――。

「HQ」

 栄吉は銃を構えながら無線に語り掛ける。

《こちらHQ》

「政治犯を発見した。現在膠着中。応援頼む。場所は第一中央公園」

《了解、至急応援部隊を向かわせる》

「五分以内に人が来るだろう。それまで、どうしようと俺の勝手だ」

 栄吉はそういうとつらそうにため息をついて勇介を見た。

 その様子に勇介は苦笑いをした。助けも来ない。

 ただ、旧知の友に看取られて逝くのか。

「俺は、確保規定でむやみに手出しできない」

 無線を一度切ってそういった栄吉は勇介を見る。向けられた銃口は脅しだと暗に告げる言葉。

「無線大丈夫?」

「癖で消しちまったと言えばどうにかなる。どうするんだ?」

「どうするもなにも、捕まるか死ぬかでしょ?」

 端的な言葉に栄吉の眉が寄せる。

 こういう言い方をする勇介はまずい。

 学生時代、よくこんな言い方をしていた。

 追いつめられる一歩手前の、感情を殺している証拠。

 勇介はひきつった顔に笑みを浮かべようとして失敗している微妙な顔をして、こめかみに突きつけた銃を口にくわえる。

「覚えていたか」

「あたりまえだよ。こめかみ打って外れて廃人はマジ勘弁」

 肩をすくめて冷たい金属を軽く噛み、目を閉じる。

 バイクの音と、重たそうな車の音が響く

装甲車が公園に入り込んでくる。

「じゃ、また」

 そんなポツリとつぶやいた言葉に栄吉が顔をゆがめて、勇介の肩に狙いを定めようとしたが、止まると思った装甲車が栄吉めがけて突進してくる。

 それを見て栄吉は銃を手にしたまま走り出していた。

「勇介! 乗れ」

 そんな声に、勇介ははっと口から銃を抜いて顔を上げていた。

 ドリフトしながら止まるこの止まり方はユイだろう。

 栄吉は車をよけて植木の中に飛び込んでいた。

 ふさがる視界の片隅に国軍の追っ手がいたことに気付き、銃を手にしたまま、すぐに助手席に乗り込んで扉を閉めると、思い切り殴られた。

「バカ野郎。簡単に命諦めんな」

 ユイがサングラスを外したままの姿でたばこをくわえていながらも怒った。

 殴られた勇介は呆然とユイを見ていた。

 装甲車だから銃撃でダメになることはないだろう。ばらばらと音を立てる装甲にユイが眉を吊り上げた。

「ああ、っぜえな!」

 集まり始めた国軍の一斉掃射にハンドルを振り回して車同士をぶつけて無理やりどかしながら突破した。

 荒野に入って、銃弾を受ける音がやんだころを見計らって銃をぎゅっと握りながらそろりとユイを見た。

「ユイさん」

「後で説教してやる。とりあえずは俺らの所にこい」

 低い声で言うユイは本当に怒っているようだった。

 そして、完全に銃声が聞こえなくなったころ、勇介は緊張の糸が切れるように体の力を抜いて、そして、ぼろぼろと泣き出していた。

「……バカが」

 追っ手を気にしながらユイがポツリとつぶやく。

「そんなに死ぬのが怖いならあんなことするんじゃねえよ」

 先ほどよりずっと柔らかい声で言われた言葉に、勇介はユイを見ていた。

 ユイは、ふっと笑って勇介の頭をかき回した。

「けがは?」

「ないです」

 しゃくりあげながら答える勇介に、くくくと笑いながらユイはそりゃよかったと肩をそびやかした。

「じゃ、本部に向かうぞ」

 勇介にそういって、またドリフトをして方向転換をすると、ユイは荒野を走り抜けていく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