第2章:起源
まだ、この狭間が見えなかったころだ。
またいつものように塾の勉強道具を鞄に詰め込み、車に乗りこんだ。
今日は塾長に用があるらしく、お父さんも乗っている。
助手席にはお母さんがたくさんのお札が入った財布を、真剣そうに覗き込んでいる。
お母さんはなにやらげんきんしゅぎといってクレジットカードをもたないそうだ。
お母さんとお父さんはとても優秀で、もちろんその間に産まれた僕はそれ以上に期待された。なぜ僕までも優秀でなくてはいけないのだろうか?
小学生の僕にはまるでわからない、けれど進むしかなかった。
両親が前へ前と押していたからだ。
両親が前へ前と押していたからだ。
車がほどなくして発進する。
数分して、踏切りにさしあたる。
信号機を見る。赤く点滅する信号は、電車が来ない事を示していたので、車は踏切りを渡ろうとした。
が、突然
何かがぶつかった。
ふっと、目の前が真っ暗になった―
「……大……か……大丈夫か? おい! しっかりしろ!」
ふと目が覚めると、レスキュー隊員の青年が僕の顔を見て必死に呼び掛けていた。
「…どうしたんですか?」
僕は状況がよく理解できないので、青年に尋ねた。
「君は電車に引かれたんだよ!」
電車…そういえば踏切りを渡ろうとして…
はっと気付いた。両親は無事なのだろうか。
「お父さんとお母さんは!?」
青年は悲しそうに俯く。
「……とにかく病院へいこう」
青年が救急隊員へ指示を出す。
「…あとお兄さん、あの救急車にあるたくさんの黒い模様はなんですか?」
救急車のところどころにある様々な形の黒い模様。
あまりにも薄気味が悪く、気分が悪くなる。
青年は僕が少し気分が悪くなっているのに気付き、急いで担架に乗せた。
そして青年は
「何をいっているんだい? 黒い模様なんてないよ?」
病院で両親が亡くなった事を聞いた時は、一晩中泣き続けた。すぐに母親の祖母と祖父が駆け付けてくれ、僕を引き取ると言ってくれた。
実際その時はよく分からず、両親の死の事でいっぱいだった。
精密検査を行い、体に全く異常が診られない事に、担当医は凄く驚いていた。
眼科にも行ったが、それも全く異常は診られなかった。
ならこの黒い模様はなんなんだ?
病院は黒い模様が多い、集中治療室というところでは真っ黒で何が何だか分からない程だった。
黒い模様は不気味に蠢く。蛇のようなねっとりてした粘着感までしてくる。
気分が悪い、早くここから抜け出したい。
僕の願いは叶ったのか、事故から三日後、すぐに退院となった。
僕は中学生となった。
中学生時代が一番鮮明に覚えている。
なぜなら、一大事件が起きたからだ。
その人は何もかも知っていた。
その人は僕を慕ってくれた。
その人は僕を愛してくれた。
が、しかし
その人とは二度と会えなくなってしまった。
この世で会う事が、できなくなってしまった。
だけれど、
その人は大切な事と大切なものを教え、残してくれた。
この目の事と、僕との思い出を
こうして
この目を手に入れた。
いつまでも怯えているわけにはいかない。
真っ直ぐと前を向いて歩かなくては。
彼女に申し訳が立たない。
全く、いつまで立っても君には頭が上がらないよ。