表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

何で、よりによって

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/05/27

手慰み、第数弾であります。

お楽しみいただけたら、幸いであります。

「聖者も聖女も、偽者だっ」

 そんな、場を読まない叫びが響いたのは、聖女覚醒を祝う、祝賀会の最中だった。

 主役の聖女と、聖女を神国から迎えに来た聖者に、祝辞を送る列に並んでいた商会長が、盛大に溜息を吐く。

「……ったく、毎回毎回、こう言う社交場は、修羅場が起こるな」

 同意を求められ、隣に立つ副会長は目を上げた。

 進行方向を向いたまま、大柄な銀髪男は呆れ顔だ。

 小柄な副会長は、小声で返す。

「オレは、数年振りですが? しかも、ここまで目立つ修羅場、初めてです」

 驚いた会長が、小柄な男を見下ろした。

 紫の瞳には、驚愕がある。

「お前、オレより社交に出てたよな?」

「はい。主にあなた方が、人前に出るのを渋るせいで、その傾向がありますが?」

 好きで出ているわけでもないと、暗に仄めかす副会長に、会長は神妙に問う。

「あれは、余興じゃあ、ないのか? あれが嫌で、余程の上客目当て以外の夜会は、参加していないんだが」

「……どこの世界に、主役を貶めて晒す余興をする国が、あるんですか?」

 あるとしても、少なくともここではない。

 先の叫びに、主催国の重鎮たちが固まっていたが、

聖者と聖女を挟んで立つこの国の王夫妻が、声の主を探して目を動かしているものの、明確な命を下す気配がなく、聞き流しが妥当と判断したようだ。

 すぐにざわめきが戻って来た。

 と、思ったら、また叫び声が響く。

「その偽者たちは、ただの平民だっ。しかも、親に捨てられた、穢れをまとまった、孤児だっ。そんな奴らを、聖者聖女と祭り上げ、恥ずかしくないのかっ」

 うわあ。

 内心、頭を抱えそうになった。

 会長率いる商会が立ち上がって、十数年。

 爆発的に大きくなった商会は、金を持て余し始めていた。

 そこで、金の使い道を模索し、各世界の各国に一つずつ、親を持たない子を保護する施設を作った。

 暇だが、金稼ぎは飽きた連中の中から教育者を募り、施設に送り込み、最低限のマナーも叩き込ませて、社会に送り出し始めて数年後、この世界で奇跡が起きた。

 長く神の御代が覚醒しなかったこの世界で、同時に二人、覚醒が確認され、平民にのみ覚醒者が出ると言うその御代が出た場所が、国は違うが、後見者が同じ施設……つまり、商会が後見している施設だった。

 会長が大掛かりな割に、実入りがなさそうなこの祝賀会の、出席を決めた理由が、これだ。

 本当は、夫婦揃って祝いたかったようだが、間が悪いことに、夫人の体調が思わしくなく、副会長である男と同伴する事になった次第だ。

 今まで、何事も起こらなかったから、副会長は油断していた。

 気づくべきだったのだ。

 隣にいる商会長その人本人が、修羅場を呼んでいる可能性に。

 そして今、その修羅場に、自ら首を突っ込む事を厭わぬ顔で、会長は声の主を探していた。

 自分たちが後ろ盾になっている施設を貶められ、怒る気持ちは分かるが、静かな視線の流れを見ると、反論だけで済ます気配ではない。

 退場しよう。

 瞬時に決めた副会長は、藍色の瞳を主役たちに向けて、優しく微笑みながら、手刀に全神経を集中させた。

 このまま、無防備な会長の鳩尾を狙うつもりだったのだが、副会長の視線に気づいた聖女が、ぱっと顔を輝かせた。

「まあっ。商会の会長と副会長が、揃って来て下さってるわっ」

「え? わあっ。珍しいなあっ」

 聖者も顔を輝かせ、声をあげる。

 その声で、会長が我に返り、物騒な空気を霧散させた。

 代わりに、柔らかな笑顔を浮かべる。

「この度は、聖人認定されたと聞きました。おめでとう御座います」

 取り繕った挨拶の後、副会長も慌てて頭を下げ、言葉を継いだ。

「神国入りも、決定したと聞きました。商会従業員一同を代表し、祝いの品を持参いたしましたので、お納め下さい」

 形ばかりの挨拶にも、二人は喜んで声を弾ませる。

「ありがとうございます。わたくしたちを拾い上げ、育ててくれただけでもありがたいのに、祝いの場に駆けつけて下さった上に、お祝いの品まで。施設の先生方にも、幾ら感謝しても、足りないくらいです」

