あい わんだー ゆー
「でさ!遠野ってどんなところ?」
ベッドの上に寝転がり、遠野旅行についてあれこれ考えていた俺の上に勢いよくまたがったリオナは、目を輝かせて顔を覗き込んできた。
「ぐっ…!重たいって!そうな~…。うちらが行くところは観光地からは若干外れてるから何にもないよ」
「河童が住むとかで有名な町なのよ」
サミの言葉に、リオナが反応しない理由が見つからない。
「河童!?いるの?」
「いや…ええと…。小さい頃遊びまくってたけど、見たことない」
苦笑混じりに答えた。
「え~ないのぉ~?」
ちょっと拗ねた様子のリオナに、新しい情報を与えてやる。
「でも、河童に因んだ場所はあるよ。今度行くとこには、河童が作ったって言われてる河童の風穴なんてのもある。何か不気味だから肝試しとかやって遊んだ洞窟なんだ。バッチリ怒られたけどね」
実の話を聞き、リオナは違和感を覚えた。
河童の風穴。
なぜか引っかかる響き。
何だろう…?
「リオナ…?」
じっと考え事でもしてるかのように俯くリオナ。
「えっ?あっ…。じ、じゃあ、私もう寝るね!お休み!」
そう言うと、俺から降りて、そのまま横に寝転がり、ガバッと布団を被った。
「…何で暑い中2人で同じ布団に寝なきゃいけないんだよ…」
そっと呟いて布団から出ようとした。
のだが…。
不意に腕を掴まれて、脱出を拒まれた。
「ここにいて…」
「え?」
「実もサミも…ここにいて…」
怪談でもした後のように、リオナは縮こまっている。
何だか理由はわからないが…。
「私はどこにも行かないよ。勿論、実も…」
そう言って、2人でも狭いベッドにサミまで潜り込んだ。
翌朝、5時。
「実…実…!」
「あぅ…?今何時…?」
「5時!」
サミに起こされたので、何気なく時間を尋ねた。
へっ?5時?
「5時って…。まだ1時間寝れるじゃん…」
毎日6時に起きている俺。
起きるだけ起きて何をするでもなくグデ~としてるだけなんだけど…。
まだ寝ているリオナの横で再び目を閉じようとしたのだが…。
「ちょっと話したいことが…。リオナに聞かれるとマズいから外を歩こう」
?マークを拭いきれないまま、俺は家から出た。
早朝の、心地いい空気に包まれれる。
湿気た感じが何とも言えない。
歩いている人が誰もいないので、サミと話すには条件がいい。
サミが俺の横に並ぶ。
「で?話したいことって?」
「河童の風穴って、どんなの?」
いきなり本題に入ったサミ。
顔は至って真面目である。
「ん~…。朧気な記憶だけど、何か御札が大量に貼ってある不気味な洞窟なんだよね」
「御札……」
「うん。昔はいたずらで剥がしたりしてさ!何してんだろうね全く。あははは」
俺は笑ったが、サミは依然として真顔だった。
「そこ、行く?」
「いや、全然決めてないけど…?」
そう言うと、少しの沈黙。
「…昨日、風穴の名前を出してからリオナおかしかったでしょ?」
「うん…そう言えば」
沈黙を破りサミが発した言葉に、俺は同意する。
「私、心当たりあるかも…」
その心当たりが何だか分からないまま自宅に戻ってきてしまった。
家に帰るとリオナが起きていた。
エラく不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか?
「もう!どこ行ってたの!?私1人置いて!」
「散歩だよ、散歩」
軽く流して自室の椅子に座る。
そしてパソコンを立ち上げ、ググるワードは「河童の風穴」。
どんな場所が思い出してみようと検索したわけだが…。
「あれ…?何で…?」
全く情報が出てこない。
確かに、そんな有名な代物ではないが、全く出てこないというのは寂しい。
仕方なく諦め、リオナやサミとリビングへ足を運び朝飯を食べた。
その後は明後日に控えた遠出のため、近所のスーパーに買い出しに向かった。
翌日も準備して早めに寝た。
こうして、俺達は遠野へと旅立つ日を迎えたのだった。
いよいよ次回から遠野編へと入ります。
河童というイメージだけで選んだ遠野という未知の場所。
大丈夫でしょうか?
行ってみたい場所なんですけどね~…。




