過去
初長編です!
よろしくお願いしますm(__)m
その日、僕らはいつもの様に2人で下校していた。
「ねぇ彩音ちゃん、うちのたんにんの先生って帰りの会がながすぎると思わない?今日だってもう他のクラスの子はみんな帰っちゃってるしさぁ。」
僕~春野健一~はそう言って一緒に並んで歩いている女の子~笠原彩音~ちゃんに声をかけた。
「確かにそうだよね……でももうあきらめるしかないよ。だって私たちが4年生になってからもう2ヶ月だけど、その間ずっとだよ?」
「……そうだったね。でもやっぱりはやく帰りたいなぁ……」
「そ、それに良いことだってあるよ!」
「良いことって?」
「そ、それは……」
それから彩音ちゃんは少し考え込んだ後、意を決したかのような顔をして、でも小さな声でこう言った。
「良いことって……ケ……ケンくんといつも一緒に帰れること……とか。」
……それを聞いた僕は嬉しさやら恥ずかしさやらで顔が沸騰しそうなくらい熱くなってしまい、
「え、あ、え~っと……」
何も言えなくなってしまった。
すると彩音ちゃんの方も黙ってしまい、しばらくの間沈黙が続いた。
僕の心臓がとてもうるさく鳴っていて、彩音ちゃんに聞かれてないか不安だった。
そしてそのまま家に帰る……はずだった。
しかしその日、僕らの日常に異変が起こった。
「そこのお嬢ちゃん、一緒に楽しい所に遊びに行かないかい?」
あと5分ほど歩けば家に帰れる、というところで|(ちなみに僕と彩音ちゃんの家は向かいにある)変な男が声をかけてきた。
そいつは太っていて額に脂ぎった汗をかき、走ってもいないのにハァハァ言いながら気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「……おじさん、誰?」
彩音ちゃんは男を警戒しながらそう尋ねた。
「おじさんは……実はサンタさんに頼まれて良い子のキミを迎えに来たんだ。」
男はニヤニヤしながら答えた。
その普通ではない態度の男を見て彩音ちゃんは怯えてしまい、男から隠れる様に僕の後ろに移動した。
「オジサン、今は夏だからサンタさんは日本にはいないんじゃないの?」
僕は勇気を振り絞って男に言い返した。
「なんだよガキが……外国ではサンタが夏に来る国もあるんだよ。」
話す相手が彩音ちゃんじゃなく僕になった瞬間、男の口調が変わった。
「あんまり言いたくなかったけど……
サンタさんが本当はいないことくらい僕知ってるよ?
だって去年のイブの夜部屋のドアが開く音がしたから、サンタさんが来てくれた、と思って少しだけ目を開けたら、そこにはサンタさんじゃなくてお父さんとお母さんがいたもん。」
「えっ、そうなの!?」
僕が喋り終えた直後、彩音ちゃんがビックリした様子で僕の方を見ていた。
---あぁ、やっぱり彩音ちゃんは知らなかったのか---と僕は少し言ってしまったことを後悔した。
「チッ、ガキが……それはだな……
……あぁもう面倒だ!とにかく嬢ちゃん一緒に来てもらおうか!」
そう言って脂ぎった汗まみれの右手を彩音ちゃんに伸ばそうとした。
「おいやめろ!彩音ちゃんに触るな!」
僕は咄嗟に男の右手を全力で掴んだ。
「くそっ、このガキが。さっきから俺の邪魔ばっかしやがって。お前に用はねえんだよ」
そう言いながら男は全力で右腕を振ってきた。僕はその力に耐えられず手を離してしまい尻餅をついた。
「おいガキ。お前ウザすぎるから消えな。」
男はそう言うと、ポケットから刃渡り5cmほどのナイフを取り出した。
「さあ、殺してやる。」
その言葉を聞いた瞬間、目前に迫った死の恐怖により体が震え始め、一歩も動くことができなくなった。
「あ、ああ……」
もはや声を出すこともままならない。
「そんじゃあ、サヨナラだ!」
ナイフが僕に迫ってくる。男の顔を見ると、全力で僕を殺そうとしている。なのにナイフはゆっくりと動いている。
---そうか、死ぬ直前と言うのは本当に時間を遅く感じるんだな。なら僕は死ぬのか。
やだな、まだいろいろやりたいことがあったのに。お酒を飲んだ事もないし、恋人が出来た事もないし……
