旅立ち、遠野入り
遠野…行ってみたいですね~。
始発電車に乗り、まずは東京駅を目指す。
今日は遠野へ出発する日。
待ちわびた今日である。
何度も電車を乗り継ぎ、やっと東京駅。
山手線の車内に液晶ディスプレイがあるのに驚いた田舎者です。
いいじゃないか。
田舎だからと言って悪いことないよ。
むしろ俺は地元大好きだ!
1人芝居とも取れる脳内口論をしながら新幹線へと乗り込んだ。
窓側にリオナが、通路側に俺が座る。
さて、椅子の無い彼女が文句をぶつけてきた。
「私には立ってろっていうの?」
「いや、浮いててもいいよ?」
サミの抗議はごもっともだと思う。
ただまぁ幽霊の分まで席確保するのは変な話かと…。
「そうじゃなくて!椅子は無いのかって話よ!」
「無いよ~」
「じゃあ椅子貸してよ!」
「嫌だよ…。席空いてるのに座らないのはおかしいし」
「まぁいいわ。私はこっちに座るもん!」
「人来たらどいてね…」
サミは通路を挟んだ席に座った。
リオナはいつの間にか寝てるし…。
大丈夫かな?遠野の旅…。
新幹線を降りてローカル線に乗り換える。
暫くはディーゼルエンジンの音を体に刻みながらの旅となる。
車内は空いていて、競争率の高い向かい合って座れるボックスシートが楽に取れた。
低いエンジン音を唸らせ列車がホームを離れた頃、ちょっと思い出したことを話してみた。
「遠野ってのは、河童だけじゃなくて座敷童でも有名なんだ」
「座敷童!あれ見ると幸せになれるんでしょ!」
「私、現れるように頼んでこようか?」
サミにとってはどうってことないことなのだろう。
サラッとスゴいことを言うもんだ。
「あやや、別にいいよ」
俺は小声で答えた。
列車を降り、駅を出る。
駅前の光景に見覚えは…無い。
様変わりしてしまったのか、俺があまり覚えていないだけなのか。
少し歩いたところで、今度はハッキリと記憶にある顔が視界に入った。
それが先か、それとも向こうが先か。
見覚えのある顔…真人がこちらに手を振っている。
「あれが、実の友達?」
左したから俺の顔を眺めるリオナ。
「そうそう。坂田真人っていうんだ」
自然と早足になる。
因みに、サミは姿を消している。
「久しぶり!ミーノ!」
明るい声を掛けてくれたかつての親友。
真人は変わらず、俺を迎えてくれた。
「久しぶり、真人。急にゴメンね」
「何言ってんの!ミーノの頼みなら、断る理由は無いよ!それよりさ、この子は?」
真人がリオナを見ながら言った。
そういえば、まだリオナを紹介してなかったな。
しかし、河童と言って信じてくれるだろうか…。
一抹の不安を拭いきれない。
それでも、友達に隠し事はしたくない。
だから、正直に話すんだ。
「こいつはリオナ。実は、遠野に来た理由もこいつなんだ」
不思議そうな顔をする真人に、真実を語る。
「信じないかもしれないけどこいつ、人じゃないんだ…。河童なんだ…」
「えっ…?ミーノ?それ本当?」
一目をはばかるように聞き返した真人。
「うん。ただ、何か知らないうちに人間社会に来ちゃったらしくて…」
「で、家に帰る手伝いしてるの?」
「当たり!」
真人は、疑うことなく信じてくれた。
こうなれば、もう一人の存在も知らせておかなければ!
「真人、ちょっとあの建物の影に行こう」
「お?おう…?」
理由は分からないが、とりあえず従う真人。
さすがにサミを公衆の面々に堂々さらすのは問題である。
なので取り敢えず人の目が付かない所へ。
周りを見渡し、人がいないのを確かめる。
「サミ、いいよ!」
一声かけると、音も無くサミが姿を見せた。
「……え?ミーノ…?この子は…?」
恐怖半分、驚き半分と言った表情でサミを見る真人。
「あやや!大丈夫!確かにこいつは幽霊だけど、そんなに悪い奴じゃないはず!」
「はず…じゃなくて、言い切りなさい!えっと…」
俺を一喝し、真人の方へと向き直るサミ。
「実の世話役、サミです。あはは」
こいつ、ワザと笑ったな。
真人から恐怖を取り除くために…。
結構いいやつなんだよな、サミって。
「よろしくね!サミちゃん!しかしミーノ、こんな可愛い子たちと仲がいいとは…」
「色々偶然が重なってな。二人とも人外だけど…」
「実は人かどうかで区別する人間なのか!?」
リオナが会話に割り込んだ。
「さすがにここまで人っぽいと区別しません」
軽く言って、まずは真人の家に向かうのだった。
遠野編へと入りました。
ええ。入りましたとも。
もうちょっと登場人物増やしたいかな~…。
増やす予定は最初からあるんですけどね。




