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第1話

-----熱い夏の日だった。朝7時のアラームの音で目が覚める。重い体を起こしてベッドから下り、寝間着のまま下の階へ下りてゆく。


「おはよう誠太郎。朝ごはん出来てるわよ。」


リビングに向かうと母、神霧朝子が朝ご飯を用意して迎える。


「おはよう…父さんはもう仕事?」


「だいぶ前に出たわよ。転勤したてだってのに大変ね。」


席に着き、朝ご飯を食べ始める。トーストをかじりながら誠太郎はテレビに目を向ける。


「またエレメンタルのニュースばっか…いい加減聞き飽きたな。」


「あら、でもそのおかげで救われたのもあるじゃない?何事にも感謝よ。」


5年前に発見された無から有を生み出す奇跡の石、エレメンタル。この石の発見により現代の科学力は飛躍的に向上した。電力の問題が解決され他の技術力向上に力を入れられるようになった結果、特にAIの技術が発達した。それにより、AI技術の先駆けであったAutomaticオートマチック innovationイノベーション株式会社、通称「AI社」が莫大な進歩を遂げた。エレメンタルによって問題が解決した中小企業や、電力問題に対応していた会社も役目をなくしすべて倒産。働き口をなくした社員たちはたちまち「AI社」に引き抜かれた。神霧家も例にもれず、大黒柱を引き抜かれ、家族総出で引っ越しを余儀なくされたの

だ。


「父さんの転勤はまだいいけど、なんで転校なんか…」


「そうそう!新しい学校はどう?お友達できた?」


「いない…けどまだ三日目だよ、母さん。」


「話せる子もいないの?お母さん心配…」


「うるさいな!俺は別に一人でいいんだよ!……群れなきゃなにもできないヤツとは違うんだ。」


「でもでも…」


朝子の言葉を遮るように席を立ち自室へ向かう。部屋で制服に着替え身支度を始める。身支度を終えると家を出るため下に降り、玄関に向かう。


「いってきまーす。」


「いってらっしゃい。気を付けてね。お友達たくさん作るんだよ。」


笑顔で見送りをする朝子を背に、玄関のドアを開ける。直後日差しのせいで目を細める。熱のせいか景色が歪んで見える。虫の声がうるさく響き、軽い頭痛を患わせる。冷房が効いた家の中とは、別世界だ。熱いと愚痴を漏らしながら学校へ向かう。通学中も自立したロボットたちがせわしなく動く様子が目に入る。横断歩道を渡る小学生を誘導するロボットもいるようだ。

誠太郎の通う「黒瀬学院高等学校」には徒歩30分ほどで通える。自転車の通学も許可されているが、誠太郎は本を読むために歩いて通う。登校中に本を読むのは学校では本が読めない理由があるのだ。


「か~み~き~り~。聞こえてるか~?」


教室の窓際の席で読書を嗜む誠太郎に声をかける男がいた。この男、神童比呂は誠太郎の転校初日から声を掛け続け、毎日誠太郎の読書を妨げていた。


「あのさ神童…邪魔なんだけど…」


「それよりさ!これ見ろよ!まただよまた!」


(話聞けよ…)「どうせエレメンタルヒーローのことだろ。」


「そのとおり!ガス爆発の事故から子供を守ったんだってよ!!」


エレメンタルを基に稼働するスーツを纏い人命救助を行う職業、通称「エレメンタルヒーロー」が現在注目を浴びている。救助ヘリの届かない場所でも、安全かつ迅速に人命を救える。エレメンタルヒーローの登場は、災害時の生存率を劇的に押し上げた。


「信じられねえよな!爆発の中心部に突っ込んでいくんだぜ!動画サイトでも200万再生はいってる!」


「…俺は気に入らないけどな。多分お前くらいだよ、そんな動画見て興奮してるやつ。お前だけで200万再生したのか?」


「私も見たよそれ!」


「おお桃崎!お前も見たか!」


「うん、30回ぐらい。」


小柄な女の子が神童の横から話に割り込んでくる。名は桃崎愛花。神童と同様騒がしいエレメンタルヒーロー信者で。こいつらのせいで誠太郎のストレスは日々たまっている。


「あのさ、エレメンタルなんとかの話するならあっち行ってくれない?本読みたいんだけど。まずお前ら俺と違って友達いっぱいいるだろ?俺みたいなやつと話してると友達減るぞ。」


