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第2話

------------学校------------


「ねえあいつさ…」「今朝ニュースで見たわよ…」「ほんとにあいつなの?見間違いじゃない?…」


HR前の教室であいさつが飛び交う中、ニュースの事で噂話が広がっていた。


(うぅ…視線が痛い…全部聞こえてるんだよ…大ごとにしたくないって言ったのに…飛炎だっけかあいつ…次会ったとき覚えとけよ…てゆうか…こんなエレメンタルヒーローに関係することで目立ったら神童がうるさくなりそうだな…)


そんな事を考えていると、神童が教室に入ってくる。友人とあいさつを交わした神童は誠太郎の考えとは裏腹に誠太郎には一瞥もくれずに自身の席に座る。


(あれ…珍しいな…いや…昨日の事ちゃんと守ってるのか…律儀な奴だな…まあいいさ…やっとこれで邪魔されずに本が読める…)


誠太郎は鞄から一冊の本を取り出しページをめくる。ふと、ページをめくる手が止まる。普段はやかましく感じる神童の声、普段は鬱陶しく思う桃崎の話し方。久しぶりに``友達``がいなくなった感覚がよみがえる。心臓が少し縮む。頭の中いっぱいが喪失感で埋め尽くされる。


(…そうだ…他のやつらなんて関係ない…俺が決めるんだ…)


桃崎の席に目を向けると桃崎と仲が良さそうに話す翠華の姿があった。


(…桃崎は諦めるか…先に神童だな…)


チャイムが鳴り、次の授業が始まってしまった。

誠太郎は、休み時間に話しかけるチャンスを改めて探すことにした。

けれど、それがなかなか難しい。

神童はいつも陽キャグループの中心にいて、隙がない。

教室のあちこちで笑い声が響く中、誠太郎はタイミングをうかがいながら、内心で呻いた。


(……マジで一人にならねえな…あの取り巻きみたいなやつらの前で話しかけるとか無理ゲーすぎんだろ…)


休み時間も、昼休みも、放課後ですら、

神童はずっと、誰かと一緒にいた。三人以上の固まりの中で、ずっと笑っていた。


誠太郎の言葉を差し込む隙間なんて、どこにもなかった。


(今日は諦めよう…また明日チャンスがあればでいいや…桃崎も邂逅院がいる限り話しかけられないよな…)


荷物をまとめ始めた誠太郎の席に一人の人物が近づいてきた。


「ご機嫌いかがですかぁ~?」


「またお前か邂逅院。何の用だよ。」


腕を組みニヤニヤしながら余裕のある表情を浮かべる翠華は続けて言う。


「いいえ~?別に~?お話しするご友人もいない貴方が泣いてしまっていないか心配になったのですわ~。…今日の貴方、滑稽でしたわよ?神童さんに話しかけようとして一日が終わる貴方を思い出すだけで…ふっ…あははははは…実に愉快でしたわー!」


「なにお前…連日続けて煽るようなことして…暇なの?いい加減に…」


手に取ったスマホに目をやる。時刻は16時半過ぎ、誠太郎が注目したのは日にちであった。


(そうか!『義妹の属性が多すぎて。』の新刊発売日今日か!忘れてた…朝のゴタゴタで確認し忘れたんだ…)

        

「すまん、邂逅院。``俺は``暇じゃなくなった!じゃあな!」


「あ!まだ話は終わってないですわ!待ちなさーい!」


制止する翠華を振り切り、誠太郎は走って教室を出る。誠太郎の地元には本屋がなく、隣町である夕焼町(ゆうやけちょう)にしかない。夕焼町に行くには電車で向かう必要があるので、一苦労なのだ。


(駅に着くのが大体17時…夕焼町に着くのが17時半ぐらい…書店が閉まる時間帯が18時…間に合うか…)


駆け込むように電車に乗り込む。夕焼駅に着き、早歩きで書店に向かう。駅付近はあまり人がいないようだった。時間帯も関係があるのだろう。


(よしよし…全然間に合うな…ん?)


視界の端に見覚えがある人物が写る。顔を向けると、神童と桃崎が並んで歩いているのが遠目に見える。後ろ姿だけだが、間違いなくその二人だ。


(あれ…なにしてるんだろ…ちょうどいいな…あの二人だけだし…今声を掛けて…)


走り寄ろうとした瞬間、近くの車から降りてきた数人の大柄な男たちに二人が路地裏に連れていかれるのを目撃した。周りの人間は一人二人いたのだが、気付いていないのか、はたまた面倒ごとに巻き込まれたくないから見てないふりをしているのか。二人だけ景色から消えたような感じだ。


(え?…なにいまの…誘拐…いや…ちょっと乱暴な親戚とか…ないな…誘拐だよな…明らか…と…とりあえず警察…)


ポケットを探ってもスマホが見つからない。バッグを探っても入っていないようだ。


(まさか学校か!?…くそ…邂逅院め…どうしよう…助けに行こうか…いや俺が行ってどうなるんだ…誰かが助けてくれるよな…うん…そうだよ…俺には関係ないんだ…このまま本屋に行って本買って帰るんだ…うん…関係ない…関係ない…)