やっぱりまだ死にたくない!死にたくないよ!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。誰か助け……---
「ケンくん危ない!!」
僕はなにかに突き飛ばされた。そして……
グシャッ
ナイフが何かを突き刺した音が辺りを支配した。
僕は自分が刺されたかと思ったが、自分の体を見ても怪我はない。
「おい、なんでお前が来る……くそっ、せっかくの上玉を逃しちまった。」
自分に怪我がないのを確認したのと同時にそんな男の声がした。
僕はなにが起こっているのか分からず振り向いて見るとそこには……
左胸にナイフが突き刺さった彩音ちゃんが赤黒い液体を流しながら倒れている姿があった。
「彩音ちゃん!!」
その姿を見て僕は頭が真っ白になり、急いで彩音ちゃんに駆け寄った。
「彩音ちゃん、彩音ちゃん!!どうして!!」
僕が必死に、何度も何度も声をかけた。すると、
「ケ……ケン、くん……?」
彩音ちゃんが声を発した。
「良かった!彩音ちゃん、生きていたんだね!今すぐ救急車呼んでく「……待って」
僕の言葉は彩音ちゃんの言葉に遮られた。
「……待って。1人にしないで。」
「でも……」
「私の事なんかより……ケンくんは無事だっ・・・・・たんだ……ね。良かっ……た。」
「今はそれどころじゃないよ!!」
僕はかなり焦った。早く救急車を呼ばないと彩音ちゃんは確実に死んでしまうと思ったから。
「……ねぇ聞い……て?」
しかし彩音ちゃんは急ごうとはしない。自分が死にそうなのに。
「あの……ね、ケ……ンくん……わたし……前から言いた……かった事……あるん……だ……
実はわ……たしず……っと前からずっとケ……ンくんのこと好……好きだっ……たんだ……だから……付き……合ってく……れませ……んか?」
急に彩音ちゃんに告白された。そんな状況じゃないにもかかわらず。それはまるで、己の死を悟っている様だった。
「僕も……僕も好きだよ、彩音ちゃんの事が。だから……死なないで!」
僕は必死に言葉を紡いだ。
不覚にも彩音ちゃんの告白を聞受けた時に自分の恋心に気づいた僕は、急に彼女を愛おしく感じるようになった。
「なんだ……両想いだ……ったんだ……ならもっと早……く告白すれ……ば良か……ったな……
ねえケンくん……少しだけ……顔を……近づけて……?」
「……わかったよ。……これでい……!?」
なぜかこのお願いを断ってはいけない気がした僕は、彩音ちゃんに言われた通りに彩音ちゃんに顔を近づけた。
するとその瞬間、僕の唇に柔らかくて気持ちの良いものが触れた。
僕はあまりに急な出来事に何が起きたのか理解するのに時間がかかった。
「へへ……わた……しのファー……ストキス……ケンくんにあげち……ゃった……」
「……僕も初めてだよ。……いっしょだね。」
「そっか……うれしいな……
……あれ……なんだかケンく……んとキスでき……て安心したせいか……寒くな……ってきた……」
途端に彼女は震え始めた。
「あれ……おかしいな……今は6月なの……に……すご……く寒くなって……」
「しっかりして!今救急車を!」
「今は6月……だか……ら次は7月か……そうだ……夏休……みになった……ら一緒に海……に行こ……うよ……で冬にな……ったら一緒……に初詣……に行こ……う」
「わかった、わかったから頑張って生きて!!」
「あれ……どんど……ん寒く……なって……行く……よ……?
寒い……寒いよ……」
そう言って手を僕の方へ持ってきた。かなり不安だったが僕は彼女の手を握った。
「ケン……くんの手……あったかい……
でも……寒い……寒い……寒いよ……」
そう言う彩音ちゃんに対して僕はただ強く手を握り締める事しか出来なかった。
そして……
「寒い……よケンく……ん……寒い……
ケンくん……助けて……
ね……えケ……ン……くん……た……す…………け…………」
その言葉を最後に彼女の全身から力が抜け落ちていった……
「う,嘘だよね……嘘って言ってよ……
ねえ彩音ちゃん?彩音ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」