「いや、そうゆうの関係ないぞ。お前はほかのやつらとは違う何かを感じるんだ…」


「そうだよ神霧くん。友達減る減らないじゃないよ。」


二人は同調し、うんうんと頷く。誠太郎は頭をかきながらこちらを見る数人の視線を感じていた。


「ところでだ神霧!これに応募してみる気はないか?」


神童は机に一枚のチラシを叩きつける。そこには「ヒーロー募集!!正義感のある君が次のヒーローだ!」と書かれた応募用紙があった。


「いや…結構です。」


「桃崎も応募するってよ!俺たちならなれるって!な!神霧!ヒーローになって世界を平和にしようぜ!」


「絶対やだよ…まずそんなの受かるわけないだろ。夢見んなよ。」


ちょうどそこでチャイムが鳴り、先生が教室に入り教卓に立つ。神童と桃崎もそそくさと自分の席に戻っていく。誠太郎はその日も呆けた様子で授業を受ける。後ろから紙屑を頭に当てられ、振り返ると数人がニヤニヤしながら見てくる。またかと誠太郎はあきれた様子で前を向く。このような嫌がらせは転校してからは毎日だった。自分の立場が弱いからと何も言えない。自分自身すら救えない者がヒーローになんかなれるわけがない。これが誠太郎の固定観念になりかけていた。気づけば昼休み、学食に行く生徒もいれば教室で弁当を食べる生徒もいた。


「…なんで机くっつけてるの?」


「え?飯食うんだろ?今日学食?」


神童と桃崎は誠太郎の机に向かい合うように机をくっつけ、弁当箱を取り出している。まるで小学校の給食のような光景だった。


「…桃崎もだよ、いつも学食だろ?」


「今日はお弁当作ってきたんだー。早めのお嫁さん修行だよ。」


したり顔の桃崎とは裏腹に顔色が悪い誠太郎は嫌な予感がしていた。


(俺が嫌がらせを受けてる理由は恐らくこいつら。クラスの中心人物が俺みたいな陰キャにとられたと思ったやつらが嫌がらせしてるんだ。今までは話すまでに留まってたけどこれはさすがに限度が…)


「比呂ー、ちょっときてー」「愛花ちゃーん、ちょっといいー?」


時すでに遅しだった。二人は友達に呼ばれごめんと一言残し去っていった。一人になった神霧のもとに数人の女グループが近寄ってくる。全員眉間にしわを寄せているようだった。


「少しお時間いただけるかしら?神霧サン?」「…はい」


誠太郎は空き教室に連れていかれた。中は暗く、教室の隅には物置のように机や掃除用具が乱雑に置かれている。女グループは扉を背にして誠太郎に詰め寄る。


「わたくし、愛花さんの友人の邂逅院 翠華と申します。以後お見知りおきを…」


腰まで伸びている縦ロール、気品を感じさせる金髪の少女は、いかにもお嬢さまという雰囲気を醸し出している。翠華はこちらを睨めつけながら名を名乗ると、誠太郎に歩み寄る、翠華の鋭い目線に、ふいに誠太郎は目を背ける。


「あー…知ってますよ…ここいらで有名なお金持ちさんですよね…自分になにか?」

 

「…最近の貴方は目に余ります。いったいどうゆうつもりでして?」


「どうって言われても…なんのことか…」


目を合わせずに会話する誠太郎が気に入らなかったのか、翠華は誠太郎のつま先を足で踏みつける。

「いっ…!」と声を上げ、思わず誠太郎はしりもちをつく。


「もうこれ以上愛花さんに関わらないで。愛花さんはあなたのような人間が話していい人じゃないの。」


こちらを見下ろしながら翠華は冷たく言い放つ。誠太郎は翠華の桃崎に対する異様な執着のようなものを感じた。


「分かりましたか?」


「関わらないでっていうかあっちから…」「分かりましたか?」「…はい」


翠華は振り返り女グループと共に教室を出ていく。誠太郎は何も言い返せない自分の不甲斐なさに、しばらく立てずにいた。翠華の目は、ぽっかりと穴が開いたように光が無かった。


「…あ!!遅いぞー!」


教室に戻ると待っていた桃崎がこちらに手を振る。まだ席の場所は戻っておらず、給食状態だ。誠太郎は椅子に腰かけながら弁当箱を開く。


「ちょっと野暮用でね…神童は?」


「まだ帰ってきてないよ。屋上に行くところは見たんだけどねー。」


「この学校屋上行けたんだ…後で行ってみようかな。」


「やめといたほうがいいよ。結構やんちゃな人が多いっぽくてさー。それよりさ。」


桃崎がこちらに身を乗り出し、小声で話す。


「翠華ちゃんと会ってたでしょ。空き教室入ってくの見えたんだけど。野暮用ってそれ?」


「え?…あーそうそう。見てたんだ。」


「あの子いい子でしょー?仲良くしてあげてね。」


「いい子か…桃崎はその子と仲いいの?」


「うん。実は小学校の時からの付き合いなんだ。家が近所でさー。幼馴染ってやつ?」


「へぇー…そうなんだ。へぇー…」


「もうー…ちゃんと聞いてる?」


「え?あぁ…あのさ、もう俺に話しかけてくるのやめてくれない?」


「え?なんで?私なにかしちゃった?」


「…した。迷惑なんだよ。神童もそうだ、お前らもう少し察してくれないかな?いい加減気づいてくれよ。」


「そっか…ごめんね。知らない間にめーわくかけてたなんて…」


「…いいよ、もう。神童にも言っといてくれ。」


「うん…」


寂しそうに頷いた桃崎は席は戻さず、俯きながら弁当を食べる。


(え?きまず…席戻せよ…何考えてんのこいつ…)


