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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
一章:すべての終わり
14/101

1-13

 頭上にはヘリコプターの音。

 サーチライトを焚いていないのは兵士たちがナイトビジョンを使っているからだろう。

「ついてこれるか」

「何とか」

 大丈夫だ、とうなずくとアタエが少しだけ速度を上げた。

 それについて行って後ろを見た。

「アタエさん、機動が」

「っち、もう来たか」

 舌打ちをしたアタエは建物の影を縫うようにして走っていく。

「囲まれてます」

「嘘だろ」

「両脇から足音。かすかに金属音が混じってましたから、アサルトライフルでも背負っている可能性があります」

 冷静な分析にアタエは舌を巻きながら、だんだん迫ってくる壁に目を細める。

「右も左もダメか?」

「ええ。建物の中に入っても」

「遮蔽物があるだけましかもしれない、か。行くぞ」

 アタエについて行き闇の揺蕩う建物の中に入った。

「どうだ?」

「今見ます」

 協力しているが、逃げ切らなければ死が待っている。

 カメラであたりを確認してうなずいてアタエをみる。

「大丈夫です。でも、奴らに見つかれば」

「わかっている」

 ひそひそ声でそういって、建物を抜けるために歩き出す。

「夜明けまであとどれくらいだ?」

「もうしばらくです」

 壁際を歩いて抜けられそうな穴を確認して、まだ兵士がいないことを確認して外に出る。

「発見!」

 鋭い声とともに、足元を何かつぶてがたたく。

「……っ!」

 とっさに体をひねってよける。掃射、だった。

「ちくしょ」

 アタエは素早く逃げていくが、それを追いかける暇もなく別方向から銃弾が飛んでくる。

「アタエさん!」

 わざとだろう。

 アタエはサプレッサーをつけずに銃を放っている。おとりになっているのだ。

 勇介は足音を殺して気配とは反対と方向の建物の中に入った。

 人の気配は一つもない。

 静かに辺りを探って、周りの気配を探る。アタエがほとんど引き受けてくれたようだった。

 足音を殺してカメラを左手にしながら、右手を開けていた。

 こわばった顔であたりを見回しながら勇介は建物の奥、闇にまぎれて座り込んだ。

 どうしようかと、呟いて足音が聞こえて口をつぐむ。

 兵士ならば、ナイトビジョンを持っている。まるわかりだろう。

 機動隊兵ならば、聴覚をいじるような無理な施術は受けてはないだろう。そんな技術さえ開発され、実用化に至っている。

 じりじりと移動して、さらに深い闇にまぎれる。

 足音は徐々に遠ざかっていく。一つ危機は過ぎ去った。

 座り込んで辺りを見回す。もう、夜明け近いらしい。

建物の隙間からかすかな光が漏れている。完全に日が出てしまえば逃げ回ることが困難になる。

それより前にユイかアタエと合流しないといけない。やみくもに探し回ったら、兵士に捕まえられる。

 万策尽きた状態だった。

 気配を殺しても、外ではなにかが走り去る音が聞こえる。

 これで軍用犬でも持ち出されたら――。

 唇をかみしめて何かできないかと考える。右手は銃に伸びて触れている。

 その間にも日は明ける。

「ここにいたのか?」

「ああ。何人いるかわからないからな、念のために、お前を呼んだわけだ」

「まあ、ここにいるのがあの由輝だって話だからな。長澤部隊が唯一取り逃がした特務班の政治犯」

 陽気な声とともに二人の気配が入ってくる。その声に、音をたてないように立ち去ろうとする。

「にしても無線やられるとは思わなかったぜ。さすがだよなー。伝説言われる人だよ」

「軍に残ってたらどこまで登ってたんだろうな」

 身をかがめて建物の外に出ようとする。

「音がしたぞ」

「え?」

 やばいと、すぐに外に出る。だが、見つかってしまう。

「いたぞ、鼠だ」

「射殺OK?」

「だろ、どうせ政治犯だ」

 軽い声に勇介はあたりを見回して応援がないことを確認する。

 無線も壊れたと声が聞こえた。

 振り切れば、こちらの勝ちだ。

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