第一章 魔王撃沈
暗雲覆う街並みを見下ろしながら、俺、神谷竜一は優越感というものに浸っていた。
「・・・・遂に、遂に俺はやったんだ!」
時間帯は深夜。街が街灯を残して寝静まっている。
俺の声が夜の街に響く。
この時をどれ程、待ちわびていたか。
邪魔する人間は、今はいない。
万年二十代の美貌を維持する日本屈指の魔法使いであるばあちゃんは、イタリアに日本魔法協会の使者として行っているからいない。
その祖母の血を強く受け継いだ天才、と言われている俺の兄貴も修行中でいない。
さあ、独裁を始めようか。
「まずは、街の景観だよな。緑が少ない・・・・いや、ビルが多いのか?」
最近、建築技術に大幅な進歩があったとかで、住宅から高層ビルに至るまでのあらゆる建物の数が増えてきた。
そのせいで森は減り、街道の木々でさえ、車の排気ガスなどによる汚染が酷い。
ならば解決策は、
「ビルを壊そう!」
こうなるだろう。
俺は右手を天高く振り上げ、術式を展開する。
右手に、黄色に光る魔方陣が現れる。
発動。雷系統解放術式と制御術式の弐次構成型術式。‘エレクトロニクス・ボム’
俺の右手から放たれた雷は、黄色の残光を残しながら天の暗雲に吸い込まれる。暗雲の中で雷が轟く。そして、
「・・・・・壊せ」
雷が街に降り注ぐ・・・・・・・あれ?
降り注・・・・がない?何でだ?
「何でだ?!」
思わず口から疑問がこぼれた。それに答える声があった。聞くはずの無い声。聞きたく無い声。
「遂にやったね?」
祖母の声だった。俺は恐る恐る振り向いた。
そこには声の主が立っていた。既に八十歳を越えるはずの姿は、まるで二十代のそれを彷彿とするようなものだった。その体から発せられる魔力は、周囲の魔法使いを萎縮させる迫力を有していた。
「何で・・・・ここにいるんだよ、ばあちゃん?」
俺の口の中が渇いていた。驚きで心臓が止まってしまいそうだった。恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
イタリアにいるはずの祖母がここにいるという事実。お年玉全額はたいて買った高位魔法石による強力な結界をもろともしなかった祖母の実力。俺が祖母に敵わないという実力の差。
そして、噂に聞く査定官による厳罰の内容。
「さあ、一般人に成り下がりなさい。バカ孫」