【童話】きらきら満タンで
この作品は「冬の童話2026」の参加作品です。
テーマは「きらきら」です。
【登場人物】
ユーミ:北極星を見る為に四輪の丸い乗り物で北へ向かっている。
店員 :スタンドに勤めている人。北極星の事を教えてくれる。
ユーミは四輪の丸い乗り物を北へ走らせていた。
建物が連なる景色に見慣れていたので、何もない土地が延々と続くのは新鮮に感じる。地平の先に見える山も誰かが描いた絵のように思えた。
ふと、エネルギーメーターを見ると半分を下回っている。そろそろ補給のタイミングだと思った時、ちょうどスタンドの看板が目にとまった。この先三キロと書いてある。
そのスタンドで補給がてら休憩しようと、ユーミはハンドルを握り直し、道の先を見つめた。
(もうすぐ北極星だ。)
しばらく走るとスタンドはすぐに見つかった。何もない道路沿いにポンッと建物を置いたのではないかと思えるような佇まいだ。
ユーミは減速してゆっくりスタンドへ入ると、補給機の近くに止めた。それと同時に建物の中から出てきた店員が穏やかに注文を聞いてくる。
「どうしますか?」
「きらきら満タンで。」
「きらきら満タンですね。ありがとうございます。」
店員は注文を聞くと補給機からノズルを取り、四輪の乗り物の補給口に入れてレバーを引いた。トポポポポときらきらが補給されていく。
「休憩できますか?」
「中へどうぞ。」
補給が終わると店員はユーミを案内してくれた。
スタンドの中はカウンター席とテーブル席があり、メニューには数種類のドリンクの他に、トーストやパンケーキやドーナツなどが書かれていた。
「何か頼まれますか?」
「コーヒーをお願いします。」
「かしこまりました。」
店員は流れるような作業でコーヒーを作り、ユーミの前に置く。
「北極星を見に行かれるんですか?」
「分かりますか?」
「ここにいらっしゃる方は、たいてい北極星が目当てなので。」
「そうなんですね。私も一度は北極星を見たいと思ってたんです。」
「その価値はあると思いますよ。」
店員の受け答えにユーミの心はほぐれ、会話が続いた。
「北極星を見に行く人は多いですか?」
「そうですね。ほとんどの方はツアーですけど、個人の方もそれなりにいますよ。おかげで、こんな辺鄙な所でもお客さんが来てくれます。」
そして店員は「よろしければ、どうぞ。」と言って小さなブラウニーケーキをサービスしてくれた。
「直接見る北極星は違うって良く言われますけど、本当ですか?」
「そう思いますよ。」
「どんな感じなんですか?」
ユーミの質問に店員は少し考えてから思わせぶりな事を言った。
「見る度に違いますね。」
「どういう事ですか?」
驚いてユーミは聞き返す。
「どう説明すれば良いんでしょうか……見る時の気持ちによって元気をもらえる時もあれば、癒される時もある。楽しい気持ちや、優しい気持ち、悩みや不安が消えて心が穏やかになる事もあるんです。」
ユーミは不思議に思いながらも期待が膨らんでいった。
「だからあなたの見る北極星は、きっとあなただけの特別なものになりますよ。」
「楽しみです。」
その後も北極星について色々と話した後、店員は少しだけ注意する場所があると教えてくれた。
「この先にトンネルがあるんですが、今、そこの照明が壊れてましてね、真っ暗なんです。」
「え!?」
「心配なさらなくても、きらきらを照らしながら、ゆっくり進めば大丈夫ですよ。」
ユーミの心配に気付き、店員が丁寧に対処方法を説明してくれたので、ユーミもすぐに落ち着いた。
「分かりました。気を付けます。」
「そのトンネルを抜けると北極星はすぐそこですよ。」
ユーミがスタンドを出る時、店員は道まで出て見送ってくれた。
「いってらっしゃい。北極星を楽しんで下さいね。」
「ありがとう。行ってきます。」
ユーミは四輪の丸い乗り物を走らせた。
しばらくすると前方に山が迫ってきた。山にはトンネルがあり、新しめの看板が目立つように立っている。
『この先、真っ暗!きらきら点灯!』
看板の文字を見て、店員が話していた場所だと分かった。
「ここが例のトンネルね。確かに真っ暗だわ。」
ユーミはきらきらを点けると、スピードを落としてノロノロと前進した。
真っ暗な中をきらきらが照らし、優しい光が帯のように伸びて道になっていく。トンネルは方々に分岐していたが、何故か行くべき方向が分かった。
(不思議。迷う気がしない。)
ユーミが真っ暗な中を慎重に進んで行くと、先の方に蒼白い光が見えた。それを目印にまっすぐに進む。
(出口だ。)
トンネルを抜けると、そこは星の世界だった。
北極星が北の空の真ん中で優しく強い光を放ち、周りの空を埋めるように星々が輝いている。別世界のその光景に、ユーミは思わず四輪の丸い乗り物を止め、時間を忘れて空を見上げた。
数日後、北から走ってきた四輪の丸い乗り物がスタンドに入ってきた。
「こんにちは。」
「ああ、この前のお客さん。」
前と同じように店員が穏やかに迎えてくれる。
「どうでした、北極星は?」
「とても素敵でした。」
ユーミはスタンドの中でコーヒーを飲みながら、店員相手に北極星について話した。
北極星は四方八方に光を放ちながらプリズムの七色ように変化しながら輝き、星たちは北極星を中心にクルクル回り、まるでダンスをしているようで、見ている内にいつしか自分も星の一つになり、北極星の周りで踊っている気持ちになった。
宿の部屋にいる間も窓から北極星と星たちが見え、いつも星空の中にいる事ができ、星の光は心を優しく満たしてくれた。
「そういえば、ここのきらきらも北極星の光を使ってるって聞きました。」
ユーミの言葉に店員がすぐに反応する。
「はい。北極星の光の結晶を加工して作っています。」
「だからあの真っ暗な中でも、道に迷わなかったんですね。」
「ええ、その通りです。」
店員が誇らしげに答えるのを聞いてユーミは微笑んだ。
「思い切って北極星を見に来て良かったです。」
「それは何よりです。」
ユーミは美味しいコーヒーを飲んで休憩すると、四輪の丸い乗り物に戻った。補給機の方へ移動すると、店員が穏やかに注文を聞いてくる。
「今日はどうしますか?」
「きらきら満タンで。」
「きらきら満タンですね。ありがとうございます。」
ユーミはきらきらを満タンにすると、南に向かって出発した。
おしまい。
お読み頂き、ありがとうございます!
「きらきら」が何なのか具体的に決めていません。皆様のご想像にお任せします。雰囲気を楽しんで頂けたら幸いです。
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