「ああ、ここまで迎えに来て良かった。本社が近いここなら、神国入りする前に、直接感謝を伝えに行けるかもと、考えていたんです。まさか、この場に来て下さるとは」

 図らずも、聖人たちは会長を持ち上げてくれた。

 お陰で大男は狼狽えてしまい、先の怒りをそっちのけに、言い訳を始めた。

「い、いえ。大した事はしていません。施設の質は、そこの従業員たちの気質によるものですし、商会からは寄付金を出していただけですから……」

 その、だけが長期間は難しいのだが、それは指摘しない。

 このまま話を進めて、退場しよう。

 副会長は、狼狽えたままの会長をそのままに、優しく切り出した。

「聖女様の護衛の依頼を承った件ですが、この場で紹介しても、よろしいでしょうか?」

「おいっ。話を聞けっ」

「まあっ。もう、人を見つけてくれたんですね。流石、仕事が早いですわ」

 雑音を物ともせず、聖女は明るく手を叩いた。

 そんな若い女に、副会長は後ろに控えていた二人を紹介する。

「商会の護衛担当の、夫婦です。夫人の方は、私の姉弟子に当たり、夫の方は、私の師匠の一人です」

 薄緑色のドレスに身を包んだ、白髪の長身の女と、礼服に身を包んだ黒髪の長身の男が、静かに挨拶と祝辞を口にする。

「貴様らっ、無視をするなっ」

「ご希望通り、神国でも守護出来る、選りすぐりの人材を集めました。気心知れた者も、含まれておりますので、ご安心ください」

「流石です。我が国の商会も、わたしの引っ込み思案を考慮した、護衛を選りすぐってくれたんですよ」

 聖者が嬉しそうに聖女に報告し、空気が和やかになるが、再び雑音が響く。

「おいっ。オレを無視するとは、何事だっ。無礼千万、許せんっっ」

 楽しげな主役たちの表情から、笑顔が消えた。

 その変化を見守っていた副会長が、優しく微笑んだまま、ぽつりと呟く。

「……うっざっ」

 しんと静まり返った場に、はっきりと響いてしまった。

「こらっ」

 ギョッとした会長より先に、姉弟子が副会長の頭を軽く叩く。

「その言葉は古い」

「いや、そこじゃない」

 姉弟子の旦那が、小さく指摘したが、二人は止まらない。

「すみません、言い直します。五月蝿い上に、鬱陶しい雑音が入りましたね。折角、聞かない振りで、場を乗り越えようとしているのに」

「気にするな。どうせ、負け犬の遠吠えと、変わりがない」

 弟弟子も酷いが、姉弟子の返しも大概だ。

 その時には冷静になっていた会長が焦る横で、護衛担当の旦那が眉を寄せた。

「一緒にしてやるな。犬に失礼だ」

 今回、ブレーキが余るほど同行していると思っていたら、実は一人もいなかった。

 そう気づいてしまった会長自身が、ブレーキにならざるを得ないと判断したが、それは手遅れだった。

 場を取り繕う間もなく、雑音の主が姿を現したのだ。

 高貴な貴族らしい、派手な礼服の若い男と、その側近らしき男たち三人だ。

 聖人二人の横に立つ国王夫妻が、倒れそうな顔色で三人を見る中、男の方が肩を怒らせて怒鳴る。

「無礼な平民ども。オレの言葉を無視した罪、万死に値するぞっ」

 再び静まり返った場で、聖女が静かに口を開いた。

「あなた、誰の許可を得て、発言しているのですか?」

「は? 誰の許可も、必要ないだろうっ。この国の王子の発言を制限出来るのは、国王陛下だけだ」

「お前こそ、誰の許可を得て、発言してるんだ? 平民風情が」

 どうやらこの国の王子らしき男と側近は、自信満々に言い切ったが、当の国王陛下は王妃と共に、気絶寸前だ。

 それを一瞥した聖女は、大袈裟に溜息をついた。

「……わたくしはこの度、聖女認定されました。こちらの方も、正式に聖者認定されております」

「っ、だから、それはっ」

「聖女と聖者は、どの国の王より、最高位に位置しているのは、ご存じですよね?」

 王子は不機嫌そうに顔を顰めた。

「だから、その認定がっ」

「わたくしは、あなたが発言する事を許可した覚えが、ないのですが。無礼なのは、あなたの方です」

「っ、偽者がっ、偉そうなことをっ」

 聖女の正論に、王子は完全に逆上し、側近二人が腰に提げていた剣を抜き、二人の聖人に飛びかかった。


 何と言うか、気が触れているんだろうと、副会長は感想を述べた。

「それか、誰かにない事を吹き込まれたか」

「そちらだと、思いたいものですが」

 消えかかりそうな声で答えたのは、今まで空気のようだった、この国の王だ。

 ざわつく会場の真ん中で、国王は王妃と共に、床に跪いて、王子の首根っこを掴んで頭を床に押し付けていた。

 それに倣って、国の貴族たちも国王たちの後ろで床に跪いたので、立っているのは聖人二人と商会会長、護衛担当夫婦だけだった。

 副会長は、聖人に飛びかかった男二人を重ねて床に組み敷き、完全に動きを封じながら、先の感想を述べた。

 会場の招待客を見るに、聖人たちの身分が高い事を、周知しているのは当然の話のようだと、予想しての感想だった。

 後者希望の国王に頷き、国の重鎮の一人らしき初老の男が、控えめに言った。

「聖人の性質なのか、長い歴史の中で一度も、貴族の家からは神の御代が誕生したことはありません。それを、面白く思わない者は、一定数おりますので、可能性はあります」

「とは言え、神国の認定を、頭から否定するのは、異常です。これ以上の弁明は、致しません」

 覚悟を決めた王妃の言葉を受け、貴族たちも黙り込み、聖人たちの言葉を待った。


「王子は、城の塔に蟄居、か」

 帰りの馬車の中で、会長がしみじみと呟いた。

 生温いと思っているのが、ありありと分かる呟きだし、副会長も同意見だが……

「会長」

「何だ?」

 優しい呼びかけに、気楽な返事を返した大男に、小柄な男は優しく言い切った。

「あんたは二度と、社交するな」

 これは、罰にはならない。

 寧ろ、褒美に取られそうだが、仕方がない。

 今回のように、直接商会に関係していなかったから、今までの修羅場は会長に無視されていただけで、一人で招待されている時のこの人が、どれだけ危うい状態なのか、分かってしまった。

 会長には、これからは現場だけ見ていて貰い、営業は自分が担当しようと、副会長は心に決めた。

 

お粗末でございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