夢の中 七月十四日 五時間目 屋上
血走った目で僕を殴る郷田。必死に許しを請う僕。屋上は僕たち以外には誰もいない。僕の声はグラウンドの喧騒に掻き消える。梅雨明けの空。太陽と拳が容赦なく僕の体力と気力を奪う。僕は僕が暴行を受けていることを見ていることしかできない。早く先生を止めに行かなければと思ったが、足は鉛のように重くまるで根を張ったような感触だった。
突然校内へと続くアルミ製のよくあるドアがバンッと開き中から姉川があわてた様子で飛び出してきた。
「兄貴ィ先公が来ましたァ!!」
「お前らここで何をしていたんだ!!」
「ちぃ、常夫、ずらがるぞ!!」
「はい、兄貴!!」
屋上から逃げていく郷田と姉川。先生は数瞬出口のほうを見遣ったが、僕のケアのほうが先と判断したらしく倒れている僕のほうへと駆け寄った。
「辰見、もう大丈夫だ。安心しろ」
僕はその瞬間堰を切ったように泣き出した。
もう苦しまなくていいんだ。もう痛い思いをしなくていいんだ。もう普通になっていいんだ。僕は自由になっていいんだ。僕は解放されたんだ。
次の日郷田と姉川は一か月の停学処分となり、すべてが終わったように思われた。
しかし、運命は残酷なものだった。