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【童話】きらきら満タンで

作者: 屑屋 浪
掲載日:2026/01/21

この作品は「冬の童話2026」の参加作品です。

テーマは「きらきら」です。


【登場人物】

ユーミ:北極星を見る為に四輪の丸い乗り物で北へ向かっている。

店員 :スタンドに勤めている人。北極星の事を教えてくれる。

 ユーミは四輪(よんりん)の丸い乗り物を北へ走らせていた。


 建物が(つら)なる景色に見慣れていたので、何もない土地が延々(えんえん)と続くのは新鮮に感じる。地平の先に見える山も誰かが描いた絵のように思えた。


 ふと、エネルギーメーターを見ると半分を下回っている。そろそろ補給のタイミングだと思った時、ちょうどスタンドの看板が()にとまった。この先(さん)キロと書いてある。

 そのスタンドで補給がてら休憩しようと、ユーミはハンドルを握り直し、道の先を見つめた。


(もうすぐ北極星だ。)


 しばらく走るとスタンドはすぐに見つかった。何もない道路沿(どうろぞ)いにポンッと建物を置いたのではないかと思えるような(たたず)まいだ。

 ユーミは減速(げんそく)してゆっくりスタンドへ入ると、補給機の近くに止めた。それと同時に建物の中から出てきた店員が(おだ)やかに注文を聞いてくる。

「どうしますか?」

「きらきら満タンで。」

「きらきら満タンですね。ありがとうございます。」

 店員は注文を聞くと補給機からノズルを取り、四輪(よんりん)の乗り物の補給口に入れてレバーを引いた。トポポポポときらきらが補給されていく。

「休憩できますか?」

「中へどうぞ。」

 補給が終わると店員はユーミを案内してくれた。


 スタンドの中はカウンター席とテーブル席があり、メニューには数種類のドリンクの他に、トーストやパンケーキやドーナツなどが書かれていた。

「何か頼まれますか?」

「コーヒーをお願いします。」

「かしこまりました。」

 店員は流れるような作業でコーヒーを作り、ユーミの前に置く。

「北極星を見に行かれるんですか?」

「分かりますか?」

「ここにいらっしゃる方は、たいてい北極星が目当てなので。」

「そうなんですね。私も一度は北極星を見たいと思ってたんです。」

「その価値はあると思いますよ。」

 店員の受け答えにユーミの心はほぐれ、会話が続いた。

「北極星を見に行く人は多いですか?」

「そうですね。ほとんどの方はツアーですけど、個人の方もそれなりにいますよ。おかげで、こんな辺鄙(へんぴ)な所でもお客さんが来てくれます。」

 そして店員は「よろしければ、どうぞ。」と言って小さなブラウニーケーキをサービスしてくれた。

「直接見る北極星は違うって良く言われますけど、本当ですか?」

「そう思いますよ。」

「どんな感じなんですか?」

 ユーミの質問に店員は少し考えてから思わせぶりな事を言った。

「見る(たび)に違いますね。」

「どういう事ですか?」

 驚いてユーミは聞き返す。

「どう説明すれば良いんでしょうか……見る時の気持ちによって元気をもらえる時もあれば、(いや)される時もある。楽しい気持ちや、優しい気持ち、(なや)みや不安が消えて心が(おだ)やかになる事もあるんです。」

 ユーミは不思議に思いながらも期待が(ふく)らんでいった。

「だからあなたの見る北極星は、きっとあなただけの特別なものになりますよ。」

「楽しみです。」


 その後も北極星について色々と話した後、店員は少しだけ注意する場所があると教えてくれた。

「この先にトンネルがあるんですが、今、そこの照明が壊れてましてね、真っ暗なんです。」

「え!?」

「心配なさらなくても、きらきらを照らしながら、ゆっくり進めば大丈夫ですよ。」

 ユーミの心配に気付き、店員が丁寧(ていねい)対処(たいしょ)方法を説明してくれたので、ユーミもすぐに落ち着いた。

「分かりました。気を付けます。」

「そのトンネルを抜けると北極星はすぐそこですよ。」

 ユーミがスタンドを出る時、店員は道まで出て見送ってくれた。

「いってらっしゃい。北極星を楽しんで下さいね。」

「ありがとう。行ってきます。」


 ユーミは四輪(よんりん)の丸い乗り物を走らせた。

 しばらくすると前方に山が(せま)ってきた。山にはトンネルがあり、新しめの看板が目立(めだ)つように立っている。

『この先、真っ暗!きらきら点灯!』

 看板の文字を見て、店員が話していた場所だと分かった。

「ここが例のトンネルね。確かに真っ暗だわ。」

 ユーミはきらきらを()けると、スピードを落としてノロノロと前進した。

 真っ暗な中をきらきらが照らし、優しい光が(おび)のように()びて道になっていく。トンネルは方々(ほうぼう)分岐(ぶんき)していたが、何故か行くべき方向が分かった。

(不思議。迷う気がしない。)

 ユーミが真っ暗な中を慎重(しんちょう)に進んで行くと、(さき)の方に蒼白(あおじろ)い光が見えた。それを目印(めじるし)にまっすぐに進む。

(出口だ。)


 トンネルを()けると、そこは(ほし)の世界だった。


 北極星が北の(そら)の真ん中で優しく強い光を(はな)ち、(まわ)りの(そら)()めるように星々が輝いている。別世界のその光景に、ユーミは思わず四輪(よんりん)の丸い乗り物を止め、時間を忘れて(そら)を見上げた。




 数日後、北から走ってきた四輪(よんりん)の丸い乗り物がスタンドに入ってきた。

「こんにちは。」

「ああ、この前のお客さん。」

 前と同じように店員が(おだ)やかに(むか)えてくれる。

「どうでした、北極星は?」

「とても素敵でした。」

 ユーミはスタンドの中でコーヒーを飲みながら、店員相手に北極星について話した。


 北極星は四方八方(しほうはっぽう)に光を放ちながらプリズムの七色ように変化しながら輝き、星たちは北極星を中心にクルクル回り、まるでダンスをしているようで、見ている内にいつしか自分も星の一つになり、北極星の周りで踊っている気持ちになった。

 宿の部屋にいる間も窓から北極星と星たちが見え、いつも星空の中にいる事ができ、星の光は心を優しく満たしてくれた。


「そういえば、ここのきらきらも北極星の光を使ってるって聞きました。」

 ユーミの言葉に店員がすぐに反応する。

「はい。北極星の光の結晶(けっしょう)を加工して作っています。」

「だからあの真っ暗な中でも、道に迷わなかったんですね。」

「ええ、その通りです。」

 店員が(ほこ)らしげに答えるのを聞いてユーミは微笑(ほほえ)んだ。

「思い切って北極星を見に来て良かったです。」

「それは何よりです。」


 ユーミは美味しいコーヒーを飲んで休憩すると、四輪(よんりん)の丸い乗り物に戻った。補給機の方へ移動すると、店員が(おだ)やかに注文を聞いてくる。

「今日はどうしますか?」

「きらきら満タンで。」

「きらきら満タンですね。ありがとうございます。」

 ユーミはきらきらを満タンにすると、南に向かって出発した。


おしまい。

お読み頂き、ありがとうございます!

「きらきら」が何なのか具体的に決めていません。皆様のご想像にお任せします。雰囲気を楽しんで頂けたら幸いです。

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