プロローグ
-グラートの国でクーデター
一面に大きくそう書かれた紙を少年は拾った。辺りでは「号外!」とか「世紀の大事件だ!」とか大きな声で叫びながら、鞄の中にある紙を、投げるように配っている男が何人もいた。
町には紙が桜の花びらのように舞い散り、紙を持った人々のなかには恐怖におののく者や驚嘆の声をあげる者、また何も言わずに考え込んでしまう人もいた。
少年は心をできるだけ落ち着けて「号外」と書かれた記事を読み進めた。記事には、「権威の象徴を狙った許しがたい行為」だとか「前代未聞の凶行」といった言葉を用いて憤激のメッセージが長々と書かれていた。読み取れる情報としては、英雄ラクシュミー隊長の活躍により、グラートのフラントゥル皇帝は無事であったが犯人は逃走、目撃者の証言を統合した結果、犯人はブルーベリー教団の過激派によるものだろうと推測され、グラート軍は行方を追っている、といったところだ。そして記事の最後は、死者は出ず盗まれた物もなく幸運にもクーデターは失敗した模様、という一文で締めくくられていた。少年はグラートに向かって走り出した。さっきより何倍も軽くなった足で少年は一目散に走り出した。