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義妹が出来たその日から  作者: Nanomu
蒼井優:出会いは突然に

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7/8

約束

さきほど見た景色が脳裏によぎりながらも、作業は順調に進んでいた。

割合でいえば俺4割、糸瀬さん6割ぐらいで天才補正をつければ多分同じくらい。

いつ掛けたかは知らないが、壁の時計は7時32分を回ったところ、1時間ちょっとこの部屋で作業をしていたらしい。


「1時間」と言われれば少なくとも長いと思う人がいるかもしれないが、そんな人には是非この部屋のBefore/Afterを見て欲しい。


段ボールと青い名前の分からないの何かに包まれた家具で埋まっていたこの部屋を、2人ながらたったの1時間で片付けてしまったのだから。


東に向けて隅に置かれた勉強机と、その横に置かれている参考書と芥川賞、直木賞を取った本が並べられている本棚。


ドア横の壁に沿って置かれたベッドと、机と反対側にあるクローゼットに綺麗に収められた衣類。


そして窓には紫無地のカーテン。


1つコツを教えただけで難なくこなしてしまう聞一知十な彼女が羨ましい。


さりげなくベッドに置かれた2つのぬいぐるみがギャップを感じさせる。


勉強ができる×女の子の式をイコールで成立させることができている部屋だ。


「うまく片付いたね」

「ありがとう、協力してくれて」

「別にいいよ」


この部屋で糸瀬さんが生活すると思うと少し生々しく感じられてしまうのが痛い所だが、次第にそんな事も消えるのだろう。


深く探ろうとは思っていなかったが、残りがないか部屋をあちらこちら見ていると机の隣にまだ片付いていない小さな箱を見つけた。



「あれ...糸瀬さん、これは?」


俺が気づくと微かに焦ったような顔を見せたかと思えばこちらに近づいてくる。


「中、見た?」


俺から箱を取り、睨みつけるような凄い気迫で尋ねてきた。


「いや見てないけども...」


「そ、ならいいけど」


糸瀬さんのことだから、きっとろくでもない物が入っているわけではないだろうが、かと言って女子の私物を見たがる男という悪趣味な名がついても嫌なので深追いはしなかった。



小箱をクローゼットの上部分においてベッドに腰を降ろす。


ポンポン、と手で軽く叩き隣を誘導してきたので、ある程度の距離を保った状態で意味的には「隣」である場所に座る。


座ったことを見て、こんなことを聞いてきた。


「蒼井さんはさ、お父さんに幸せになってほしい?」


思いもよらない質問に少し驚いた。


「それはもちろんそうだね」


「だよね」


どうやら互いに考えてる事は同じらしい。


感謝を伝える一環として高校生ほどにもなれば誰しも少しは考えるだろうが。


「私、前に頼らないでって、言ったと思うんだけどそれとは別で1つお願い、というか約束してもらってもいいかな」


「約束?」


「お互いの利益の為に動くってこと」



一瞬、それって結局何が違うの?と思ったが、直前にした話の内容からして大体言いたいことは分かった。


「なるほどね」



俺が理解したかのような発言をすると、糸瀬さんが少し驚いた。


「流石だね、やっぱり頭良いんだ」

「理数科だけどね」


ふふ、と糸瀬さんが笑う。

高嶺の花の存在でありながらも可愛らしい笑顔を近距離で見れてしまうという矛盾が生じた瞬間。



「そうだったね」



クールで賢さ溢れる表情と口調が、気持ち柔らかくなって、家での糸瀬千歳という存在に少し触れられた気がした。



「足並みを揃えて頑張ろうね」

「互恵関係だね、少し難しいけれど」


新しく交わした約束を論理的に表現すればこうなる。

自分自身も本自体は結構読んでいるから、表現方法に関してはまあ長けているほうだと思う。


お互いに育ててくれた親への感謝として、という思いを持ち、そのうえで頼る頼られるの話とは別に関係を築こうという妥協案。


普通でいて何気ない会話のワンシーンだが、自分の思考というピースに当てはまる型があったのは久しぶりだった。



ある一定の関係を築いてきた人間同士であっても納得、または同じようなことを思っているように見えて本当はそんなこと無いなんてことは沢山ある。


もちろん、そんな事は口に出さないし、後で誰かに言うなんてこともしない。


ただその場の成り行きで弄りを続けたり、誰かの悪口をおふざけで言ったり。



レゴブロックが端と端だけで繋がって作れるように、自分の思う考えから少し離れているものだったとしても人間関係は作れてしまう。


―――そんぐらい分かるでしょ、友達なんだから。


こんなこと言われたところで他人の頭の中なんて覗ける訳がないのだから、何で分からないの!とか言ってくる輩の気が知れない。


完全に互いを分かり合うことは不可能だ。


だが、知り合うことは出来る。


何が好き、趣味は何、好きなことは〇〇、〇〇は嫌。


情報を交換し、互いを知り合えば自然とそれが安心へと繋がっていく。



「誰とでもこんな風にできたら良かったんだけどね」

「中々難しいね、それは」


価値観を共有するということは相手を信用することでもある。


俺はともかく糸瀬さんは人間不信であるがために互いの利益のために動く俺とは違って、他の人とはまずこんなことできないはずだ。




こうしたら怒るから。そうしたら不快感を与えるから。


知ることによって悪い結果を免れることが出来る。それは間違いない。




だが、


行動しないというのも方法の1つであることを彼女は分かっていた。


あくまで相手の為に動くというのは相手を思っての行動であって、よりよい関係を続けたいと思っているからである。


つまり、関係を持つ必要がないと思っている人からしたらどうだろうか。


「相手」という存在がいないために、考える必要がない。

波線を引くのではなく、直線を引くようなイメージ。

他人に流されず、思いを突き通す。



複雑に交差し合う感情という線が、社会という面と絡み、選択という球に飲み込まれる。


外では丸く収まっていても問題が素直に解決している訳では無い。


「最初の方は私も頑張ったんだけど、上手くいかなくて今クラスの友達一人しかいないんだ」


「それはまた随分と...」


いかにも上から目線で見下しているかのような自分自身の発言だが、幼馴染と先輩を抜いて友達と言えば男女1人ずつなのであまり人の事を言える立場ではない。


彼女がこれからまた友達を作っていくかどうかは知らないが、一人だと言った時の彼女は「まあ仕方ないんだけど」とでも言うような分かりきったどこか寂しげな表情をしていた。



「まあそれはそれとして、蒼井くんが家事として得意なこと、何かある?」


パチン、と思い出したように拍手を一回して、共同生活をしていく上で結構大切になってくるであろうことを聞いてきた。



「まあ洗濯...は分けないといけないし、掃除...もプライバシーが、買い物...も分からないし、料理かな」


「そんなに悩むんだ」


自分としては同居する糸瀬さんたちのために、出来るだけ不快にさせないようにするべきだと思い、比較的危ないのは避けたつもりだったのだが、少し悩み過ぎたか。



「私、別にシャンプーとかも気にしないし、下着なんてただの布切れでしょ。母さんもそう思ってるよ?」


もし仮に相手がいいよと言ってくれたとしても高校生女子の下着を当たり前のように目にするようになったら思春期童貞男子として危機感を覚える。



「じゃあ料理は何ができるの?」



「カップラーメン...あと焼きそば?まあ大体弁当だったからね。パンは焼けるよ」


それを聞くと糸瀬さんは少し引き気味に言った。


「それは...ちょっとやばいね」



父が腕っ節でありながら、料理に興味が無いものですみません...







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