「ただいま~。いや~遅くなっちゃったよ~。」


席を外していた神童が呑気な顔で戻ってくる。


「神童くん…ちょっと…」「え?なに?」


神童を手招きで呼び、桃崎はごにょごにょと耳打ちする。


「…そっか、そうだったのか…すまんな神霧。知らずにお前を傷つけていたなんて…」


「お…おう、分かってくれたならいいんだ…」


神童と桃崎は神妙な顔つきで弁当を食べ始める。


(席は戻さないんだ…)


少ししてチャイムが鳴り、昼休みが終わる。そこからは流れるように時間が過ぎていった。休み時間に話しかけてくるのがいなくなったからか、なんとなく虚しい気持ちになった。これでよかったのか、せっかく話しかけてくれたのにひどい言い方をしたのではないか。そんな自責の念に駆られてまもなく、放課後になった。クラスメイトは足早に教室を出ていく。そのほとんどが部活に向かう生徒だった。神童も桃崎もほどなくして教室を出ていく。帰り支度する誠太郎にただ一人、向かってくる者がいた。


「あらぁ?今日はお一人でおかえりですかぁ?」


腕を組みこちらに歩いてくる翠華が、うれしそうな顔をして誠太郎の席の前に立つ。


「あぁ…邂逅院か…何の用だ。お前の言った通り、これでもう桃崎とは…」


誠太郎の言葉を遮るように翠華は机を蹴り飛ばす。衝撃に耐えきれず、誠太郎は椅子ごと後ろに倒れる。


「口の利き方がなっていませんね?誰が敬語を使わなくて良いとでも?正直関心致しましたわ。あなたのようなゴミがちゃんと言ったことができるなんてね。もうこれで愛花さんとこのクズは一生関わることはなくなりましたわーー!!」


(もう学校辞めようかな…)

 

翠華はひとしきり笑った後、踵を返し教室を出て行った。少しして誠太郎も教室を出て、帰路につく。時刻は午後三時頃、うつむいて帰る誠太郎の前を小学生数人が横切る。気が付けば、もう家の近くだった。顔を上げれば小学生を誘導するロボットが目に入る。今朝と同じ光景に見えた。ただ一つ違うとすれば、ロボットが挙動不振だ。動きがぎこちない、その様子がおかしかったのか、小学生が周りを取り囲み、木の枝でロボットをつついている。


「キヲツケテ、キタクシテクダサイ。キヲ…ツケ…テテテテテテテテテテテテテテテテ」


音声がバグったかと思えば、小学生を誘導するはずの旗が子供に向かって振り落とされる。しかし、その旗は子供には当たらず空振りする。考える間もなく、誠太郎は子供を抱きかかえ、地面へと倒れこんでいた。


(なんだ!?何が起きた!?なんでロボットが急に…それより…なんで俺はこんなガキを…)


「お…おにいちゃ…」「あ…あぁ。大丈夫か?とりあえずあっち行ってろ。」


抱えた子供は涙目になっている。安全な方に子供を逃がしたのち、視界をロボットに戻す。相も変わらず挙動と音声が狂っている。警報のようにビービーと不協和音を鳴らし続けながら、体を回転させている。


(なんだ、あれ……?ロボットって、安全じゃなかったのかよ……何か不具合が…)


瞬間、目に追いつかない速度でロボットが誠太朗に突っ込んでくる。避けきれずに腹に体当たりを食らってしまう。「ぐっ…」とうめき声をあげ、後ろに吹っ飛ばされる。


(うぅ…痛い痛い痛い…!目の前がクラクラする…このままじゃ…)


再びロボットに目を戻す、変わらず体を回転させている。しかし、誠太朗の目にはこちらに標準を定めているように見えた。ロボットが動きを止めた瞬間、誠太郎は死を覚悟した。その時、視界の上から飛来したなにかにロボットが攻撃された。衝撃で発生した煙に視界が遮られる。せき込みながら何が起きたのかわからないままでいると、徐々に煙がなくなり、視界を取り戻す。そこには一人の男が先程のロボットであったのであろうボロボロになったガラクタを踏みつけていた。