「おい!桃崎から手を放せ!」


路地裏に連れ込まれた桃崎と神童は4人組の男達に押さえつけられていた。


「エ~イ、姉ちゃんYO~。結構かわいいジャンYO~。」


「離してよ気持ち悪い…!」


「ツレないことYOUなYO~。これからしばらく一緒に遊んでもらうんだからYO~。」


「こんな事してどうするつもりだ!すぐにヒーローが駆けつけて来るぞ…!」


「んなこと分かってるYO~。そのための人質だYO~。比呂クンYO~。君の家お金持ってんだLOW?」


「身代金か…!なら俺だけでいいだろ!桃崎…!その女の子は関係ない!解放しろ!」


「エ~イ。人質は多いほうがいいだろうがYO~。そうだLOW~?おまいら~」


「「「そうだYO~。」」」


「…くそ!」


「君が力で勝てるわけないYO~。さてそろそろ…」


「あの。」


呼ぶ声のほうに目を向けると、誘拐犯達、そして二人の目に誠太郎の姿があった。


「…神霧!?」


「神霧君…」


「なんだYO~。おまえ…その制服…比呂クンのお友達か~い…?」


「い…今さっきエレメンタルヒーローに通報した…痛い目にあいたくなかったら二人を今すぐか…解放しろ…」


「はぁ~。面倒だYO~。あまり人質は増やしたくないんだ…YO!」


誘拐犯の拳が誠太郎の顔にめり込み、誠太郎の体は大きく吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面に転がる。


(うぐ!…い…痛い…目の前がチカチカする…!)


「神霧君!」


「神霧!おいお前ら!いい加減にしろよ!」


「さすがに三人は大所帯…君は邪魔だYO!」


誘拐犯は寝転がる誠太郎の腹に蹴りを食らわせる。「ぐは」と声を上げた後に誠太郎は沈黙し、ぐったりとする。


「お前ら…うぐ!」


誘拐犯は神童の顔にも蹴りを食らわせる。


「そろそろうるさいYO。これだから子供は嫌いなんだYO。おまいらたてぃ~。移動するYO~。」


「待て…」


誘拐犯が振り向けば、先程まで地面に転がっていた誠太郎が口から血を流しながらも立っていた。


「もういい…!神霧…!…逃げろ!」


「…しつこいYO。きみぃ…いい加減にしなYO!」


再び愉快犯が振りかぶる。そのさなか、誠太郎はその動作から目を離さなかった。


(なんでこんなことになったんだろうな…こんなことなら帰ればよかったな…結局本も買えてないし…ただ…ただ俺は確かめたかったんだ…あの時子供を助けたときの謎の幸福感…人を助ける事で俺に自信が持てるなら…俺もヒーローになれるのかな…)


誠太郎はゆっくり目を閉じた。誠太郎の顔に拳が飛んでくる、しかし、拳は誠太郎には当たらず、拳を繰り出した誘拐犯が衝撃音を受けながら地面に陥没する。この衝撃音には聞き覚えがあった。目を開くと、倒れた誘拐犯を踏みつける飛炎の姿があった。


「ハッハッハ!大丈夫か!?ん?君!どっかで会ったな!」


「飛炎さん…あ!後ろ!」


残った三人の誘拐犯たちが奇声をあげながら飛炎に飛び掛かる。飛炎は落ち着いた様子で右の掌を誘拐犯に向ける。


「話での交渉は不可能と判断した!手荒になるがすまない!せいぜい警察病院で反省するんだな!」


ゴオオと音を立てながら飛炎の右手から炎が噴射される。誠太郎はその熱波に圧倒され、両手で目の前をふさぐ。炎が止むと丸焦げになった誘拐犯たちがぼとぼと地面に落ちる。


「先程民間人から通報があった!君たち怪我はないか!?」


「俺たちは抑えられてただけなんで…それより神霧のほうが…」


「俺も大丈夫だよ…気にすんな…」


肩で口についている血を拭う。すると急に両手を掴まれる。


「君のような素晴らしい精神を持っている子がいるのは驚きだ!君!ヒーローになる気はないか!?」


「…っ」


言葉に詰まる。前と同じ状況、前と同じ問い、ただ誠太郎の答えだけが違っていた。


「…あ…えっと…お、俺でもヒーローに!」


「おっと…すまない!救助要請だ!救急車は手配しているから君たちはここで待機だ!またな!」


「え…えぇ…」


言葉を発する間もなく飛炎はどこかへ飛んで行ってしまった。呆気にとられていると、神童と桃崎が横から話しかけてくる。


「ほんとに大丈夫か?神霧。なんかわるいな、巻き込んじゃったみたいで。」


「心配性だな。ほら、もう血が止まってるし大丈夫。」


「神霧君かっこよかったよ。助けてくれてありがとね。」


「いや、助けたのは飛炎さんで……なあ神童。」


「ん?どうした?」


「俺なんかでもさ…ヒーローになれるかな…」


神童と桃崎は顔を見合わせニヤリと笑う。


     よ!

「「なれる 」」

  さ!


「…ありがと…ちょっと自信ついたかも…」


体が脈打つのを感じる。心臓の音がうるさすぎて、ほかの音なんて聞こえなかった。


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