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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
一章:すべての終わり
13/101

1-12

 そして、おそらくしばらく走ったのだろう車が惰性で走って行ってどこかにぶつかって派手に爆発をした。

「おーい、死んでないかー」

 のんきなアタエの声に、我を取り戻して転がったままの状態から土を払いながら立ち上がり、ちらりとアタエの声の方向を見た。

「ユイー」

「はーい」

 アタエの声にユイが応じて足音が聞こえた。

 それを探りながら歩くと、筋肉の壁にぶつかった。

「なんだ、素か? ぼけたのか?」

「いーぼけだなー」

 どうやらぶつかったのはアタエの胸らしい。

 身長差はいくつなのだろうかと不思議に思いそうになったがそれどころではないことを思い出す。

「いや、素です、すいません」

 カメラなどの荷物をかばったおかげで結構強く肩を打ったのだが、動けないほどではない。

 肩を回して具合を確かめて一つため息をついた。異常はない。

「……何が起こるかわからない。一応持っておけ」

 手渡されたのは一つの銃。USPだった。

「サプレッサー付き。フラッシュライトはつけなかった」

「……そうですね。オレの存在を知られるわけにはいかない」

 うなずいたユイを見て勇介は深いため息をついて、銃を右足に差そうとして落とした。

「お前な……」

 ホルスターがあるように錯覚してしまってやってしまった。慌ててとると、アタエがどこから引き抜いたらしいホルスターを勇介につけた。

「これでしまえるな」

「ありがとうございます」

 そういって勇介はUSPをホルスターに入れてちらりと後ろを見た。

「ミヤビはいつ来るんだ?」

「んー、あれだな、ミヤビのほうがけっこう遠いみたいだから夜明け前には来たいとねー」

 どこに芋ろうかと笑ったユイが鋭くあたりを見回して歩き始めた。

「あいつについていけば大体は大丈夫だ」

 そう耳打ちしたアタエに勇介はうなずいて、なるべく足音を殺してそのあとをつけ始めた。

「ん、ここかな」

 そういって立ち止まったのは一つの建物の中。

 五、六階建てのビルだったらしいそこは崩れかけてぼろぼろだった。

「まだ柱は生きてる。爆発とか派手にやらかさなければ大丈夫」

 そういったユイは部屋のある隅に入って行った。

「ここにはいっていな。アタエ、お守りよろしく」

「おう。お前は?」

「攪乱する」

 そういってユイは出て行ってしまった。

 勇介はユイに言われた通り壁にあいた穴の中に入って体育座りをした。

「勇介」

「はい?」

「本当に危ないと思った時だけ、それを抜け」

「……はい」

 呟くようにうなずくと、それ以上アタエは何も言わずに沈黙が下りる。

 真っ暗な中、アタエが物音を聞きつけて立ち上がった。

「おとなしくしてろよ」

 低く抑えた声に勇介も顔を緊張させてうなずいた。次いで息も殺す。

 アタエは足音を殺しながら音のした方向へ向かっていく。

 勇介も穴の外を見て片膝をついていた。

 カメラで後ろに抜けられるほどの穴が開いていることを確認する。

 人が来たら闇にまぎれよう。

 そう思ってじりじり壁によろうと横にずれていく。その時だった。

 後頭部に何かが突きつけられる感触。丸くてかたい何か。

「Stop」

 その言葉に、勇介は息をのんで両手を挙げた。

「何をしている?」

 静かな問いに勇介は口を開いて抑えた声を上げた。

「取材です。報道者です」

 あながちウソではない。だが――。

「許可証は。目的は」

 そう、旧市街で取材を行うときには、誤射を防ぐため、許可証を携帯する義務がある。

 今さえ切り抜けられればいい。

 確かカメラのケースに前回の許可証が入れてあったはずだ。

 片手をあげながら勇介はカメラのケースを開けてワッペンを見せる。

「ほう、それで、なぜここに?」

「荒野からの日の出を、雑誌のカラー用に撮ろうとしたら、近くで爆発があったみたいで、巻き込まれたらいやだからこっちに逃げてきた」

 旧市街は人がいないと聞くので、と付け加えて振り返る。

 闇の中、見えない。

「何か、あったんですか?」

「大有りだ。一応、お前を拘束させてもらおうか。嘘ならば、どうなるだろうかな」

 笑みを含んだ声音で分かった。

 これは嘘だと気付いている。

 さっとあたりに目を向けて勇介は目の端に移った影に唇を引き結んだ。

 一瞬気をそらせばいい。

「わかりました。……」

 手錠を受けようと両手を前に差し出す。

 銃を持っていた兵士が銃をしまって、めんどくさそうに手錠を取り出して勇介の手にかけようとした瞬間だった。

 勇介の手が流れるような動きでカメラをとってフラッシュを焚いた状態でシャッターが切られた。

「ぐお」

 真正面から強い光を、なおかつ目が闇に慣れた状態で受けたのだ。

 相当なダメージだろう。

 両目を抑えた兵士を見て勇介はあとじさった。

「正面に突っ切れ!」

 ユイの声だった。素早く身をひるがえして走り出す。

「こっちだ」

 アタエが銃を片手に勇介と並走して案内する。

 そのあとを忠実に追っていく。

「くそ、待て!」

 兵士の声とともに、また、空気の抜けた音が聞こえた。

 ユイがとどめを刺したのだった。

「……」

 勇介はもう何も言うまいと歯を食いしばって走る。

 建物の外に出て影を縫うようにして走る。

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