「おう高校生!!怪我はないか!?」


体に機械のようなものを取り付けた男。いたるところからプシューと音を立てて煙を放出し、関節部には丸いカバーのようなものが付いており、せわしなく回転している。体の線にそるように赤いラインが走り、蛍光色に輝いている。この姿には見覚えがある。何度も学校で神童に見せられた、エレメンタルヒーローそのものだった。


「さっきイビルに襲われたっていう子供の親御さんから連絡があってな!制服を着た男に助けられたらしいが…君で合っているか!?」


「え?…あ…そう…ですけど」「よくやってくれた!」


男は一瞬でこちらに近づき、手を取る。やけに距離感が近く、声がでかい男だ。


「君のおかげで!命が一つ!守られた!ありがとう!」


「い…いえいえ…自分は何もしてないです…」


「なんて謙虚だ!素晴らしい!最近イビルが多くてな!君みたいな人材が貴重なんだが…そうだ!君、ヒーローになる気はないか!?」


「あ…いやないです…それよりさっきから言ってるイビルって?」


「ん?ああ、暴走したロボットたちの総称だ!悪って意味があるらしい!最近増えてきていてな!今俺たちはそれで手一杯なんだ!だから人手が欲しくてな!そうだ!君、ヒーローになる気はないか!?」


「あ…いやないです…結構です…」


「そうか!残念だ!いつでも待ってるからな!」


「あ、はい。じゃあ、俺はこれで…」


「待て!今から警察が来る!事情聴取ってやつだ!君、テレビに出れるぞ!新聞にも!」


「え?あ…そっか…俺、あんまそうゆうの出たくないんで、全部あなたのおかげってことで…」


「なんて謙虚だ!素晴らしい!最近イビルが多くてな!君みたいな人材が貴重なんだが…そうだ!君、ヒーローになる気はないか!?」


「…え?……え?…いや……え?」「どうした!」


同じ問答を繰り返す男に対して誠太郎は困惑する。このままじゃ時間の無駄だと思った誠太郎は、すぐその場を離れようとした。


「じゃあ帰ります。お疲れさまでした。」「待て!」


手を振りほどき、帰ろうとする誠太郎に対し、男は呼び止める。


「…なんですか?」「俺は飛炎勝機!君は!?」


「神霧…誠太郎…」「神霧君か!ありがとう!」


飛炎は誠太郎の手を無理矢理とり、握手をする。誠太郎はすぐに手をほどき、そそくさと家に帰る。玄関のドアを開け、自室へと入り、うつ伏せにベッドに突っ伏す。


(なにやってんだ俺…面倒ごとは避けたかったのに…くそ…腹いてえ…)


仰向けになり、放課後の事を思い返す。


(なんで俺はあの時…ガキを助けたんだ…何も考えてなかった…そんなことより…イビルだっけ…もしも今日みたいなことがまた起きて…子供がまた襲われたら…ああもう!!もうどうでもいいんだ…どう…でも…)


瞼が重い。睡魔に襲われそのまま落ちるように眠りにつく。妙な夢を見た。子供が一人、大人が一人立っている。親子だろうか、手をつなぎ、向こう側に視線を向けている。ぼやけた白い視界の中で、後ろから見ることしかできない。この二人には見覚えがある。しかし思い出せない。二人は顔だけ向き合い、何か話している。直後、朝子の声で目が覚めた。気だるげに起き上がる。何か夢を見ていたような気がするが思い出せない。ブレザーをハンガーに掛け、眠たい目を擦りながら下に降りていく。


「おはよう誠太郎。昨日はぐっすりだったわね。」


「おはよう…なんか疲れててさ…」


「ご飯食べ終わったらお風呂入ってきなさいよー。まったく…しょうがない子ね…って…あーー!!」


急に大声を出す朝子に驚き、誠太郎は飲んでいた牛乳を吹き出す。


「ごほっごほっ…なんだよ急に大声出して!」


「こっこここここっこここ…これ…」


朝子は震えながらテレビを指さす。テレビに視線を移すと、そこには昨日会った飛炎勝機の姿があった。


《いいか!?もう一度言うぞ!!なんでもたろうくん!彼が子供を助けてくれたんだぞ!!早くヒーローにさせろ!!》


《離れてください!!撮影になりませんから!!》


《なに!?誰だお前は!?離せ!!くろせくん!!見ているだろう!!》


《誰ですかその人!!カメラ返してください!!》


テレビの中で飛炎とニュースキャスターがカメラを奪い合っている。よく見ると昨日誠太郎が子供を助けた場所でニュースの撮影が行われていた。


「名前は全部言ってはいないけど…これって誠太郎のことよね!?あなたそんなすごいことしたの!?」


「え?…い…いや!違う…俺じゃ…」


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